ピッタくんからのお届けもの

昨日の夜、わっしのもとに、白い小箱が届いた。

ペンギンの勘九郎です。

我が家は古い団地だ。エレベーターはないけれど、5階建ての5階の、南東向きの角部屋、というのが気に入ってる。年をとって足腰弱って階段の上り下りができなくなったらどうしよう、とリンくんは毎日のように心配をしているが、多分この建物のほうが先に寿命が来て、きっとどうにかなると思う。

一棟あたり20世帯、階段が2箇所。それぞれの階段下に、郵便受けの扉が10個の部屋を成して並んでいる。さほど大きくもないが、小さくはない。A4封筒が入るには十分だし、1週間分くらいの郵便物やチラシを溜め込めるくらいの高さもあるにはある。

我が家は表札は出していないから、部屋番号だけが貼ってある。丸いツマミを手前に引くだけの簡単な造りで、カギはない。つまり、自由に出入り可能だ。

なにせ、わっしは、いっとき、この郵便受けの中で暮らしていたことがある。

わっしとリンくんとの出会いは、この団地の、この棟の、ゴミ収集所だった。回収の終わったあとのボックスの横で、ポツン・・・と行き倒れていたわっしを、リンくんが介抱してくれた。しばらくこのポストの中で保護ペンギンとして暮らし、あるじを探していたのだったが、最終的には、このボブ家に仲間入りをした。

だから、わっしにとってはこの郵便受けは、ちょっと思い入れのある、特別な部屋なのだ。

パコっ!

郵便受けのツマミを勢いよく開けると、中に小さなおサルさんがいた。

顔周りの毛は薄茶色で、おなかから下は白い。まんまるの黒い瞳、ギュッとひきしめた広角が凛々しい。つばのない黄色い帽子をかぶり、首には大きな青い玉のついたネックレスをしている。ちょっと特徴のあるファッションセンスだなと思ったけれど、うん、あからさまに、イケてるおサルさんだと思った。

白い小箱に浅く腰をかけ、長い手足をきれいに揃えている。その細く美しい右腕を、軽く持ち上げながら、おサルさんは視線をこちらに向けた。わっしが急に扉を開けたものだから、少しびっくりしたようにも見えたけれど、一呼吸してから、口を開いた。

やぁ。ペンギンの勘九郎くんだね?

ピッタくんだった。ピッタくん、というのが、このおサルさんの名前だ。

♪あ~い、あい あ~い、あい。
こんばんは。オムノムノムのピッタだよ。
コレ、お約束のモノ。お届けに来たよ。

わ!ピッタくん、直接、うちまで届けに来てくれたの?!ビックリしちゃったよ。どうもありがとう。あ、はじめましてだね。ペンギンの勘九郎です。改めて、よろしくね。
あっ、せっかく遠路はるばる来てくれたんだからさ、ビールでも1杯どぉ?5階まで階段で申し訳ないんだけれどさ、良かったら部屋にあがってってよ。今の季節、テラスで夜風にあたりながら飲むの、キモチイイんだよ。多分、そろそろリンくんが晩ごはん作るからさ。簡単なおつまみも出すよ。

勘九郎くん、お誘いどうもありがとう。お呼ばれしたい気持ちはヤマヤマなんだけれどね、まだお届け行脚の途中なんだ。次のオトモダチが待ってるから、もう行かなくちゃ。あっ。こんど、大阪のボクのお店に遊びに来てよね。そのときに一緒にビール飲もう。じゃねー!

おサルのピッタくんは、まるで断りの台詞を最初から準備していたかのように、ひといきに口早に告げて、サッと郵便受けの扉から出ていってしまった。わっしはピッタくんが地面に着地する姿を見逃してしまったから、どっちの方向へ追えばいいのか見当もつかなかった。もう外は暗くなっていて、団地の弱々しい街灯では、すばやいちいさなおサルの影なんか見つけられるわけもなかった。

さすが、おサルさんだなぁ・・・!

