モォーモォー 牛窓海岸で日の出を拝む

てんてけてん てんてけてん てんてけてん・・・
てんてけてん てんてけてん てんてけてん・・・

目覚ましが鳴ったのは朝5時だった。分厚い遮光カーテンに閉ざされた窓からは一切の光が入ってきていないが、とりあえずよっこらせとカラダを起こしてみる。

「ころすけー、おいで!星がキレイだよ!」

リンくんの、なぜかくぐもったかすかな声が聞こえた。ン?窓の外からだった。

どうやら、もう先に起きていて、ベランダにいるらしい。

うっす。旅グマころすけでっす。

ふぅー。ようやくの4日目、旅の最終日を迎えたぜ。(ここまで日記を書き上げるのにどんだけかかってるんだよ、リンくん!っていうぼやきはまた別の機会に。 → 「おっさんグマのぼやき」)

オカヤーマ(岡山県)は瀬戸内市、牛窓という町にある海沿いのお宿に泊まった我々一行。リンくんとリンママちゃんとおれの3人旅もいよいよ佳境を迎える。

「あれ?ころすけ、起きたでしょ?おいで!」

「ンー?起きたぁ。おはーに。何?」

おれがカーテンをめくって窓ガラスをよっこらせと開けてホテルの部屋付きのテラスに出ると・・・まだ、全っ然夜明け前だった。

「外まだ真っ暗じゃん!散歩には早くないか?」

「あぁ、まぁもうちょっとしたら明るくなると思うけどね、今のうちだよ!星!オリオン座、見えるよ!」

どれどれ?と手すりによじ登り、空を見上げると。

“早朝5時25分。手すりによじ登り、空を見上げる”

うわっ!ポチポチと小さな光の粒が、闇夜のなかで無数に輝いていた。オリオン座、っていうのはチーバでも見えるし、星座の形はよく知っているつもりだったけれど、その既知の形がわからなくなるくらい、点と点の間に点点点点点、があった。

「おぉっ!オリオン座って、ホントはこんなにいっぱいの星でできてるのな?」

「そういうことみたいだね。いやいや、初めて見た。びっくり。」

そう言ってリンくんはカメラを取り出し、星空にレンズを向けた。精一杯、シャッタースピードを開放して息を止めて、手ブレしないようにと、何度かチャレンジした。

てんてけてん てんてけてん てんてけてん・・・

まるでリンくんのスマホのアラームがまぬけに歌い続けるように、てんてこてん(点点点)がたくさん瞬いていた。

結果、30秒手持ちで開放して撮れたのがこの一枚だってわけ。ン、結構ちゃんと撮れた気がするだろ?

“オリオン座も大三角形もくっきり!”

「なぁ、それでさ、おれらは日の出を見るために起きたんでしょ?それで近所の神社までお参りしに行くって話だったじゃない。」

「そうです、そうです。今が5時半でしょ。日の出は6時19分頃みたいだから。ぼちぼち着替えてさ、6時くらいになったら出ようかね。」

「うっす。うー・・・さびさび。」

この時間の、海を一望するテラスは本当に冷える。おれはひとつ身震いをして、部屋の中へ戻った。

6時すぎ。部屋でお留守番するリンママちゃんに見送られて出発した。

まだ誰もいないホテルのエントランスを抜けて、おれとリンくんは牛窓の町探索へ出かけた。目的地は、牛窓神社だ。どうやらGoogleさんによる事前情報では、高台になっていて、途中の展望台から海を見渡すことができるらしい。

旅行中なのでちゃんとした装備は持っていないけれども、リンくんはジョギングくらいはできる簡易的なスポーツスタイルで、おれは背中のリュックに背負われた。道中、一緒に突っ込まれたお茶のペットボトルにガンガンあたりつつ、リンくんはぐんぐんと海岸沿いを小走りしていく。

みゃぁぁぁぁぁっ
みゃぁぁぁぁぁっ

漁船がウミネコを引き連れて過ぎ去っていく。

ひぃぃぃぃよ
ひぃぃぃぃよ

ヒヨドリ?いや、リンくんがカメラでズームして見たら、イソヒヨドリだった。やはり海の町だ。

“早朝の牛窓の海岸沿い”
“民家の瓦の上にとまるイソヒヨドリ”

早朝の牛窓港はそこまで活気にあふれているというわけではないのだけれども、妙にクルマが隊列をなしている場所を通過した。

「ン?なんだろ?」

前島という離島へ渡るための、フェリー乗り場だった。朝一番のフェリーに乗るために待っているクルマの列なのだ。ホテルのテラスから眺めているときにはあまりに目の前にある島だから、ドコかで陸が繋がっていて歩いてでも渡れそうな雰囲気だったけれど、やはり違うらしい。前島にも観光スポットがあるらしく、手軽に行き来できるとのことだった。今回はチャンスがなかったけれど、もし次に牛窓に滞在することがあったらぜひ行ってみたいところだ。

