ライオンボブ家、虹のバスに乗る(後編)

そこには、まるでおとぎ話の世界を、ギュッ、ギュッ、と小さな手で結んだような空間が広がっていた。ちょうど、おでの手のひらにピッタリなくらいのサイズだ。だから、ニンゲンにはちょっと小さすぎるかもしれないな、そんなことを思いながら、中へと足を踏み入れる。

目の前に現れたのは、華やかなピンク色に彩られ、メルヘンな飾り付けがたくさんに施された広場。ちょっとしたステージのようになっていて、その壁面には、こう書いてあった。

「ALCAZAR Theater」。

ALCAZAR・・・?あるかざぁる?って、なんだろな?

フシギに思いながら無人のステージに登ると、あちこちにさまざまなイラストが描いてあることに気がついた。
人魚姫。ブレーメンの音楽隊。三匹の子ぶた。ありときりぎりす。
黒猫の影も見える。上演の演目リストだろうか、たくさんの見聞きしたことのある童話のタイトルが刻まれていた。
どこかにライオンはいないものかな?と探したけれど、ちょっと見つけられなかった。

“ALCAZAR Theater”
“人魚姫”
“ブレーメンの音楽隊”
“ありときりぎりす”
“おとぎ話の本たち”

へぇ!なるほど。メルヘンの世界なんだね。

急に現れたフシギ空間にあっけにとられていたリンくんが、ようやくコトバを発して、ニヤリとした。

ボブぞ、外国の童話の世界だよ。ホラ、こないだ一緒に読んだでしょ?

あぁ。知ってる。ニンゲンのこどもは誰しも一度は読むっていうから、図書館で借りてきてリンくんと一緒に読んでやった、あれだろ?ま、おでは、ライオンのこどもだけどさ。

そうそう。その童話の世界だよ。しかっし・・・へぇー、こぉんなところに・・・・。

リンくんはそう言いかけて、続きのコトバが見つからなかったらしい。

“おとぎ話のさまざまな演目リスト”

そう。さて、ここはドコでしょうか?

正解は・・・?

「ALCAZAR」。いやいや、ALCAZARって何よ?
我らが「虹のバス」が連れてきてくれた、本日の到着地なのだった。

“ALCAZARって何よ?”

はぁい、ようやくご挨拶ができるね。
みんな、こんにちわーに!ライオンボブ家の末っ子、ボブぞでっす。
「虹のバス」旅、後編だよー。

Rin注: 前編はコチラです。まだ読んでない方は、よろしければ、前編からどぉぞ。
「ライオンボブ家、虹のバスに乗る(前編)」
https://bobingreen.com/2022/08/28/2543/


憧れの「船尾車庫」に到着後、バスを乗り継いだ我々が向かった先は・・・・。
千葉NT中央駅!
NTっていうのは、ニュータウンの略称で、バス停ではこの略称表記が正式らしい。

「船尾車庫」を出発したこのバス、乗客はというと、たった二組だけだった。
おでらボブ家は、またしても最後列の席に並んで座る。そのみっつ前の二人がけ席に座ったのは一人旅の青年だった。夏休みの高校生かな?それにしては少し大人びている感じもあるが、それは手入れをサボった無精髭のせいかもしれない。その若者は、バスの1日乗車券を手にしていた。

ところで、コレどーすんだろね?ちょっと聞いてみよう。

ピンク色の紙を折ったり広げたりしているリンくん、持て余しているのは、例のアレだ。乗継乗車連絡票、「船尾車庫」で降りるときに、運転手さんがくれた紙だ。

運転席の横でごにょごにょ話したかと思うと、戻ってきた。

コレを見せると運賃が割引になるらしい。必要なのは降りる時だって。

・・・プシュゥ。発車しまぁす。

フーン。なんだか仕組みがよくわからないままだけど、まぁ、ライオン料金がないなら、いっか。
我々ボブ家と、もっさり青年を乗せた「虹のバス」が、出発したのだった。

目的地までは、正直、あっという間だった。15分かかったかどうか、それくらい。途中、知っている道に合流したものだから、なおさら短く感じてしまった。
せっかくのバス旅、なんだかもうちょっと旅情を感じたいなぁみたいな期待をしていたのだけど、残念ながら、無数の団地が立ち並ぶ一帯を駆け抜けて、「虹のバス」はおでらを降ろしにかかった。

「次はぁ、ちばにゅうたうんちゅぅおうです」

ブィーっと”おります”ブザーを鳴らしたかったのだけど、先にやられてしまった。もっさり青年の行き先も同じなのだった。

うぉぉ。残念!押しそびれた・・・!

ガッカリしている間もなく、「虹のバス」はロータリーに入る。千葉NT中央駅とは、乗車料金が日本一高いだとかで悪名高き・・・、いや、有名な、北総鉄道の駅である。すっごい余談だけど、今年、ついに運賃下がるらしいよ、この何でもかんでも値上げ値上げの時代にスゴイよね、という路線だ。京成やら京急やらとうまく乗り入れして、羽田空港と成田空港を繋ぐのに一役買っているから、首都圏では知っている人もいるかもしれないね。

あ。乗り継ぎ票ありますぅ。コレ。

おでが千葉NT中央駅と北総鉄道の薄っぺらい解説をモゴモゴやっている間に、リンくんは運転手さんにピンク色の紙をわたして、降りていった。

ピッっ。

ボブぞ、ほら、行くよ。

うん。・・・ぴょんっ!

