かえるさんとえかきさん
「やぁ、こんにちは。ボブこちゃん。はじめまして。」
「わぁ!かえるさん。こんにちは。ライオンのボブこです。お会いできて、とってもうれしいの。どうぞ、よろしくね。」
わたしたちは、どちらからともなく右手を差し出して、握手をした。だいだい色のかえるさんの小さな手の平は白くて、私の手よりも少しだけあたたかかった。
ライオンのボブこです。
今日はギンザにある、月光荘という老舗画材屋さんのギャラリーに遊びに来ているの。
かえるさんは、ニンゲンのTwitterを通じてのオトモダチでね。わたし、実は、かえるさんの”ちょこっと絵日記”の大ファン。リンくんと一緒にね、1週間に一度のツイートを、毎週とっても楽しみにしていて、ワクワクして読ませてもらっていたの。
リンくんに誘われたのは、昨日のことだった。
「ねぇねぇ。かえるさんに会いに行くよ。ボブこ、一緒に行く?場所はね、”ぎんざ”だよ。ギンザ、銀座、もしくはGINZA。どれでも、ボブこさんのお好きな”ぎんざ”をどうぞ。」
「エッ!ギンザ?いくー!わたしに似合うのはGINZAかしら?まだちょっと早いかしら、ギンザくらいにしておくわ。うふふ。」
わたしが返事をするやいなや、リンくんが他のオハナ(家族)のみんなに聞いてくれた。
「ねぇ、みんな。明日、ボブこさんとギンザまでおでかけしてきてもいーい?ギャラリーに行くからね、そんなに大きいバッグを持っていけないのよ。だから、みんなはお留守番だけどダイジョブ?」
「エーッ!んー・・・いいよー。ネーちゃんが行きたいんなら、仕方ないなぁ!おみや、よろしくねーぇっ!」
そんなわけで、あっさりとギンザおさんぽの権利は、わたしがいただいたというわけ。
ま、どっちみち、ニーさんやボブぞには、ギンザの街はまだ早いわね。うふふ。
そして今、わたしの目の前には、1冊のノートがある。大好きなかえるさんの”ちょこっと絵日記”だ。2022年の手帳で、見開きで1週間、絵とことばでその日のできごとがつづってある。
「わぁ!まさかホンモノを見られるとは!うれしい!!!わたしね、かえるさんの絵日記、大好きなの。見てもいーい?」
「どぉぞどぉぞ。」
そうやさしくほほえんでくれたのは、かえるさんのえかきさんだった。
お名前はしろがねみつきさん。みつきさんは、かえるさんと一緒に暮らすニンゲン。かえるさんの”ちょこっと絵日記”を描く、えかきさんだ。
シャツワンピースにはおった柄ニットのケープと、グレーのベレー帽がとってもお似合い!ギャラリーの白い壁を背に座っている姿はやわらかい空気をまとっていて、展示室の照明の色もあいまって、まるで色えんぴつで塗りこんだようにふんわりとしていた。
リンくんは木のスツールを引っ張り出して、わたしをひざの上に抱っこした。1ページずつ、食い入るようにながめる。
ごく細い黒のペン線画と色えんぴつでさまざまに彩られた、愛らしいかえるさんたち。
小さなイチニチと、小さなイチニチと、小さなイチニチ。それから、さらにあと4つの、小さなイチニチが集まって、7つのイチニチがそこにある。
1枚めくると、また7つの小さなイチニチ。もう1枚めくると、さらにまた7つのイチニチ。
イチニチの集合体のこの一冊には、かえるさんの人柄・・・あ、いや、かえる柄、がつまっている気がする。
「ねぇ、かえるさん。わたし、なんでかえるさんの絵日記が好きなんだろうって思って考えてね。多分だけど、かえるさんとは、なんだか好きなものが似ている気がするの。おいしいもの食べて日常を楽しんだり、きれいなお花をながめて季節を感じたり、空をながめてはその日の色を残しておきたい、と思ったりね。そういうところ。」
かえるさんは、ピカピカに黒く光った目でジィっとわたしのことを見て、口を開いた。
「フムフム。ボブこちゃんも、おいしいものや、お花や、空をながめるのが、好きなんだね。」
「そうなの。いつもリンくんと一緒に、おさんぽしたり、みどりテラスっていうまぁうちのベランダのことなんだけど、そこから空を見上げたりしているの。それから、おいしいものはなんでも大好きよ!あ、それからかえるさん、よくテレビ見てるよね?わたしもいつもテレビの前のソファにいるから、テレビにはくわしいのよ。」
「うふふ。そうなんだね。」
「それからね、それからね。絵日記に添えてあるちょっとしたことばの使い方も好きだなぁって。なんだか、リズムがここちいいの。不思議ね。」
「うんうん。」
「あ。ぴったりくることばを思い出したわ。共感するってやつね。」
