クマのいる”庭園もまた一幅の絵画である”

うっす。旅クマ、ころすけです。
引き続き、リンくん&リンママちゃんの旅のお伴をしてます。

晩秋の3泊4日の旅程、2日目の今日は、この旅いちばんの目的地、シマーネ(島根)は安来(やすぎ)ある、足立美術館という場所にやってきたよ。

「次もし旅行行くならさ、足立美術館へ行ってみたいんだけど。」

リンくんがリンママちゃんにそんな話をしたのは、何年前のことだっただろう?少なくともコロナっちゃんが流行るそれよりも前だったから、少なく見積もっても5年越しくらいになる、と思う。

時折テレビで紹介されたり、ネットの旅行情報で取り上げられているこの場所。島根県の観光地といえば出雲大社、というイメージが強いと思うけれど、安来という、鳥取県の米子と隣接する、島根県のなかでも東端の町にある。安来節というどじょうすくいの民謡で有名な町でもあるんだってさ。 

それでね。足立美術館というのは、日本一の庭園を擁する美術館ということで有名になったそうだ。ミシュランガイドほにゃらら、でどーのこーの、あ、詳細はあとでリンくんがちゃんと調べるけれどね、おれが知っている限りでは、そういう話で外国人にも人気のある、知る人ぞ知る観光スポットなのだ。*

そんな旅行先の話をしていた当時は、まさかコロナっちゃんが流行して外出が難しくなるだなんて思ってもみないし、そもそもリンくんはまだカイシャインをしていて、なかなかお休みに融通を利かせられなかったりして、島根ってなかなか遠いしね・・・、と躊躇していたんだってさ。けれどね、5年経ってみて、リンママちゃんもリンくんも年を重ねて、いつまで一緒に旅行に行けるかわからないしね、ってことで、ようやく、”リン旅行社”による足立美術館への訪問が実現したんだよ。

前日は美術館にほど近いお宿に泊まって、早々に朝食を済ませてコーヒーも飲まずにチェックアウトしてきた。朝8時20分、宿で前もって買っておいたチケットを握りしめて美術館の入口へと向かう。まだシャッターが閉じられているにもかかわらず、すでに10人ほどのニンゲンが開館を待っていた。おそらく我々と同じく、美術館に隣接するいくつかの宿で前入りした人たちだと思う。

ワクワクが止まらず、さっそく建物の外観を撮影しはじめるリンくんとリンママちゃん。

「ころすけー、ちょっとさ、そこの入口の石の横立ってみて?」

「ン?あぁ、はいはい。」

カシャ。カシャ。

おれみたいな小柄のおっさんグマが、こんな美術館の入口で記念撮影をしているのだから、おどろかれても当然かもしれない。しかも旅じたくよろしく、ハットをかぶってシルバーのアタッシュケースを持っているしね。続々と集まってくるニンゲンたちを横目に真剣に撮影をしていたら、白髪まじりのジェントルマンに微笑まれた。

“足立美術館エントランス”

係の人がシャッターを開け、入場案内を開始した。本来の開館は朝9時、だけれど、周辺のお宿の宿泊者には特別に30分早く入れる特典があるんだよ。

「いやー、一足お先に入れるのありがたいよね。」

「そうねぇ。あ、音声ガイド借りましょうよ。」

リンママちゃんとリンくん、首からいくつものストラップを下げて、館内へと足を踏み入れた。音声ガイドの青いストラップに、白いイヤホン(イヤホンもコードタイプなのだ)、それからデジカメにスマホに、さらにリンママちゃんは老眼鏡のチェーンまで。ついでにマスクをつけたり外したりするものだから、ふたりとも、いろんな紐にがんじがらめになっている。

「ニンゲンってなんだか大変なのなぁ。」

おれはクマだし、できるだけ身軽に生きていたいほうだから、そんなふたりを見て、あーぁあぁ・・・とちょっと残念な気持ちになった。

そんなこんなで入場すると、さっそく大きなガラス窓越しに中庭が見えてきた。日本一の庭園とやらがこれから始まるらしい。

「・・・ほぅ!」

おれの第一声はというと、コトバにならなかった。

“大きな窓ガラス越しに枯山水庭を臨む”

