ドラゴンと獅子
おれが朝目を覚ましたときには、ナナメに雨が降っていた。
ンー、やっぱりまだまだ梅雨なんだって、思って、もう一度モーフを鼻先まで引き上げて二度寝を決め込んだ。隣では昨日残業して帰りが遅くなったケンイツエンチョーが、やっぱり二度寝を決め込んでいる。
リンくんはもう居間へ移動したみたいだ。多分、昨晩の食器を洗ったり、モーニングショーを見ながらストレッチして過ごしてることだろう。
ライオンのボブおです。
そうやっておれがようやくソファへ行ったのは、10時前だった。じゅん散歩が始まって、今日は南葛西を歩くのだという。タカダジュンジというオッサン(もう76歳だというから、オジイサンなのかなぁ)のこと、おれは結構好きなんだ。絵がうまいというのだから、これまたすごい。いつまでじゅん散歩してくれるのかなぁ、おれらのいるチーバの町までやってきてくれないかな?そんなことをぼんやり考えていたら。
「ねーねーニーちゃん、今週末は何して遊ぶー?」
弟のボブぞがじゃれついてくる。
「おー。ドコ遊びに連れてってくれるかなー?ドコがいいかなー?」
「すずねー、鳥さんがいいー!鳥さん見に行きたーい!」
最近野鳥観察にハマっているウサギのすずが、横から口をはさむ。
「ぷくぷくぷく・・・。フクねぇ、おいしいもの食べたーい。」
「お出かけするにもまずはお天気見なくっちゃねぇー。」
何の相談もまとまらないまま、ケンイツエンチョーは奥の部屋の自分の机に向かっていった。今日はおうちでテレワークの日だそうだ。
「みんなー!あとでねー。」
「あーい!がんばってねー!」
じゅん散歩が終わると、リンくんはテレビを消す。午前中にやることはいろいろその日によって違うけど、今日のリンくんは、病院に電話をしていた。
「ボブおー・・・きいてよ。市のニンゲンドック申し込もうと思って電話したらさーぁ。2ヶ月先まで予約でいっぱいで、しかも10月以降の申し込みを8月から開始するのでそのときにまた電話してくださいって言われた。」
「ニンゲンドック?ふぅん。リンくん、どうぶつ病院でいいじゃん。フハッ!」
「えー!保険効くならそれでもいっかぁー・・・、ってオイ!わたしは一応ニンゲンなんですぅ。」
毎日のことだけど、おれらの会話なんて、いっつもこんなもんだ。
そろそろお昼ごはんかなって頃、急に窓の外が青空に変わった。
「あ、晴れたー。」
おれとリンくんはほぼ同時に窓の外を見て、つぶやいていたのだった。
カメラを持ってきたリンくんと一緒に、おれはみどりテラスに出てみた。
すると、美しいバキッとした青の中で、大きな白いドラゴンが、白い雲にまぎれて泳いでいた。
「おぉー!ドラゴン。」
「おれとリンくんはまたしてもほぼ同時につぶやいた。
「アハッ!ドラゴンと獅子。おれ、どぉ?」
「いいねーぇ。晴れて、良かったね。いい空だ。」
「うん、いい空だ。」
「おれ、このドラゴンの背中に乗って、オハナのみんなと一緒にどこかお出かけしたいなーぁ。今週末まで待っててくれるかな?」
「アハッ。タクシーじゃあるまいし、雲のドラゴンさんはすぐに消えちゃうだろうねぇ。」
パシャ。パシャパシャ。
リンくんが名残惜しそうにドラゴンを撮影していた。けれど、風に流されて、どんどんとカタチは崩れて、ドコかへ行ってしまった。
毎日のことだけど、おれらの会話なんて、いっつもこんなもんだ。
こんな毎日が、おれは、愛おしい。
週末、晴れになぁれ。ね、ドラゴン。
ボブお
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