十”ぬい”十色のぬい友たち

わっしはペンギンの勘九郎。

我がボブ家では”スイーツ番長”として活動していて、どうにもこうにも甘いものに目がないのだ。

この小さな郊外の街、八千代台で、ちょっとユニークなカフェがあるのだ。
それが、ぬい撮りのできるカフェ”むぎかふぇ”だ。

以前、リンくんがライオンのボブぞと行って、おみやげにワッフルとシフォンケーキを買って帰ってきた。それが絶品だのなんだのって、スイーツ大好きなわっしは、すっかり憧れの場所になっていた。

今日はついに、わっし、むぎかふぇデビューできるらしい。

「ねぇねぇ、リンくん。”むぎかふぇ”ってさ、ぬい撮りができるって店なんでしょ。ところで、”ぬい”ってなぁに?」

リンくんに質問してみた。

「えーっと・・・えーっと・・・。んーっと・・・。勘九郎も、”ぬい”なんだよね。”ぬい”の代表である勘九郎と一緒に行って遊べるカフェってことかな。」

「わっし、”ぬい”なの?ペンギンだけど?」

「あいや。。。んーっと。まぁ、勘九郎は、ペンギンの”ぬい”だよね。」

フンッ。リンくんのやつ、ごまかしやがって。
わっし、知ってるもん。”ぬい”ってさ、家族って意味でしょ。我が家では”オハナ”って呼んでる。
リンくんってば、うちのオハナーとか言ってヘラヘラしとる。たぶん、”ぬい”ってそのことなんだと思う。(Rin注: ハワイのことばで家族のことをOhanaというそうです。響きがきれいだから、常用しています。)

「それでね、今日は、”ぬい”友会なんだよ。むぎかふぇに行きたいっていってくれたオトモダチと集まって、みんなで遊ぶよ。あ、ニンゲンと、そのニンゲンさんたちの”ぬい”、つまり、勘九郎にとってはオトモダチだね。勘九郎もさ、オトモダチに会いたいでしょ?」

「おう!もちろん!わっし、オトモダチとお話するの、大好きだよ!カーン!しっかしぬい友、ってなんだ?家族なの?友達なの?やっぱりよくわかんねっけど。」

「まぁまぁ。会ってみたらわかるでしょ。レッツゴー、ぬい友会!」

カンカンカカーン!

そんなわけで、いろいろごまかされた気がするけど、ライオンボブ家の三兄弟(ボブお、ボブこ、ボブぞ)と、わっし、そして、わっしの相棒の”猫(仮名。名はまだない。)”と馳せ参じることになった。

会場の”むぎかふぇ”は、京成電鉄八千代台駅から徒歩5分ほどの場所にある。
平日の昼過ぎのこと。駅の改札を出たところでニンゲンたちが待ち合わせをするというから、わっしらもジィっとリンくんのトートバッグに潜んで、待つ。ここの駅員さんはなかなかのファンシーさで、改札には”鳥しまり役”(鳥の”ぬい”の名前だ)がいたり、プラレールが飾ってあったりして、ちょっと楽しい。

「おで、鳥さんとぬい撮りしてこよおっと!」

ライオンのボブぞがトートバッグを飛び出して、撮影に興じている。

“八千代台駅名物?「鳥しまり役」”

「アッ、どぉもぉ!こんにちは。」

「うひゃぁ!こんにちわーに!」

トートバッグのすき間からわっしがのぞいていると、ボブぞがカラフルなたてがみを激しく乱して、わっふわっふと興奮していた。
ご挨拶している相手は、ブタさんのトンキチたんだ。ニンゲンがやってるTwitterってやつを通じてオトモダチになったトンキチたんと、ようやくお初にお目にかかれたというわけだ。

トンキチたんのあるじさんのサトシくんと、うちのリンくんは初対面だ。トートバッグのなかで息をひそめているわっしからも、布ごしに、人見知りのリンくんが精一杯の外の顔を作って、声を発しているのがわかった。

