旧友のアライグマ、ラーさんのこと
「よぉ!ころすけ!よく来たなぁー!」
懐かしいダミ声。この声に自分の名前を呼ばれると、子どものころに引き戻されたような懐かしくも小っ恥ずかしいような、むずがゆい気持ちになる。
数ヶ月ぶりのリンママちゃんち。お正月のあいさつに来て、家族だけで新年会して、ひと晩泊まって、翌朝お雑煮を食べたら、すぐにチーバへ帰る。親戚は誰ひとり来ないしお年玉をあげるような子もいない。帰省、といえば説明は簡単なのだけれど、正直なところ、わっしもリンくんも、このおうちには住んだことがないので実感がない。だからあくまでリンママちゃんちに遊びに来た、という感じでしかないのだ。
あ、どーも。こんにちわーに。ツキノワグマのころすけです。
そんなこのおうちにはわっしの旧友が住んでいる。それが、ラーさんだ。ラッキー、というのが本当の名前なんだけど、いつからか、ラーさんと呼ぶようになった。イメージとしては、おやっさん、みたいな感じ、かな?歳はわっしよりもひとつ上の兄貴分で、あ、そうそう。わっしの兄貴のもっつと同い年なんだよ。だから、わっしからすれば、ラーさん、とさん付けになるのだ。
そう、そのラーさんは、リンアニの部屋に住んでいる。
リンアニはリンくんと同じように、たくさんのオハナ(家族、つまるところ、ぬいぐるみ、と読み替えてもらって結構。)と暮らしている。なんならリンママちゃんにもたくさんのオハナがいる。だから、この家に来ると、わっしにとっては、大小さまざまものすごい数の友だちに会うことになる。わっしが子どものころから知っている付き合いの長い旧友と再会もするし、時には、新入りのコと初めましてのご挨拶をすることもある。
今日は、ラーさんの話だ。
ラーさんは、あらいぐま。
わっしはリンくんが8才のときのたんじょうびにやってきたのだけれど、聞いたところによれば、ラーさんはリンくんが7才のときのたんじょうびにやってきたらしい。ものすごくぶっきらぼうで、口が悪くて、さっきも言ったけどダミ声で、リンくんとは会うたびに喧嘩腰で、まったく反りが合わない。
だけれど、わっしにとっては、ラーさんは親分肌で、面倒見がよくて、だれよりも責任感が強くて、その小さいからだで、何でも受け止める凄みを持っている。リンアニから絶大なる寵愛を受けているのもラーさんだ。
そんなラーさんから、元日早々呼び出しを受けた。
「ころすけ。せっかく来たんだから、おれの部屋、来なよ。」
ヒィッ!親分・・・!ハイッ・・・!
横目でリンくんのほうを見ると、おせちの煮物をつまみに、ワインを片手に、リンママちゃんと話し込んでいる。
いまのうちだ。こっそり、退席しよう。
「うっす。ころすけ、いきまーっす!」
ラーさんの部屋に呼ばれると、わっしが知りもしないラーさん軍団がいらっしゃった。ラーさんと過ごすひとときは、特別なものだった。三十年以上の年月を超えて、最近の楽しかったことやお互いの悩みを話し込んでしまった。
「この頃さぁ・・・。」
あっ、ラーさんのお悩みはシークレット。みんなに公開するわけにはいかないけれどね。わっし自身はというと、ラーさんにあけすけなく、最近の困りごとを相談してしまったさ。
え?どんな話かって?
あんなことこんなこと。毎日のリンくんの相手するのが、とっても大変でさ。リンくんが8才だった頃よりも、今のほうがよっぽど忙しくて大変なのよ・・・ってね。
うーん。オハナとしては、相手にされなくなるよりも、いいことだよね?きっとね?
そんなお悩み相談をしたあとに、ラーさんと今年の抱負を誓い合ったんだ。
ラーさんはリンアニのことちゃんと見守るって。
わっしは、今年もしっかりリンくんの面倒をみるさ。
そして、疲れたときは、ふたりで労をねぎらいあろうじゃないかってね。
旧友よ、頼もしいじゃないか。ラーさん、今年もよろしくな!
ころすけ
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