くまのゴロオとくまごろうフィナンシェの魔法

とあるニチヨービのこと。
お散歩から帰ってきたリンくんが、見慣れぬ小さな白い紙袋をわっしに手渡してきた。

「ハイ、ゴロオ。お土産。」

「ン?なんだぁ?」

クンクン・・・クンクン・・・

“見慣れぬ小さな紙袋。わっしへお土産だって。何だろな?”

わっしがニオイをかいでいると、真っ先にやって来たのはペンギンの勘九郎だ。ヤツは我が家のスイーツ番長を気取っているから、甘いものには目がないのだ。
(スイーツ番長勘九郎のお話はコチラ「ペンギン勘九郎のクッキーパーティー」

「カンカンカカーン!コレはとってもとってもいい香りがするよ!絶対スイーツ!絶対スイーツだカーン!」

“スイーツ番長勘九郎が、いい香りをかぎつけてさっそくやってきた”

クンクン・・・クンクン・・・

うん、確かに。ふぅわりと、あまぁい芳醇ないい香りが、紙袋のスキマから漂ってきている。

「バター、玉子・・・それから、アーモンドかな・・・!なんだか香ばしい香りがするね。」

待ちきれぬ様子の勘九郎を横目に、わっしが嗅覚を効かせて分析をしていると、リンくんが口を挟んできた。

「あのね。お散歩していたら、お菓子屋さんを見つけたんだ。・・・といっても見つけたのは今日のことじゃなくてずいぶん前なんだけどね。初めて今日開いてるのを見たの。」

リンくんの説明によれば、こういうことだった。
数ヶ月前、古い民家の脇に、ひっそりと小さなお菓子屋さんができているのをたまたま見つけたらしい。だけれど、その日はお休みで、入口にはチェーンがかかっていた。外に貼ってあった営業カレンダーを見ると、営業日は不定期でかつ月に数回しかない様子だから、正直いつ行けばいいのかわからなかった、とのこと。
しばらく忘れかけていたところに、今日たまたま近くを通りがかると、チェーンが開いていて、OPENの看板が出ていたのを見つけたのだという。

「ほう。それで、中身はなぁに?」

「まぁ、みてごらんよ。」

白い紙袋の、くまちゃんのイラストが書かれたテープをそぉっと開けてみる。

あまぁい香りの正体はというと・・・、わっしの顔と同じかむしろちょっと大きいくらいのチョコチップクッキーと、それから、ずんぐりむっくりとしたカタチをした、こんがりと日焼けをしたくまだった。

“くまちゃんのイラストが書かれたテープをそぉっと開けてみる”
“チョコチップクッキーと、それから、ずんぐりむっくりこんがりと日焼けしたくま”

「ねぇねぇ。コレね、”くまごろうフィナンシェ”っていうんだって。”くまごろう”、だよ?すごくない?」

そう。何を隠そう、わっしの名前は、くまのゴロオだからね。ま、ちょっと一文字だけ惜しいけれど、ほぼ同じってことで。

“ほう!くまごろうフィナンシェっていう名前なんだって!わっしの名前はゴロオ”

「おぉおー!同志よ!」

「アハッ!同志ですか。そりゃぁ良かった。それでね、それでね。聞いてよ。お店のなかに入ったらね・・・。」

リンくんはコーフンした口調で、店員さんとのやり取りを再現し始めたのだった。

「コレ、くださいな。今日、初めて開いているの見かけたんで、寄ってみました。店内に、くまちゃんいっぱいいますね。」

そう、店内には大小さまざまのくまのぬいぐるみが飾ってあったのだという。そして、決して広くはない店内の一番奥の目立つイスには、ニンゲンよりも下手したら大きいくらいのくまが鎮座していたらしい。

当然だが、ぬいぐるみには目のないリンくん。すかさず聞いちゃったってわけ。すると店員さんがひとこと。

「くまのぬいぐるみが好きなんです。」

“くまごろうフィナンシェ”を包んでもらいつつ、目を輝かせて応酬するリンくん。

「エーッ!うれしい、わたしもぬいぐるみが大好きで。・・・もしかして、あのコがくまごろうですか?」

「あ、そうです、コストコで買ってきたくまさんにわたしがくまごろうって名前をつけて。それでですね、別のときにくまのフィナンシェ型をお店で見つけたんですけれど、その型が”くまごろう”っていう名称で売っていたんですよ。運命的な出会いですよね。」