できるだけ海岸線沿いを選んで、ひたすら小走りしていくリンくん。その度におれはゆっさゆっさと背中で揺られる。この3日間ごちそうばかり食べてきたものだから、ここぞとばかりにカロリー消費をしたいらしい。

「これより造船の町、東町」という看板を横目に、民家の間を抜けていく。時折すれ違う地元の人に、おはようございまーす、とさわやかぶって挨拶をする。怪しい者ではないんです、というアピールのつもりらしい。

ホテルを出てから、走ったり止まったり歩いたりで、約30分。ぱっと開けた場所に出た。牛窓海岸だった。ココは海水浴場らしいから、夏になるときっと海水浴客で賑わうのだろう。
今朝はというと、長靴を履きぽつりぽつりと釣り竿を垂らすお兄さん、オッサンが数名。それから、場違いなくらいちゃんとおめかしをして、妙にはしゃいでいる20代前半くらいと思しきふたり組の女子がいた。

「おっ!女子発見。」

「はぁー。ころすけはおっさんだぁねぇ。」

本来ならそういうやり取りになるはずなのだが、我々の場合は違う。リンくんはかわいらしい女子にすぐ反応するのだ。

「わっ!女子発見。」

「はぁー。リンくんはホントおっさんだなぁ。」

「えへへ。あ!ねぇ。もしかしてちょうど日の出じゃない?」

「あ!ホントだ!やばい、神社の展望台まで間に合わなかった!」

「いいじゃん、ここで眺めていこ。」

おれらは海水浴場の貝殻のかけらの混じる砂浜に腰をおろして、前島の端から昇る朝日を拝んだ。

徐々に、徐々に姿をあらわにする朝の光は、牛窓の穏やかな海面に道を作っていく。そのずっと先にいるおれらに向かって、まるで今日の生きる力を与えてくれるかのようだ。

おおげさだなぁって?

いんや。そんなこともないぜ。この海岸にいるのは、数人の釣り客と、映え写真を撮るべくはしゃぐ女子ふたり組と、それから、おれらだけだ。

夕日が黄色いのは知っていたけれど、朝日っていうのもかなり黄色いんだなぁってことに気がついた。おれのモサモサの茶色い毛が、少しだけ金色に輝くような、そんな気がしたんだ。リンくんの剛毛の髪の毛の、ちょっとだけ混じった白いものが、やはり金色に見えたのはナイショだけどな。

海岸で20分くらい日の出を眺めてから、ようやく神社へ向かうことにした。女子ふたり組の後ろ姿に、ココロの中でバイバーイ!と手を振った。近くを通って気がついたのだけれど、驚くべきことに、彼女らはブタさんのぬいを連れていて、一緒にぬい撮りをしていた様子だった。(ブタさん、といってもおれが知る限り、クレヨンしんちゃんに出てくるブタのキャラクターのように見えた。)リンくんは感動してしまって、思わず彼女らに話しかけそうになったけれど、絶対不審者だからやめたほうがいい、とおれは一生懸命諭して押し留めた。

「あのコたちもぬい撮り好きなんだよ、絶対!」

フン。何度も言うけど、おれはぬいじゃねっての。

“ブタさんのぬい撮り中?いや、リンくん話しかけちゃダメだって”

さて、海岸を抜けると思っていたよりも手前に鳥居はあった。「牛窓神社」立派な石造りの碑が立っている。さぁ、鳥居をくぐると、一気に階段をのぼる。話によれば、363段あるらしい。日常、エレベーターのない団地の5階で暮らしている我々としては、ちょっとやそっとの階段ではビビらない。ましてや今朝はリンママちゃんはお宿でお留守番しているから、リンくんだけが頑張ればいいんだ。よろしくな。とおれはリュックのなかでゆっさゆっさ揺られて上昇していく。

“海水浴場を抜けると牛窓神社への入口”
“牛窓神社 一の鳥居”

朝日を背負ってのぼるうちに、聞き慣れない音が聞こえてきた。

ぱり?カチ?