その身軽さに感動して、わっしはしばらくあっけに取られてしまった。
そして、ビールに誘うよりも前に、”お届けもの”に対してのお礼を、もっと丁寧に伝えるべきだったな、と後悔した。

郵便受けの扉の中には、果たして、白い小箱がひとつ、残されていた。わっしはその箱を大事に抱えて、5階のリンくんのもとへと、階段を上がった。

リンくーん!ピッタくん来たよ。ピッタくんが来てたんだよ。ピッタくんが、”お届けもの”、わざわざ持ってきてくれたんだよ。
ホラ!コレだよ。

わっしはリンくんに白い小箱を渡して、首の蝶ネクタイを少し緩めた。
ふぅ・・・、この季節、5階まで上がるだけで汗が吹き出してくる。

勘九郎、おつかれさん。え?ピッタくんに会ったの?

うん、会ったよ。

私も会いたい!一緒に晩ごはん食べてくかな?

わっしも誘ったよ。誘ったんだけれど、あっという間に帰っちゃった。

あら、そうなんだ。忙しいのかな、ひとめ会いたかったなぁ。勘九郎、いいな。

えっへへ。

ピッタくんって、どれくらいの大きさなの?あの青い玉がついたネックレスってどうなってるの?

えーっとねぇ・・・。

リンくんにピッタくんのことを話そうとすればするほど、わっしが見た郵便受けの部屋の中のできごとが、あやふやになるような気がした。ピッタくんとの会話が消えてなくなってしまわないように、わっしは必死にごまかすことにした。

リンくんにはないしょだもんねーだ。あ、大阪で一緒にビール飲もうってさ。

なにそれー。勘九郎、秘密主義だねぇ。

ねぇねぇ!それより、さっそく開けてみようよ!ピッタくんのお店のクッキー、食べてみようよ!お礼ちゃんと言わなくちゃ。リンくん、開けて。

ん?勘九郎、会ったんでしょ?お礼言ったんじゃないの?

言ったけど、そういうことじゃなくってー。ちゃんと味わって、その味とともにお礼を伝えなくっちゃだよ!

それもそうだね。晩ごはんの前に、さっそく開封の儀、しよか。

白い小箱は厳重にテープで巻かれていたので、リンくんがハサミの先を使って開けてくれた。

それでは、いざ。かうふうの、ぎー!(開封の儀ー!)

わーい。パタパタパタパタ!

バカッ。

“パカッ!”

小箱のフタを開けると、中には、さらに小さなおうち型の箱が入っていて、一緒にピッタくんからのメッセージカードが添えられている。ロゴマークには、こうあった。

「Rice Flour Cookies “Om nom nom”」
(米粉クッキー “オムノムノム”)

そう。おサルのピッタくんは、”オムノムノム”という米粉クッキー屋さんなのだ。スイーツだいすき、スイーツ番長を自称するわっしのために、手作りの米粉クッキーのお届けものをしてくれたのだった。

“おうち型の箱もかわいい!”
“Rice Flour Cookies “Om nom nom”(米粉クッキー “オムノムノム”)”

わっし、中も見たいー!

リンくんにお願いして、おうち型の箱のシールもはがしてもらった。なにせ、ひと月も楽しみに待っていたのだから、はやくひと目見たいよ。

丁寧に包まれた、クッキーが5枚。
1センチ以上もありそうな厚みのある、丸、丸、四角の3枚と、クマさんが2枚。クマさんたちは、大事そうにナッツを抱えている。

わぁー!かわいいーおいしそうー、うわぁ!
1枚も割れてないよ、形キレイだよ。良かったねぇ。郵便屋さんに感謝だねぇ。

リンくんがはしゃいで、スマホを手にとって、写真をパッシャパシャ撮り始めた。アッチの角度から、コッチの角度から、わっしはリンくんにされるがままになりながら、心のなかで思った。

・・・リンくん、何言ってるの?ピッタくんが直接、大事に持ってきてくれたからだもん。わかってないなぁ。アハッ。でも、ナイショだもんねー。

“みーんなで仲良く食べるよ!”
“丁寧に包まれてるクッキーたち”
“大事にナッツを抱えるクマさんふたり。かわいい”

ケンイツエンチョーがオシゴトから帰ってきて、食卓に晩ごはんが並んだ。
改めて、ピッタくんのクッキーのことをエンチョーにホーコクして、わっしはようやくスイーツ番長勘九郎になることができる。

エンチョーエンチョー。今日ね。オトモダチのピッタくんっていうおサルさんがね、米粉のクッキー届けてくれたんだよ。それがコレなんだよ。一緒に食べよう?

