すずちゃんの野鳥にびっくりでSHOW – 第9回 カイツブリ親子の見届人
ガラガラガラッ
ゆっくりと引き戸を開けて、足を踏み入れる。
そこは、リンくんに言わせれば、子供の頃に小学校の林間学校で訪れたような、古めかしい宿のロビーのような部屋だという。木の匂いに混じって多少のカビっぽさを感じる。たたきで靴を脱いで上がると、絨毯敷きの床に、足をそぉっとつけた。意外にも室内にはしっかり空調が効いていて助かった、と思ったの。
ひとりのご婦人が、机に備え付けられた望遠鏡を覗き込みながら、手元のニコンをゆっくりと操作している。どうやら動画を撮っているようだ。
静かに、お邪魔しないように、一応声をかけてみた。
「・・・こんにちはぁー・・・。」
「こんにちは。」
ご婦人はにこやかに挨拶を返してくれたかと思うと、すぐにまた撮影に戻っていった。
みんなー!こんにちわーに!
すずちゃんのぉぉぉぉ、野鳥にびっくりでショォォォォッ!(SHOW)、第9回だよ!
ここは、初めてやって来たところでね。チーバは千葉市にある県立中央博物館の敷地内の生態園という場所だよ。
京成電鉄の千葉寺(ちばでら)駅から、徒歩で10分くらい。千葉県立 青葉の森公園という広ーぉい公園の中にあるんだ。
この建物は観察舎というのかな。この生態園の中にある野鳥を観察するための施設で、目の前には池が窓ガラス越しに広がっている。舟田池といって、江戸時代からあるため池を整備して、野生の生物たちが生息できるように手を入れたものらしいの。
すず、野鳥観察にハマリ始めてから半年くらいが経つけれど、こういったバードウォッチング専用の小屋に入るのは初めて!しかもココは博物館の敷地内にある専門的な研究機関でもあるから、ちょっとキンチョーするの。
ドキドキドキドキ・・・
お外の森をぐるっと歩いてから入ったから、リンくんはいつものようにアタマから首からぐちゃぐちゃの汗だくなの。
細長い部屋は池側に向かってカウンターテーブルのようになっていて、ズラリと10台以上の望遠鏡が並んでいる。
「ほぉぅ・・・!こういう感じ。どんな鳥さんがいるのかな?アッ!カモさん?」
静寂の室内で、コソコソと話す。リンくんがリュックのファスナーを開ける音、ペットボトルのお茶を飲む音、床に落としたハンカチを拾うときに指をぶつけた音。一挙手一投足、いちいち気になるくらいだ。
「あのねぇー!カイツブリの親子がいるのよ。」
そんな静寂を断ち切るように、急にご婦人が闊達にお話してきたから、すずびっくりしたの。
「親が子供を背中におんぶしてね、それでね、今朝ね、親がヘビと戦っていてね。まぁどうしましょう、子供はもしかしてヘビに食べられちゃったのかしら・・・と思って心配していたの。でもね、そしたらね、今、子供が親の背中にいたのよ!!!すごいのよー!かわいいのよ!見て!見て!望遠鏡で見えるわよ!」
とっても高い、そして上品な声で、説明してくれる御婦人。興奮を隠せない様子だ。
「カイツブリって知っているかしら?」
「ハイ、知ってます!」
元気よく先生に返事する生徒よろしくリンくんが答える。
「どの辺りですか?」
続いて、ケンイツエンチョーが質問する。
「ほら、そこのヨシがあるでしょう?その影に巣があるのよ。望遠鏡で見てみて。」
ありがとうございます、とお礼を言って、ケンイツエンチョーとリンくんはそれぞれ望遠鏡の前に座って、ピントを合わせ始めた。
室内にはまた静寂が戻る。すずはね、リンくんがのぞき見る望遠鏡の横で待機するの。
「リンくん、ピント合ったら教えて!」
・・・。
リンくんは無言のまま、ツマミをくるくる回したり、望遠鏡の角度を変えたりと落ち着かない。
一方、ケンイツエンチョーはというと、ほぉ!とかへぇ!とか息をもらしている。
「リンくーん・・・?」
・・・。
くるくるくる。ギギギギギギ。
あぁ・・・ピントも合わせられてなければ、対象物も見つけられていないみたいなの。
「おいおいリンくん、コッチ、のぞいてごらん。」
業を煮やしたケンイツエンチョーがリンくんと席をチェンジした。
「あっは、ぜんっぜん変なところ向いてるし。リンくんは一体ドコ見てたんだ?」
望遠鏡を使うのは初めてというのはケンイツエンチョーもリンくんも一緒なのに、リンくんはまったくもって見当違いの方向を見ていたらしい。
「ほぉーーーー!へぇーーー!うわぁぁぁ!カワイイぃーーーー!」
「リンくん、すずにも見せて!見せて!」
感嘆しているリンくんをのけて、すずも望遠鏡をのぞいてみる。思っていた以上に大きく見られて、びっくりなの。
