みどりテラスのピクニック
ふわぁー。よく寝たぁ。
9月最初のニチヨービ、朝8時過ぎのこと。
お天気は、くもり、ちょっと晴れ間。
ライオンのボブおです。
おれらは早朝にオシゴトゴルフへ出かけていったケンイツエンチョーをモーフの隙間から見送ってから、バッチリ二度寝を決め込んで、気持ちよく目が覚めた。
リーンくーん。今日、何して遊ぶ?
ンー。何して遊ぼっかねぇ。意外と寝ちゃったな・・・。バラ園へおさんぽ行く?それか、図書館?
リンくんがガラガラッと窓ガラスを開けると、ムワッとした空気が流れ込んできた。
あっ、いやー、まだちょっと蒸すねぇ・・・。あっ。久しぶりに、みどりテラスでおひなたぼっこしながら本読むのはどぉ?暑かったらすぐ退避できるしさ。
みどりテラス。おれらがそう呼んでいる場所というのは、我が家のベランダのことだ。年季の入った団地の建物とはいえども、一応、最上階の角部屋で、隣の棟とは真正面には向かい合っておらず、人の目はさほどは気にならない。だから、おれらは、気候がいい時なんかはアウトドア用のイスを出しては、ゴロンゴロンとひなたぼっこをしている。そういうとき、リンくんはというと、決まって横に座っては本を開くのだ。
わーい!ゴロンゴロン!
おれは弟のボブぞを誘って、一緒にみどりテラスに出た。
ねぇねぇ。今日ピクニックってことにしよう。ちょっと待ってて。
リンくんがそう言い残して、一度部屋の中へ入っていった、かと思ったら、すぐに、小さな台と、コップ、缶を手に戻ってきた。
エヘヘ。プシュッ。
あっ、イイネェー。
今日はとことんダラダラするらしい。
カーンパーイ!
季節の変わり目に、昼間からみどりテラスで飲む、この小さな幸せなこと。おれは7才のライオンだけどね、そういう大切なことを知っている。
8月が終わって、9月になって。蝉の声が小さくなったかと思っていたら、ここ数日は、コガネムシがエアコンのホースの近くの水たまりの中でひっくり返っているのを直してあげたり、バッタが壁にジィっと居座る姿を観察したりしている。
リンくんは、本に集中していないのかしら、こちらが聞いてもいないのに、話しかけてくる。
昨日散歩に行ったら、3週間前は頭を垂れていた稲穂が、すでに刈り取られているのを見たと。あと、黒いコオロギを見たとも。それから、まぁるい傘のきのこが群生しているのを見たとも。
そうそう、帰りに新米のマークのついた玄米の3kg袋と、野菜をかかえて帰ってきたね。あの野菜の中に野生のきのこがないことを祈るよ。
へぇー。
ふんふん。
おれらは、そんなことをポツリポツリと会話しながら、みどりテラスを楽しむ。ゆったりとした、時間。なんでもない、時間。いとおしく、あたたかい、柔らかい、時間。
ねね、リンくん、何読んでるの?
こないだ買ったばかりの、画集だよ。安西水丸先生のね。
ふぅん。おもしろいの?
いまの時間にピッタリだよ。
そっか、それは良かった。
おれは空に目をやって、夏と秋とが混じった風と音とを楽しむことに専念した。
リンくんは、空色に彩られた絵のページを開いて、クピッとひとくちやっていた。
ボブお
「季節のうつりかわりというものには、喜びと哀しみがある。自転車に乗っているといつもそれを思う。」
安西水丸 『一本の水平線 安西水丸の絵と言葉』
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