おー!米粉なのかー!良いねぇ!

我が家は実はエンチョーがグルテンフリー(小麦粉を避ける食習慣のこと)の言い出しっぺだから、反応は上々だ。

いっただっきまーす!カンパーイ!

今日この日のために、わっしはリンくんにお願いして、米粉クッキーに合うドリンクを用意してもらっていた。

リンくんいわく、「米には米でしょ(=米粉のお菓子なら米のお酒でしょ)。」というわけで、なんと、日本酒だ。トリッキーな組み合わせかなと思いつつも、試してみた。

クピッ・・・からの、パクーッ・・・!!!

・・・!!!

1枚目は四角。
口もとに近づけると、ナッツの香ばしい香りがただよう。
パクッと口に含むと、サクッよりもザクッとした心地の良い歯ざわり。
そこから、すぐにホロホロッとほどけていく。

うおおおおお!コレ、好きーっ!

すぐにトリコになってしまった。あ、トリだけに(ペンギン)。

2枚目は丸型だよ。
む!よりシンプルに、バターの力が、ガツンとやってきた。
ザクッザクッとした、クールビューティーな食べごたえは1枚めの四角と変わらず。
香りは繊細で、味はリッチなのだからこれはたまらん。

“「米には、米でしょ。」”
“四角はナッツたっぷり、丸はバターがガツン!”

カンカンカカーンカンカカーン!

スイーツ番長の勘九郎、アタマの中、混乱中!
だって、ヘルシーなの?それとも、ゼイタクなの?
米粉のお菓子や食品はこれまでにもいろいろ食べたことがあるけど、ちょっと変なお米っぽさ、お餅っぽい後味が残るものが多かったんだ。
でも、ピッタくんのクッキーは全然違ったよ。バターが力強いのかな?やさしい甘みと、少しの塩と、ナッツの歯ざわりと香り。

とってもとっても、なんなら・・・、サイコーに好きなのだ!

未知のおいしさにコウフンして、パクパクと食べてしまいそうになるところを、ぐっとこらえた。もう1枚の丸型と、クマさんふたりはまた明日の楽しみにするんだもん。

バターとナッツの余韻を感じながら、もう一口、”米”を追う。

・・・クピッ。

ふぅ。んまーい。

ピッタくんの、まっすぐなやさしさと強いココロと丁寧な手仕事、米粉クッキーで、楽しませてもらったよ。手と手と、手渡ししてくれた温かみが、とっても伝わってきた。
次に会うことがあったら、改めてちゃんとお礼を言いたいんだ。ありがとうってね。
あ、そのときは、郵便受けの部屋じゃなくてさ。外で風にあたりながら、一緒にビール、飲もうよね。

(・・・くれぐれも、わっしらが一度会ったことは、ピッタくんちのカパさんや、オーナーさんにはナイショだよ。)

カンカンカカーンカンカカーン!

・・・ピッタくん、無事に次のオトモダチのおうち、着いたかなぁ。

勘九郎

“ピッタくん、ありがとう!”

米粉クッキー専門店 Om nom nom
Twitter https://twitter.com/PittaOmnomnom
Instagram https://www.instagram.com/omnomnom535/

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Rin(リン)

ぬいぐるみブロガー、Rin(リン)です。 ライオンのボブ家と愉快な仲間たち、そしてニンゲンのケンイツ園長と一緒に、みどりキャンプ場で暮らしています。 ボブ家の日常を、彼らの視点でつづっていきます。

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