おいしいものにはトゲがある
カンカンカカーンカンカカーン!
ぬおぅううう!キャーン!カーン!
シクシクシクシク・・・
オケツが痛む、スイーツ番長、勘九郎でっす・・・。
ある秋晴れの気持ちの良い日。秋の味覚を祝う舞を踊っていたら、悲劇がわっしを襲った。
いもくりなんきん!いもくりなんきん!
秋のスイーツに欠かせない、いもくりなんきん!
いも!
くり!
なんきん!
イェーイ!カンカンカカーンカンカカーン!
パタパタパタパタ!
・・・グサッ!
キャーン!カーン!
あイタタタタ・・・
目の前の美味しそうな秋スイーツを前に、はしゃぎすぎてしまったらしい。
わっし、飛べもしないペンギンなのに、羽根を羽ばたかせて、ひとつ大きくジャンプをした。
すると・・・
そこには、いがいがのいがぐりがひとつ。
カラダじゅう茶色いトゲトゲがいっぱいついていて、まるで敵意むき出しだ。
うっはっはっは。
おいそこのペンギン。オレはいがぐり番長だ。食えるもんなら食ってみな!
ヒィーーーー!ごっごめんなさぁいー!
パタパタパタパタ!
いがぐりの凄みにひるんでしまったわっし、もひとつジャンプをして後ろに逃げようとしたら。
・・・グサッ!
キャーン!カーン!
うぅぅぅ。シクシクシクシク・・・
ほうら、どうしたどうした。おまえさん、スイーツ番長なんだろ?このいがぐり番長を倒せるもんなら倒してみな!
イヤッイヤッ!わっし、ケンカはキライです。ケンカ、全然無理。ごめんなさい。ごめんなさい。
ほぉん。そんなでよく番長って名乗ってるのな?
あーっと、えーっと、スイーツ番長ってのはぁ。リンくんが勝手につけた肩書でしてぇ・・・。
ヒィーごめんなさいーってばぁー!
パタパタパタパタ!
・・・グサッ!
ぐぬぬぬぬ。もうオケツが痛くて、わっし、しばし悶絶。
いがぐり番長さん、いがぐり番長さんは、どしてそんなにトゲトゲなの?
ん。スイーツ番長に負けないためさ。
ヒィー!だからぁ、わっしはケンカなんてしないんですよ、そんな強力な武器を用意しなくたって、わっしは何もしないですよぉ。
そうか。じゃあ、私はトゲトゲを脱いでみよう。そしたらきみはどうするかな?
はい、仲良くできます。もうオケツを攻撃するのはやめてほしいです。
うむ。いいかい。オレは何も攻撃してないんだよ。きみが逃げまわって勝手にジャンプして飛び込んで来ただけじゃないか。オレはね、自分から何もできないんだ。ここにたたずんでいるだけで、誰に勝とうとも思ってない。負けないようにだけしているんだ。それなのに、スイーツ番長だとかなんとかいってはなうたを歌いながら呑気にやってきたのは、勘九郎、きみだろ。
わっしは、自分の無防備さと無知にカァっと脇の下が熱くなるのを感じた。
両羽根をぴっとしして気をつけの姿勢をしてから、きっちり90度頭を下げて、謝った。
確かに、そうでした。いがぐり番長、見た目で怖い人って決めつけて、ごめんなさい。
1・・・、2・・・、3・・・。
3秒きっちり数えてから顔を上げると、そこには、美しく整った四角いかたまりがあった。
ん?いがぐり番長、どこ?おーい?ゴメンってば。もうちょっとお話しようよ?
呼んでも返事はなかった。それどころか、目の前のかたまりは、わっしの目の前に迫ってきて、わっしは我慢できなくなって、ついつい、のどを鳴らしてしまった。
ゴクリ・・・。
マットな表面の小豆色のようかんの中に、温かみのある淡い黄色の栗が入っている。これは紛れもなく、秋の味覚の、秋スイーツの代表格。栗むしようかんだ。しかもこれは、香料や着色料モリモリの瓶詰めの栗の甘露煮ではない。ホンモノの栗だ。
ゴクリ・・・。
つばを飲み込む音がバレないように、小さな声でもう一回声をかけてみた。
なぁなぁ。いがぐり番長、一緒に食べようよ。
・・・。返事はなかった。
そっか、まさか、いがぐり番長が栗むしようかんは食べるわけないね。
秋の味覚。待ちに待った、秋スイーツの王様。栗むしようかん。
いがぐり番長が大事に守ってた栗なんだ。
秋の恵み。オケツを三度もトゲに刺されたけど、それでよくわかったよ。
わっし、スイーツ番長として、ありがたくいただくね。
わっしはゆるんだ喉元の蝶ネクタイを結び直してから、手を(羽根を)合わせて、いつもよりも丁寧に、いただきますをした。
いっただっきまーす!
オケツはまだヒリヒリするけれど、ひとくち含むと、栗むしようかんは、甘くて優しくてねっとりとしていて柔らかな味がした。
秋晴れの空の下、森の中を散歩をするときは、必ず思い出すようにしよう。
おいしいものにはトゲがある、ってね。
キャーン!
勘九郎