レンズ越しに舟田池を眺めると、ヨシの葉の奥の影に動くものが見えた。赤いアタマにキュッとまぁるい目。
「カイツブリさんだぁー!すず、手賀沼でも見たよ!ひなちゃんもいるの?ドコドコ?」
ケンイツエンチョーが合わせてくれた望遠鏡を動かしながら、ひなちゃんを探す。
「アレかなー?あの色が茶色いコ。」
ドレドレ?と再度のぞきこむと、そこには何も映っていなかった。
「リンくーん、、、またいじったでしょ?いないよ?」
あれぇおかしいなぁ・・・と首をかしげるリンくんの横で、またしてもケンイツエンチョーが、ちょいちょい、と手をこまねいている。
「ひなちゃん、いたよ。ホラ、巣が見えるよ。」
「エンチョーすごーい!なんで見つけられるの?」
「いや、教えてもらったじゃん?」
「むぅ・・・。」
コソコソとおしゃべりしながら、アッチだソッチだそこだあそこだ、と合わせる。リンくんはルミぞう(カメラ)も持ち出して、ガラス越しに撮り始めた。
「いやぁー、望遠鏡で見えるほどの倍率がないから、全然ダメだぁ。このカメラじゃ限界。」
そうは言いながら、カシャカシャカシャと連写を続けているの。
「すず、望遠鏡で見たいよー!」
すずが望遠鏡をのぞいてキャッキャキャッキャしていたら、ご婦人が席を移動しながら、またお話してくれた。
「見つけられたかしら?ホラ、カワセミも来たわね!」
「ハイッ!見られました!とってもカワイイ・・・!」
「あなたたち、今日はとってもラッキーよぉ。いいもの見られて良かったわねぇ!」
建物の入口が開く音がして、赤ちゃんを抱っこ紐で前に抱えたお兄さんが入ってきた。
「アラ。こんにちはぁ。今日はね、カイツブリの親子が見られるのよ。ちょうどアナタみたい!赤ちゃんを背中に乗せてね、泳いでるのが見られるわよぉー!」
やはり同じようにプレゼンを始めるご婦人。
最初はただの、といっては失礼だけれど、野鳥好きのベテランさんなのかな?と思ったんだ。だけれど、その後、どうもここの研究員さんらしいなんじゃないかと知ることになった。
この小屋にはスタッフ用の内線電話があるらしく、受話器を取ったご婦人、澄んだ声でお話を始めた。
「もしもしー?今日ね、ヘビが出て。ランチちょっと難しそうなのよ、このままここにいるわね、ごめんなさいねぇ。」
そういうことかぁ・・・!
すずの推察によれば、このご婦人は、カイツブリ親子の見届人として、昼食の時間も惜しんで観察をしているんじゃないかな、と思ったの。
いや、実際それが事実かはわからずじまいだったんだけどね。
でも、この観察舎を訪れる人ひとりひとりに、カイツブリ親子の存在と今日あったヘビとの闘いを話してくれるその語り口には、鳥さんに対する熱く暖かい愛情を感じたの。
「あぁ、良かった、子供が無事で良かった。」
そのご婦人のコトバは、きっと、自然環境を守るこの舟田池では少なからず起こるどうぶつ同士の捕食のできごとを、これまでにもたくさん見てきたからなんだろうって、思ったんだ。
すず、今日は、カイツブリ親子にもびっくりしたけれど、野鳥プロフェッショナルのご婦人にもびっくりびっくりだったの!
まだまだ野鳥レポーター初心者のすず、これからもっと野鳥さんたちのことを知って、いっぱい出会いたいなぁと思い直したよ。ご本を読んだり、今日みたいに野鳥さんに詳しい人からお話を聞いたり、いろんな観察スポットに足を運びたいなぁってワクワクしてるの。
今回は望遠鏡で野鳥さんを見る楽しさを知ることもできて、とってもコーフンしたなぁ!
(カイツブリ親子さん、キレイに写真には残せなくって残念。みんなにおすそ分けできなくって、ゴメンなさいでした。)
まだまだこれからもすずの野鳥レポートは続くよ。
また次回を、お楽しみにー!
以上、野鳥レポーターの鈴之助でしたっ。
まったねー!
すず(鈴之助)
千葉県立 中央博物館 生態園
http://www2.chiba-muse.or.jp/www/NATURAL/contents/1519752950315/index.html
千葉県立 青葉の森公園
https://www.cue-net.or.jp/kouen/aoba/
サントリーの愛鳥活動 日本の鳥百科 カイツブリ
https://www.suntory.co.jp/eco/birds/encyclopedia/detail/1402.html
「すずちゃんの野鳥にびっくりでSHOW – 第8回 ひなちゃんとの再会を果たす」
https://bobingreen.com/2023/08/10/6017/
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