・・・やめてよね、それ聞いてるわっしのほうがキンチョーするわ。

でも、そんなキンチョーしてたリンくんをよそに、ニンゲンのサトシくんは、すごくていねいにお話をしてくれる、ほんわかしたやさしいおニーさんだった。リンくんはモジモジとボブぞの後ろに隠れていたはずなのに、ちゃんとニンゲンとしてリンくんに接してくれたから、すごく感謝している。
サトシくんのリュックのなかからひょっこりと顔を出したトンキチたん。トンキチたんにそっくりなミニミニサイズのブタさんと、それから腕組みしてる、これまた小さなパンダさん。そして、ナマケモノのモッキーたんとコムギたん御一行様が次々に現れた。

わふわふっ!わふわふっ!(ウレシー!)

ボブぞが大興奮してる熱が、わっしのほうにも伝わってきた。

「他のふたりも、もうすぐくると思うんで!」

リンくんの言う、ふたり、というのはニンゲン単位のカウントらしい。
次の電車が到着して間もなく、パンダのリンリンちゃんとシロクマくりぃむちゃんのあるじさんのアヤノちゃん、そして、その後続の電車から、ダッフィーのくまのすけくん、ちびたくん、ちびこちゃんのママさんの彩さんも合流した。
ニンゲン4人と、”ぬい”が総勢15名様が揃った。

まずは腹ごしらえ。

「4名様でお待ちの、リンさまぁー!4名でお待ちの、リンさまぁ!」

サイゼリヤの入り口で呼ばれたときに、やっぱりニンゲンカウントかよ・・・とわっしが心のなかで毒づいたのは言うまでもない。

(でもね、毒舌キャラはトンキチたんの十八番だから、わっしはだまっておいたよ。)

平日の13時過ぎにもかかわらず混み合うサイゼリヤで、明らかに目立つ、ぬい15名様のテーブル。お皿をよけつつ、文字通りみんなでギュウギュウになりながら、ニンゲンたちもぬいたちも、思い思いにドリアをほおばったり、ハンバーグをカチャカチャした。

“ジィっー。ドリア?それとも、トンキチたん?”

隣のテーブルのマダムたちから、「アラァっ!かぁわいいわねぇぇぇぇぇ!」と歓声を浴びて、わっしは、フフンっ!と胸を張っみたのだけれど、その視線の先は、残念ながらわっしではなく、ライオンのボブ兄弟だった。
やっぱりあの派手なたてがみはニンゲンたちの目をひくのだった。

“混み合うサイゼリヤで、明らかに目立つ、ぬい15名様のテーブル”
“わちゃわちゃ”

「じゃ。そろそろ、行きますか!」

いよいよ、メインイベントだ。ぬい撮りカフェ、”むぎかふぇ”。すっかり打ち解けたニンゲンたちはおしゃべりをしながら歩いて向かった。

2023年も、もうひと月が過ぎてしまった。今日はよく晴れてはいるけれど、びっくりするぐらい風が強くて、ほこりっぽい感じの中に、少しだけ春の匂いを感じる。八千代台の駅前は駅直結のショッピングモールのほかにも雑居ビルが立ち並び、比較的、街らしい様相なのだけれど、ちょっと歩けばそこは住宅地だ。そこらじゅうに古い住居を壊した後の空き地や、キャベツやら大根を育てる畑があって、土がむき出しの場所も多い。要するに、今日のような強風の日は、思わず目をつぶりたくなるほど、砂埃がひどい。それに加えて、今日は上空にプロペラ機まで飛んでいる。ばるばるばるばると低い音で通過していく金属の塊は、この平和な郊外の小さな繁華街には似つかわしくないけれど、これがなければ八千代台ではないのも事実で、やっぱり独特な街なのだ。

「到着でーす!」

先導していたリンくんが足を止めた。
踏切の真横にある白い壁の建物。ここが”ぬい”の聖地、”むぎかふぇ”だ。

「こんにちわー!」

店の主のむぎさんに迎え入れられたニンゲンと我々”ぬい”は、ぬい撮り席と呼ばれる飾り付けがたくさん並ぶテーブルに座った。ニンゲンの前に、それぞれの”ぬい”が勢ぞろいで並ぶ。その眺めは圧巻!だ。