「ひぇーそれはすごい!奇跡ですね。」

「ですよね、ですよね。」

ホンワカした柔らかい雰囲気をまとった店員さん。初めてのお客であるリンくんに、大切な”くまごろう”の秘話をとてもうれしそう楽しそうに教えてくれて、リンくんはいたく感激したらしかった。

ちゃっかりくまごろうの写真を撮って帰ってきたらしく、「ホラ、これがぬいぐるみのくまごろう氏だよ。」とわっしに見せてくれた。

“お店の看板くま、くまごろう氏”

「フーン。くまごろう氏、でかそうだな?」

「ホント、おっきいよ。コレっっくらい!」

リンくんはそう言って、両手を広げてみせた。

「ま、とにかく、食べてみようよ。焼き立てのフィナンシェなんてなかなか食べられないよ。」

いっただきまーす!

くまごろうをどこからかじるか一瞬悩んだので、とりあえずチョコチップクッキーを先にひとくち食べてみることにした。

もんぐもんぐ・・・

「うまいな、コレ。こういうクッキー、久しぶりに食べたよ。しっとりずっしり、サク、じゃなくてほろっむちって感じ?濃厚でおいしいなぁ。」

さぁて、いよいよくまごろうか。

はむっ・・・

たい焼きじゃないが、アタマからかシッポから・・・いや、足先からいただくことにした。

「おぉーーー!外はサクッ、中はフワッしっとーり!全然パサついてない!そして、アーモンドの香りがしっかりふぅわりやってくるね。」

「ちょっとちょっと、わっしにもくれカーン!」

勘九郎が羽根をパタパタさせて、もうガマンができない様子で圧をかけてきた。

「ほら、じゃぁ、スイーツ番長、食レポお願いするよ。」

カンカンカカーンっカンカカーン!

「こぉれは、ご近所だとかくまのぬいぐるみ好きだとかそういうのをまったく抜きにして、相当おいしいフィナンシェだカーン!街のケーキ屋さんだとフィナンシェって脇役になりがちだけれど、こうやって焼き立てホヤホヤを、おいしいうちに気軽にほおばれるなんて、ステキだカーン!」

「勘九郎、ちょっといいこと言ってるけど、それ味じゃないね?」

「だって全部ゴロオに言われちゃったもん・・・。アハッ!あっ。自然な味がするよ。ホラ、余計な混ざりもののない、まっすぐな味。」

それから、勘九郎はすかさず付け加えた。

「あ、それからね。なんだかココロがあったかくなる・・・、えーっと、くまさんに抱っこされてるときみたいな、そんなやさしいキモチになるお味だね。」

そう、それそれ。まさに、それ。わっしらくまには、そういう能力があるんだよな。エッヘン。

わっしらは、チョコチップクッキーをかじっては白ワインぐびり、フィナンシェをぱくり、白ワインぐびり。それからまたチョコチップクッキーをもうひとくち、白ワインで流し込んで、フィナンシェをほおばって・・・とループして、結局、ペロリときれいに食べきってしまった。

「リンくーん、ごちそーさまでした!なぁなぁ、うまかったぞ!」

「おいしかったねー。良かったぁ!あ。次の営業日いつだろ・・・?」

「あれ、また買いに行くの?」

「うん、近々ママちゃんち行くから、そのときのおみやにしようかなって。」

「じゃ、わっしもさ、お店行ってみたい!くまごろう氏にごあいさつしなくっちゃ。」

オッケー、というリンくんの返事を聞いて、わっしは次の営業日にお店へ一緒に行く約束を取り付けたのだった。

4日後のこと。開店の11時を少しまわったところを狙い、わっしはリンくんに抱っこされて、お店へと向かった。すでに先客が2名。当然だけれど、いずれもニンゲンで、わっしみたいな小さなくまのお客は見当たらなかった。

“開店してまもなく到着。すでにニンゲンの先客がいたよ”
“お目当てはくまごろうフィナンシェ。他にもいろいろ食べてみたいな”

