春の嵐のあと花を見上げる
「ホワァァァァァ!キレイねぇ・・・!」
わたしたちはみんなで一斉に上を見上げると、桜の花びらたちは一生懸命に、そして力いっぱい開いてくれた。
ひとつ、またひとつ、さらにもひとつ。
満開のほんの直前の、一番力がみなぎっているとき。
ヒヨドリたちは、そんなことは関係ないよー、とでも言うかのように、軽やかに奔放に、桜の木々の間を恋をして飛びまわっている。
ライオンのボブこです。
今日は、みんなでお花見に来たの!ウサギのすず(鈴之助)とアザラシのフク(鰒太郎)にとっては、はじめてのソメイヨシノ。
そう、この間弟のボブぞがロケハン隊長で探してきてくれた場所に、今度はみんなで、シートを持ってやってきたの。来る前にコンビニに寄って、おにぎりとお菓子、それからお酒も準備したよ!
「ねぇねぇボコちゃん、お花見ってナァニー?」
すずに聞かれたから、こう答えたの。
「お花を見るの。桜の木は大きいから、見下ろすのではなくて、見上げるのよ。大きな木々に囲まれたうすピンク色の世界に包まれて、それから、キレイねぇってつぶやくの。」
「ネーちゃん、それだけじゃないでしょ。それから、ゴハン食べたりお酒飲んだりするんだよ。」
「うふふ、まぁ、そうね。そういう楽しみも、あるわね。」
すずはフシギそうな顔をしていたけれど、はじめてのお花見に、とってもワクワクしてるみたい。
公園に到着すると、まっさきに目に飛び込んできたのは、頭上を覆う、ピンク色のドームだった。
昨日の夜、轟々と吹き付けた雨風に、よくぞ耐えてくれた!あんな春の嵐に遭遇したら、心身ともに折れてしまいそうなのに、桜の木というのは、どんな生命力を持っているのだろう。
わたし、本当にうれしくて、感動したの。
遠目に見ると、ふわふわモコモコとした輪郭に見えるのだけれど、桜の森の満開の下(というには小さな小さな森だけれど)に入ると、様子は一変する。昨晩の戦いのあとが、桜の木々の傷となって、まざまざと見えてきた。小枝はあちらこちら、足元に落ちているし、場所によっては花を開かせたまま、あと首の皮、いいえ枝の皮いちまいでつながっているような箇所もあった。ちょっとでも風に吹かれたら完全に折れてしまいそう。
「春の嵐との戦いには勝ったけど、ずいぶんとやられてるね・・・。」
リンくんがボソッとつぶやいた。
周囲を見回すと、ちらりほらり、ニンゲンがお花見をしているのが目に入った。
「うちもお花見にしよう!シート敷くよー!ホラー!みんな、シートの上から出ないでよ!虫さんとか来ちゃったら困るから、お約束ね。」
「あーーーーいっ!!!」
リンくんのコトバに元気よく返事をしたのはすず&フクだった。
「うふふ。すずフクはお花見はじめてだもんね。うれしいのねー?」
「ウンっっっ!!!」
わたしはそこで、ひとつ提案をしたの。
「そうだ。いいこと思いついた。リンくんがシート敷き終わったら、わたしたち、シートに座るでしょう?それまで、みんな目をつぶって待ってましょうよ。それでね、わたしが合図をするから、いち、に、さんっ!でいっせいに上を見上げるの。どう?」
「エー?よくわかんないけど、いいよぉー?」
そんな話をしていたら、リンくんはすっかりセッティングを終えて待っていた。
「ささ。上席ができあがりましたよ。どうぞどうぞ。」
みんなで目をつぶりながら、シートに上がる。
「おっで、イッチバーン!」
ボブぞが一番乗り。大きな青い瞳をギュッとつぶっている。
「エーッ!オヤビンはやーい!」
すずとフクがボブぞを追いかける。小さなお手てで目をかくしているけれど、見えちゃってないかな?
「アッアッ・・・。おれも、おれも!」
ボブおニーさんは、いつだって、みんなの様子をしっかり見届けてから動く。
「では、わたしがみっつ数えるからね。さん、でいっせいに目を開けて上を見上げるよ。」
「・・・いーーーち、・・・にぃーーーー、・・・さんっーーーーー!!!」
「うわぁうわぁうわぁうわぁうわぁあああああ!アーーーーーッ!」
「すず、落ちついて、落ち着いて。」
「キレーーーーっ!」
「アッ!フクも、すずちゃんのマネするの!アーーーーーッ!キレーーーーーっ!」
すずもフクも、とってもうれしそうに、そして目いっぱいの背のびをして、1mmでも高くを見上げようとあごを突き上げていた。
「ボコちゃん、コレがお花見ってやつなんだねー?すず、大好きになっちゃったよ!」
「アッ!フクもすずちゃんと一緒で、大好きになっちゃった!」
「おっはなみー!おっはなみー!キレーーーーーっ!」
はしゃぎまわるすず&フクを優しく見下ろす、無数の桜の花びらたち。
わたしたちが見上げた桜のドームは、嵐に打ち勝った誇らしげな姿に見えた。
「ねぇねぇ、おでのロケハン隊長、めっちゃ良かったでしょ???ね?ネーちゃん?」
「そうね!ボブぞがこんなによい場所を見つけてくれなかったら、すずもフクもはじめてのお花見、こんなに喜んだかわからないものね。アリガトね。」
「エッヘン・・・!」
ボブぞは姉のわたしにホメてもらうことがとっても好きなの。いつまでたっても甘えんボブぞなんだから。うふふ。
(・・・プシュッ・・・!)
「アッ、さっそく、おビーいただいちゃいますよぉ。ほらほら、オリオンビールのいちばん桜、だとかっていう限定ビールだよ。缶がかわいいからジャケ買いしちゃった!」
リンくんが早く飲みたそうにしているので。
じゃあ、わたしたちも、みんなでカンパイしましょ。
「せーのっ!カンパーイ!お花見、大成功!!!」
ウフフ。これだから、桜の季節は楽しいのよね。
ボブこ