わっしの身長にぴったりサイズのティーセットを見つけたので、わっしはそこに席を取ることにした。相棒の”猫(仮名。名はまだない。)”が相手だ。

“なんだか、猫(仮名)のやつ、偉そうなんだよな”

注文を取りに来た店主のむぎさんに、わっしは我先にとご挨拶をかました。

「カンカンカカーン!わっし!ペンギンの勘九郎っていいます!スイーツ番長やってます!ワッフル食べに来ました!」

「わぁなるほどー!勘九郎くんかぁ!スイーツ好きなのね、そぉゆぅことね、りょうかーい!」

「わぁいわぁい。楽しみなの!」

注文を終えて一息つく。わっしは、プレーンと桜味のワッフル、そして、ホットのカフェラテをお願いした。

リンくんと、ライオンの末っ子、ボブぞさんは一度来たことがあるらしい。その時は、食事のセットでおにぎりとワインをぶちかましたらしい。その日によって食事のメニューやスイーツが変わるのがお楽しみでもある。今日は、カウンターにテイクアウト容器に入った焼き鳥丼のお弁当が並べられている。

「お待たせしましたぁ。」

思い思いに撮影をしていたニンゲンたちが、わらわらと席を立った。

「手つける前に、写真撮りましょぉよ!」

ここに、”ぬい”の世界ができあがった。

午後の日が差し込む素敵なカウンターテーブルに、ずらりと並ぶ我々。ここはぬい撮りカフェというけれども、わっしら”ぬい”にとっては、わっしらが主役になれる、特別な場所なんだと理解した。

テーブルを陣取り、まるでスポットライトを浴びるステージ上の俳優のように振る舞う。といっても、わっしをはじめ、オトモダチの誰しもが、目の前のワッフルプレートにくぎづけなのだけれども。

最左: コムギたん、トンキチたん、モッキーたん
中左: くまのすけくん、ちびたくん、ちびこちゃん

中右: くりぃむたん、リンリンたん

最右: ボブぞ、ボブお、ボブこ、勘九郎(わっし)

アッチコッチから撮影されるのは、さながら記者会見でフラッシュをたかれるような気分だ。

「コッチに目線くださーい!はぁい、そんな感じでー!もう1枚お願いしますっ!アッ、コッチのカメラでもお願いできますかー?」

忙しいったらありゃしない。ニンゲン4人がスマホを手に(リンくんはミラーレスまで持参だ)、さまざまな角度からわっしらにカメラを向けた。

「ママ―!・・・ねぇー、そろそろたべていーぃ?」

撮影会が佳境の中、声を発したのは、ダッフィーのくまのすけくんだった。

(助かった・・・!アイスクリーム溶けちゃうところだったよ!くまのすけくん、グッジョブ!カーン!)

わっしは、ココロの中でガッツポーズをした。
ニンゲンたちは放っておいたらこのままずっと撮影を続けるのじゃないかと思うくらいだったから。

わっしが自分の分のプレートの前でナイフとフォークを用意してもらうのを待っていると、くまのすけくんは、ちゃっかりママさんの彩さんに甘えるかのようにおひざの上に座り、テーブルの上にそのモコモコの手を置いていた。

くしゃっとしたやわらかな毛並みとほんの少し伏せた黒いお目めが、彼の、まるでひだまりのようなやさしさを表しているかのようだ。

モグモグ。モグモグ。

「おいしいね。おいしいね。」

「オトモダチ同士で食べる、ワッフル、とってもおいしいね。甘くて、やさしくて、ふんわりして、でもカリっとしていて。すっごく、おいしいね。」

モグモグ。モグモグ。

大好きなスイーツを、大切なオトモダチと一緒に、おいしいねって言えること。

わっしは、眼の前のワッフルプレートを夢中でつついたのだけれど、なんだか、ひとくちひとくちを食べながら、ものすごく胸がいっぱいになった。

“むぎかふぇ定番のワッフルだよ!”
“美しいカフェラテと一緒に”