どんぐりが落ちて、石の階段に当たる音だった。あ、実際には疑問形じゃないぞ。だけど、ぱり?ともカチ?ともつかない、あまり聞き慣れない音色だったから、文字での表現に困る。

不規則に落ちてくるどんぐりは、不思議とカラダに当たることはないのだ。まるでおれらを避けて踏まれないように落ちてくるかのようだ。

“363段、上っていくよ”

途中、景色の開けた場所に出ると、そこが展望台のようだった。日は暖かさをもたらす。リンくんはこの旅行中でようやく出番となったヒートテックとアームカバーを着込んでいたのだけれど、アームカバーをおもむろに脱いで、リュックに雑にしまった。

そのとき、ちょうどチャイムが鳴った。朝7時を知らせるとともに、町の案内放送が流れる。

てんてれてんてれてんてててん

(老人会のみなさんにお知らせします・・・クラブの2階にて・・・◯月×日・・・親睦会を・・・行います・・・。・・・お集まりください・・・。)

なるほど。チーバの我が家の方でも防災やら光化学スモッグやらの放送はあるけれど、老人会のイベントを知らせる放送は聞かないなぁ。

さっき海岸から見ていた朝日は少しずつ高くなってきていて、海面の道は消えてしまっていた。町内放送なんて気にせずに鳴き続けるイソヒヨドリたちの声が、海岸沿いにいる気分を高めてくれる。

そこからラストスパート。「夢を語ロード」なる謎の木製の看板を横目に、階段を登りきった。

第二の鳥居をくぐると、急に厳かな雰囲気が出てくる。牛窓神社の創建は不明らしいが、本殿は1812年に再建されたものだとされている。ということは、200年以上前!歴史のある神社であることには間違いなく、この高台に位置し海を見下ろす立地にも、土地を護るという地域に根ざした信仰があるように思われた。

“牛窓神社 二の鳥居”

「あっ!ウシさん!」

「あ!ホントだー。ようやくウシさんに会えたね。」

モォーモォー
モォーモォー

手水舎でお清めを、と思ったら、なんと牛窓神社よろしく、ウシさんの口から水が流れていたのだった。

“手水舎にはウシさんがいらっしゃった!”

ペコッペコッ・・・パンパンッ・・・ペコッ

ふぅ。無事にお参りできました。あぁ日の出も見られたし、良かったなぁ。これでまずは無事にお宿に帰って、朝ごはん食べて荷物をまとめたら、さぁ、チーバへ帰ろう。

“牛窓神社 拝殿。200年以上前の建設なのだそう”
“牛窓神社 横から見た本殿”

拝殿の横に手書きの墨文字で見慣れぬ貼り紙がしてあったのが目に入った。

「ご参拝のみなさま、こんにちわ!!牛窓神社の宮司さんは、無類の話し好きでハートウォーミングな人物です。よろしければほんの少しでも、宮司さんと交流しませんか?愉快に笑えます(^^) 楽しい会話が弾みます(≧▽≦)・・・」

なんと絵文字まで入ってる!

うーん。ちょっと興味はあったのだけれど、残念ながらタイムリミットをとうに超えていたし、まだ朝の7時過ぎだったので遠慮することにした。

前島へのフェリーに続き、これまた牛窓でやり残したことができてしまったみたいだ。

“ハートウォーミング!こんな神社初めて…!”

そう、タイムリミット、勝手にリンくんが自分で設定したのは、「7時半くらいに部屋に戻るね」というリンママちゃんとの口約束だった。

「うわっ全然間に合わないよね。急ごう。」

リンくんはリンママちゃんへ「今神社出たところだから8時過ぎくらいになる、ごめんね」というコメントと撮れたてホヤホヤのおれの海岸での写真を添えて、LINEをした。

363段の階段を下り、来た道をもう一度引き返していく。帰りはほぼ小走りだ。ジョギング用のシューズではなく、お散歩お出かけ用のNEW BALANCEのスニーカーだから、足元が若干不安だ。それでも、いっそげー!朝ごはーん!と叫びながら(心のなかで)、おれらは宿へ戻ったのだった。

途中、街灯の上でトンビが鳴き続けているのを見て、やっぱり足を止めて写真を撮りまくっていたことはリンママちゃんには黙っておいたけれど。

ピーヒョロロロロロ
ピーヒョロロロロロ

“ピーヒョロロロロロ!トンビさん”

あーハラ減った!

早朝の牛窓海岸散歩、大成功でした!

ころすけ

瀬戸内市の旅 牛窓神社
https://www.i-setouchi.org/spot/10237

牛窓神社 公式ホームページ
https://www.jinja-net.jp/ushimado/index.html

ホテル・リマーニ
https://www.limani.jp/

「おっさんグマ おっさんブーに癒やされる」
https://bobingreen.com/2023/11/22/7084/

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Rin(リン)

ぬいぐるみブロガー、Rin(リン)です。 ライオンのボブ家と愉快な仲間たち、そしてニンゲンのケンイツ園長と一緒に、みどりキャンプ場で暮らしています。 ボブ家の日常を、彼らの視点でつづっていきます。

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