白い澄んだ空気の中にあまぁいニオイが漂う店内の奥に、くまごろう氏を発見した。まずはくまごろう氏の前に、店員さんにごあいさつしたよ。

「こんにちは。コレ、くださいな。」

リンくんの手には、焼き立てホカホカ、やはりこんがりと日焼けしたくまごろうフィナンシェがふたつ、トレイに載せられて横たわっている。

「あ。ありがとうございます!先日、ぬいぐるみのお話をした・・・。」

「あぁ!そうですそうです。それ、わたしです。」

「ありがとうございます。」

「あのね、今日は連れてきたんです。ホラ。」

リンくんに唐突に紹介されて、わっしは顔を見せてごあいさつをした。

「うっす、こんにちわーに。しろくまのゴロオです。」

「うわぁ!カワイイ!」

「いやァそれほどでも・・・でへへ・・・。」

「よかったらうちのくまごろうとコラボしていってくださいね。」

聞けば、他のお客さんが写らなければ店内で撮影は自由にしてよいとのことだ。
リンくんが店員さんと会話をしてお会計を済ませているあいだ、わっしは奥で店番をしているくまごろう氏に、視線を奪われていた。

「・・・でっか!!!うちのもっつよりも数倍・・・いや、10倍くらい?でかいな!」

リンくんが紙袋を受け取ったところで、わっしらは改めてくまごろう氏に近づいて、話しかけてみたんだ。

「こんにちわーに。はじめまして、わっし、くまのゴロオっていいます。こんな小さなしろくまですが、一応くま、やってます。こないだフィナンシェおいしくいただいたよ。・・・あの、オトモダチになってくれる?」

「・・・。」

くまごろう氏の、ほわーんとした表情で口を半開きにたたずむその姿は、いいよーともだめーとも言わず、すべてを受け入れてくれる寛容さを漂わせていた。果たしてニンゲンのコトバを話すのかどうかはわからない。彼はとってもくま見知り(人見知り)なのかもしれないし、くまごろう氏の鼻先ほどしかないわっしのカラダが小さすぎて、単に認識されていないだけかもしれない。
だけれどもね、キモチでは、ココロでは、ちゃんと通じているだろうな、と感じたんだ。だから、わっしは自分の直感を信じて、彼の胸に、ドーンと飛び込んでみることにしたのだった。

「えーっと、どうぞよろしくね!あ、コッチはペンギンの勘九郎っていうの、わっしのオハナ(家族)。スイーツ好きなんだよ。」

「・・・。(ニコッ)」

あ。笑ってくれた。笑ってくれたじゃん!あぁ良かった。うんうん、良かった。

それから、スマホのカメラでリンくんに記念撮影をしてもらって、「今日買わせてもらったこのくまごろうフィナンシェはね、明日、リンママちゃん(リンくんの母)のおうちに持っていって一緒に食べるからね」、と伝えた。

すると、くまごろう氏が、口を開いた。

「おいしく召し上がれ。」

!!!

ハァイ!どうもありがとう。くまごろう氏、どうもありがとう。

たったひとことだけれど、おいしくなる魔法をかけてもらって、わっし、とってもうれしかったんだ。

“くまごろう氏と記念撮影!でっかーい!!!”

「また遊びに来るね。」

すでに次のお客さんが来ていたので、お邪魔にならないようにわっしらは退散することにした。

バイバーイ!

店の引き戸を閉めるときに手を振ると、くまごろう氏も手を振り返してくれた。

いい看板くまだなぁ、と思う。口数は多くないけれど、とってもあたたかなキモチをいただいたよ。

ありがとう。大切に、いただきます。

また遊びに行くからねー!

ゴロオ

“また遊びに来るね!”
“Ne_iro(ネイロ)さんというお店だよ”

でっかい看板くま”くまごろう”氏のいるスイーツショップ、ネイロさんはコチラ↓↓↓
Ne_iro sweers shop (千葉県八千代市)
公式Instagram: @ne_iro.sweetsshop

「シロクマゴロオの本屋カフェデビュー」
https://bobingreen.com/2022/09/05/2596/

「ペンギン勘九郎のクッキーパーティー」
https://bobingreen.com/2022/09/28/2692/

「9月の残暑にはヒロタのシューアイス」
https://bobingreen.com/2023/09/02/6248/

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Rin(リン)

ぬいぐるみブロガー、Rin(リン)です。 ライオンのボブ家と愉快な仲間たち、そしてニンゲンのケンイツ園長と一緒に、みどりキャンプ場で暮らしています。 ボブ家の日常を、彼らの視点でつづっていきます。

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