モグモグ。モグモグ。

あぁ。おいしいな。あぁ。おいしいな。

リンくんの方を見上げると、やっぱりリンくんも胸がいっぱいになっているようだった。

「なぁ、リンくん。おいしいなぁ。」

「そうだねぇ。勘九郎。おいしいねぇ。しかし・・・ワッフル2枚にアイス、めっちゃおなかいっぱいになるねぇ。」

リンくんは胸がいっぱいなのではなく腹がいっぱいなのだと、わかった・・・。あぁ、残念なニンゲンよ。

「日も傾いてきたし、わたし、二杯目、日本酒いただこうかしら。うふ。」

ワッフルを食べ終えたところで、二杯目のドリンクを注文。お酒を飲めるカフェでもある”むぎかふぇ”さん。ライオンのボブこちゃんは、とっておきの生酒を出してもらってごきげんだ。

「くりぃむもー!くりぃむも、ニィホォンシュなめてみるぅー!」

シロクマのくりぃむちゃんが日本酒に興味津々。くりぃむちゃんとボブこちゃんで、ニコニコしながらおしゃべりに花を咲かせている。

「うふふふ。」

「うふふふ。」

“くりぃむも、ニィホォンシュなめてみるぅー!”
“八仙という銘柄のお酒。香りがふぅわりと良くて口に含むとすっきりさっぱり!”
“各自、自由時間”

飲んだり、食べたり、撮ったり、飲んだり。
そうこうしている間にも、我々以外にもお客さんはどんどん入店してきて、すっかり満席状態。
トンキチたんは初めましてのお隣さんとすっかり打ち解けて、おしゃべりをしたり、のんびりこたつに入って遊んだりしている。

“トンキチたん、おこたで遊んでる”
“トンキチたん(右)とボブぞ(左)”

ニンゲンの世界に十人十色、があるのであれば、”ぬい”の世界も、十”ぬい”十色。

積極的で社交的な、トンキチたん。
ママさんにべったり甘えん坊さんの、くまのすけくん。
好奇心旺盛で物怖じしない、くりぃむたん。

たくさんの”ぬい”のオトモダチに会えて、わっし、すごく嬉しかったんだ。

それから、うちのリンくんも、とっても楽しかったんだそうだ。

たくさんのオトモダチに囲まれて、大好きなスイーツを食べて、なんだか心地よい時間だった。

ふわふわのもふもふで、やわらかくやさしい時間が流れていた。

わっしは3倍くらいにふくれた重いおなかをかかえて、すっかりアタマもまわらなければ飛べなくもなっていた。夕暮れの空、みんなとバイバイした後、北風から逃れるように駆け足をしてみた。

カーン!

勘九郎

“集合写真!むぎかふぇさんの看板まんばちゃんも一緒だよ!”

ぬい撮りのできるカフェ「むぎかふぇ」 @千葉県八千代市(京成八千代台駅)↓↓↓
Twitter: @mugi_otohfu
https://twitter.com/mugi_otohfu


前回のむぎかふぇ訪問のおはなしはコチラ↓↓↓
「ボジョレーでおにぎりを喰らうライオン」
https://bobingreen.com/2022/12/06/3136/

京成八千代台駅の鳥のぬいさんたちはコチラ↓↓↓
「”トリシマリヤク”に会う」
https://bobingreen.com/2021/10/08/1298/

オモトダチのみんな、アリガトなの!
リンリンたん @AyaMi_0_0_
トンキチたん @nkickbaby
彩さん @colored07 (くまのすけくん @kumanosuke_d

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Rin(リン)

ぬいぐるみブロガー、Rin(リン)です。 ライオンのボブ家と愉快な仲間たち、そしてニンゲンのケンイツ園長と一緒に、みどりキャンプ場で暮らしています。 ボブ家の日常を、彼らの視点でつづっていきます。

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