日本庭園というものは、多分これまでの人生、いやクマ生のうちで、何度かは見てきたと思う。覚えているところでいうと、兼六園とか、六義園とか、偕楽園とか、ね。

だけれども、おもしろいことに、そのどれとも明らかに違っているんだ。

切り取り、なんだな、と直感的に思った。360°のパノラマで、その庭の「中」に身を置いて体感できるのが、おれがこれまで知り得てきた日本庭園だとすると、この足立美術館の庭園は別物だった。あくまで自分はこの世界の「外」にいて、目の前に広がる景色は、切り取られた枠の中の小世界を眺めているような、そんな気がした。リンくんが耳にしているイヤホンの音声ガイドによれば、枯山水、とは実際の水を流すことなく砂を使って水流を表現する手法の庭を言うらしいけど、たしかに、ココに静かな池があるように見える気がした。

「あぁ、もしかすると、京都の寺院の庭園とかに近いのかも?ねぇ」

リンくんが小さい声でつぶやいた。

無駄な線を削ぎ落として、汚れも穢れも排除した静かな景色。美術館の庭園、という意味が少しわかった気がした。一区画ごとに美術作品のようになっているにもかかわらず、季節や天候で刻一刻と姿を変えて二度と同じ様子は見られないのだ。開館が昭和45年(1970年)ということだから、もう50年以上かけて作品をメンテナンスし続けて新しいものを創り続けている、そんなものすごい壮大な規模の芸術を目の当たりにすることができた。

まだ早朝の時間だったからか、庭師たちが木々の手入れをしている姿も見える。

「そうかぁ、彼らは、芸術家なんだね。」

“ここでは庭師は芸術家である、と思う”

日々この庭を手入れするということは、キャンバスにどんどん絵の具を塗り重ねていくような、そんな作業なのかもしれない。しかも相手は自然。今日はとっても穏やかな秋晴れで風もないけれど、嵐の日もあるだろう、雪の日もあれば、今年の酷暑も乗り越えたに違いない。もし大風にあおられれば、繊細に整えられた木々も枝を折ってしまうかもしれない。常に変わり続けている。

おれは、妙に納得してしまったのだった。

“春夏秋冬、それぞれの表情があるようだ。ポスターもステキ”

おれがぼんやり庭園を眺めていたら、リンくんがカメラを向けてきた。

「ころすけ、庭園を散策するおっさんグマ、やってよ。」

「ハァ。またモデルですか。あいよ。」

“白砂青松庭。水のある風景は落ち着くよね”
“茶室越しの窓、向こうの庭が切り取られて見える。まるで絵画のよう”
“おっさんグマだからこそわかる、日本庭園の奥深さ”

おれは庭園に背を向けて、アッチコッチの角度で撮影をされた。正直、写真に収めるにはこの庭園は雄大すぎる。目で見て、体感して、そのすごさがわかるんだと思う。
だけれど、リンくんってばおれを撮ることに熱中している。

「リンくーん、そろそろいいでしょ?おれ、ちゃんとお庭を楽しみたいんだ。それに、かなり人が増えてきたし。」

時刻はすでに9時を回っていた。ふと周りを見ると、ガヤガヤと話し声の大きな団体さんがやってきた。旗を振り、引率する制服のお姉さま、黒のエナメルのプラットフォームハイヒールがちょっと懐かしい雰囲気。そう、バス旅行の添乗員さん、いわゆるバスガイドさんのようだ。

「あら、もうそんな時間。バスツアーもこんな朝イチで来るのかぁ。」

リンくんは状況を理解したみたいで、ようやくカメラをしまった。

「ねぇ、そろそろ、横山大観を観に行きましょうよ。最後まで見られなくなっちゃうよ。」

リンママちゃんにも促されて、お庭エリアから美術品の展示室へと移動した。

この足立美術館、日本一の庭園として話題であるとともに、日本画の大家、横山大観の作品をたくさん所蔵していることでも有名なのだそうだ。

すったかすったか。すったかすったか。

杖をつきつつも、せっかちで早足なリンママのあとについて、おれたちは、大観先生の作品たちが待つ部屋へと歩みを進めたのだった。バスの団体さんの波からできるだけ離れるべく、音声ガイドのイヤホンで雑音をシャットダウンできたのは幸いだった。