「うんうん。」
「あ。それか、もしくは、感性が合う、とかニンゲンはいうのかしら。」
「フムフム。」
「ンー。このセンスも好きだなぁ・・・。」
どうしてわたしがかえるさんの絵日記にこんなにもココロひかれるのか、一生懸命ことばにして伝えようと思ったのだけれど、やっぱりどうもしっくりくるものはなかった。
わたしが少しことばに困っていると、かえるさんは、その長い手で首に巻いたマフラーをなおしながら、みつきさんに話しかけていた。何かを相談しているみたいだった。
(ゴニョゴニョ・・・)
「わたしたちが好きな曲があるの。絵のタイトルにもなっている曲なんだけれどね。ボブこちゃんももしかしたら好きかもしれないから、よかったら聴いてみて。それ、だよ。」
みつきさんはそう説明して、壁を指さした。それ、と言われたのは、わたしとリンくんが座っていた真うしろに展示してある一枚で、『ALMA』というタイトルだった。
とんがり帽子の男の子と雪だるまくんが手をつないで、月夜の光の道を歩いている。まっすぐに伸びる道を、一歩ずつ一歩ずつ。ふと見上げると、夜空はぐるりと円を描いている。果てしなく、小さなぼくら。だれが名付けたか、オリオン座がぼくらを見守ってくれている。だから大丈夫。
ぼんやりとそんなことを想像しながら、あぁ、そうだ音楽の話、と思いだして、ぐるりと周りと見回すと、『ALMA』以外にも、壁には額装された絵画が10点ほど。かえるさんの絵日記とは、画風は違えど、そこには、ひんやりとあたたかく、やみ夜の美しさを照らす月夜の世界が広がっていた。
「「ALMA」*は、プラネタリウムに行ったときに流れていた曲でね。あまりにも良かったから、調べてその一曲のためにCDも買ったくらい。さらに絵のタイトルになっちゃった。大好きなの。よかったら。」
「へぇ。そんなに!聴いてみよう。」
リンくんが、わたしの代わりにそう答えた。
そっとかえるさんのほうを見ると、かえるさんはニコニコと満足そうにしていた。
ぷっくりとしたその白いおなかに、ト音記号が映し出されていた。
(あぁ、かえるさんはうれしいとき、音楽が見えるんだね。わたしもかえるさんの好きな音楽を聴いてみるね。)
わたしもニコっと口角を上げて、かえるさんにお返しをした。
かえるさんがもうひとつニコ、と笑うと、マフラーに音符があらわれ始めた。それはすてきな柄だった。
わたしは、そっと耳をすませて、かえるさんの好きな音楽を聴く。そう、この曲を。
「ALMA」*
あなたの好きだと思う曲を、わたしも好きだと思えること。わたしの好きな曲だから、あなたももしかしたら好きかもしれないよ、と言ってくれること。
それって、すごく、オトモダチだなって、思うの。
オトモダチになってくれて、本当に、ありがとうね。かえるさん。
それが、今のわたしの、精一杯のことば。
いいイチニチだったな。
かえるさんの”ちょこっと絵日記”、楽しみにしてるね!
ボブこ
かえるさん
Twitter: @pickmarch2525
しろがねみつき さん
Twitter: @shiroganemitsu
Rin注: かえるさんのえかきさん、しろがねみつきさんの個展はこちら
↓↓↓
「しろがねみつき個展 ~つきづき~」
日時:2023/1/7土〜1/15日 時間:11時〜19時(最終日15時)
場所:月光荘画材店 画室1
東京都中央区銀座8-7-2 永寿ビルB1F
https://gekkoso.jp
*ACIDMAN 「ALMA」
それから、わたしの好きなかえるさんの”ちょこっと絵日記”を少しだけ紹介するね
↓↓↓
「ひぐらし ひぐらし 8月おわり。」(2022年8月31日)
https://twitter.com/pickmarch2525/status/1567456630685708288
「スキャナー おためし 操作 フムフム」(2022年8月25日)
https://twitter.com/pickmarch2525/status/1564236400148430854
「28th HAPPY BIRTHDAY PICKLES ピクルスこぼれる ピクルスドックたべた。」(2022年6月1日)
https://twitter.com/pickmarch2525/status/1533408097930121217
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