パスモをタッチしたリンくんに続いて、おでも急いでバスステップを降りたのだった。
やっぱりライオンは無料なんだ、と安心した。

ロータリーに降り立つと、遠目に見えるのが派手派手の色合いが特徴的なアーチだ。そのアーチの上に、どうやらその場所をあらわす名前が記されているようだった。

「ALCAZAR」

あるか、ざぁる?
歩かないって意味かな・・・?駅から近いよーみたいなこと・・・?トンチ?ダジャレ?

気になって近づいてみると、入口には、テナントを示す看板が出ていた。

寿司・和食、イタリアン、お好み焼き、居酒屋、焼肉、カレーにラーメン・・・、パッと見には飲食店が主なのかと思いきや、その合間に、学習塾、保育園など、子ども向けのサービスがちらほらと。さらには、そろばん塾、書道教室、音楽教室、バレエ教室まである。歯医者や美容院・・・、よくよく見れば、どうやらテナントはほぼ埋まっているようだ。

なんか、フシギな感じがするところだね?入ってみよ。

ショッピングモールとも飲食店街とも表現し難いこの駅前の一角は、ちょっとしたアウトレットモールの借り物のような雰囲気がある。まったく本当のそれらしくない嘘っぽさが、この千葉NT駅前という初体験の街の印象を決めてしまうことになるのだから、ちょっとドキドキする。

いざ。
「ALCAZAR」のアーチをくぐった。

そこには、まるでおとぎ話の世界を、ギュッ、ギュッ、と小さな手で結んだような空間が広がっていた。ちょうど、おでの手のひらにピッタリなくらいのサイズだ。ニンゲンの手のひらには小さすぎるから、その余白部分には何があるかというと・・・千葉NTに暮らす地元民たちの生活だった。
 

非日常を演出しているかに思えるそのメルヘン世界を表現した広場の周りには、ものすごくニンゲンくさい日常が共存していたのだった。

あ、リンくん、さっきなにか言いかけたよね?

そうそう。その童話の世界だよ。しかっし・・・へぇー、こぉんなところに・・・・、
ヨーロッパ調の建造物を作っちゃうんだから。スゴイね。さっきトイレに行ったらさ、トイレの中も豪奢な造りだったよ。鏡とかもさ、お姫様が使いそうな装飾があってね。

正直、バブルの名残だよねぇ・・・。あ、ボブぞは7才だから、バブルなんて想像もつかないと思うけどさ。

千葉NT中央駅ができてから40年近くが経つらしい。ニンゲンたちが平和に暮らす団地やマンションが集まる中に、どうやらこの立派な造りのステージは変わらずに残されているようだった。塗装や造形物の劣化がないところをみると、今でもきちんとメンテナンスがされているし、もしかしたらこのステージでイベントなんかも開かれているのかもしれない。

ま、土曜日のお昼に来て、この閑散具合なのはどうかなと思うけれど。

ねぇ、リンくん?
おでが憧れてた「虹のバス」が、とっておきの夏休みの冒険に連れてきてくれた場所なのだから、きっとなにか意味があるに違いないよね。

ボブぞは、そういうところ、ポジティブでいいよね?

でへっ!だってさ、みんなで来たら、どんなとこでも楽しいでしょ?おで、今日は、生まれて初めて「虹のバス」で終着駅まで行って、そこからさらに乗り継いで、初めての場所に来れて、おもしろだぞ!

そうだね。一緒に来られて、良かったね。
ボブぞ、ホラ、あっちに大きな塔があるよ。行ってみようか?

“大きな塔を発見!

そうやって、おではリンくんと手を繋いで、レンガ造りの建物のほうへダッシュで向かったのだった。
そこには、陽気な顔をした太陽のオブジェがいた。絵文字でよく使う、顔のついた太陽そのものだ。🌞

ジィっとその大きな目で、おでに向かって話しかけてきた。

「やぁ、ライオンのボブぞくん。ようこそ。さっき質問してくれたね?ALCAZARってのはね、アルカサールって読むんだ、スペイン語でお城って意味だよ。わたしはお城の塔のあるじさ。」

“大きな塔のふもとには、陽気な顔をした太陽のオブジェがいた”

その大きな塔のふもとにはなにかよくわからないけど、ボタンがあった。さっきバスを降りるときに降車ブザーを押しそびれてしまったものだから、おでは思わずそいつを押してみた。

~~~♪

途端に、オルゴールの音楽が鳴り響いた。

音が鳴り止むまでの間、おでは、ヨーロッパの南風を感じながら、しばらく目を閉じて、ブレーメンの音楽隊に入隊する妄想をしたり、三匹の子ぶたに登場するなら・・・いや、全然いい話にならないなと諦めたりした。

途中、学習塾に駆け込んでいく夏休み中の小学生たちの声がしたけれど、おでは気が付かないふりをして、リンくんに手を引かれたまま、アーチをくぐって外に出た。

「虹のバス」の終着駅は、おとぎの国のお城だった。

おでが、モゴモゴと口の中でそうつぶやいたら、リンくんは、おでのことを抱き上げて、ギュッとしてきた。

みんなで来たからどこでも楽しいよね。「虹のバス」、夏の大冒険、どうもありがとなの。

ボブぞ

“ブレーメンの音楽隊とライオンのおで、ボブぞ”
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Rin(リン)

ぬいぐるみブロガー、Rin(リン)です。 ライオンのボブ家と愉快な仲間たち、そしてニンゲンのケンイツ園長と一緒に、みどりキャンプ場で暮らしています。 ボブ家の日常を、彼らの視点でつづっていきます。

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