ほの暗い展示室には、優美で力強い筆使いと鮮烈だったり優しかったりといろいろな表情を表現する色使いを楽しませてもらうことができた。

「おれ、この海の絵好きだなぁ。」

「私はこの青い獅子が好き。」

もそもそと感想を言い合うおれらの横で、リンママちゃんもフムフムと楽しそうに作品を眺めていた。

あ、そうそう。
ぶっちゃけた話ね、リンくんはこの足立美術館、庭園を楽しむことをメインで考えていたらしい。だから、大観先生やその他日本画の素晴らしい作品を見られたのは、想定以上の有り難いおまけだったんだって。このことは、おれとリンくんとの間の秘密ね。

うふふ。

まるまる2時間半ほど楽しんだあとは、11時半のシャトルバスで安来駅へ送迎してもらう予定になっていた。

バス停でリンママちゃんを待たせている間、リンくんはお宿へ預かってもらっていた荷物を受け取りに行ったのだけれど、そのとき。

「ン?」

ポツリ、ポツリ。ポッポッポッポッ・・・

「うわうわうわ!にわか雨ー!」

上空は青空、だけれどほんの一部に黒い雲。駐車場のコンクリートがあっという間に水玉模様になっていく。急いで、リンママちゃんのスーツケースとリンくんの自分の荷物を抱えてバスの待合室へ入る。

“安来の空、昨日も青空だった。黒い雲が雨粒をもたらした”
“駐車場のコンクリートがあっという間に水玉模様になっていく”

あの美しいお庭の砂にも、雨粒のあとがついているのだろうか。
耳をそばだてると、池の上で飛び散る音が聞こえるのだろうか。
奥庭園にいた鳥たちは、鳴くのをやめて隠れただろうか。
松のふもとに植えられた苔は、みずみずしく美しい緑をみせてくれるだろうか。
もし次に来ることがあったら、しとしとと雨の降る庭園を見てみたいものだ。

「庭園もまた一幅の絵画である」**

いい言葉だなぁ。

小さなバスの中、満員の観光客のニンゲンたちの間でギュッと小さくなって、おれは帽子をかぶりなおした。

ころすけ

“秋晴れの空のもと、無駄な線を削ぎ落として、汚れも穢れも排除した静かな景色”
“おまけ。うちのリンくん、苔が大好き”

*フランスの旅行ガイドブック『ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン』で 三つ星評価を取得したそうです↓↓↓
足立美術館 (島根県安来市)
https://www.adachi-museum.or.jp/

**「庭園もまた一幅の絵画である」
https://www.adachi-museum.or.jp/garden

足立美術館 創設者 足立全康 氏

※Rin注: 兼六園や偕楽園、六義園は、廻遊式と呼ばれる庭園の方式なのだそう。一方で、寺院の中にある庭園などは、鑑賞式(座観式など)と呼ばれます。足立美術館の庭園についてはいちばん有名なのはガラス越しに見るエリアなので、後者にかなり近い印象でした。
でもね、一部は歩いて見て回ることのできるエリアもあって、庭園の中に身を置いて感じるといったような楽しみ方もできます。枯山水(水がなく砂で水流を表現する庭)もあれば、池のある庭もあって、広い中にも「切り取り」方次第によっていろいろな姿を見ることができました。

ちゃんと日本庭園のこと事前に勉強してから行けば良かったー・・・!

参考↓↓↓
「日本庭園の基礎知識 まずは形式・分類を覚えよう ~ 「○○式庭園」って何?」 トラベルjp
https://www.travel.co.jp/guide/howto/43/

安来市観光ガイド 公式ホームページ
https://yasugi-kankou.com/

「妖怪になにか用かい?」
https://bobingreen.com/2023/10/25/6689/

「旅帰りころすけからのお知らせ」
https://bobingreen.com/2023/10/28/6727/

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Rin(リン)

ぬいぐるみブロガー、Rin(リン)です。 ライオンのボブ家と愉快な仲間たち、そしてニンゲンのケンイツ園長と一緒に、みどりキャンプ場で暮らしています。 ボブ家の日常を、彼らの視点でつづっていきます。

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