彼岸も此岸もわたしの場所
わたしは、ひふみ。二度目のウーパールーパー生を、楽しんでいる最中だ。
この世界は、青々とした葉をつけた木々が立ち並び、たくさんの種類の花が咲き乱れ、空は青く澄みわたっている。季節によって、それぞれの色味が変化するのがとてもおもしろく、息をするだけでもすごく生きているという感じがする。今のわたしは、陸も海も空も、どこまでも自由に飛び回ることができるのだ。
ひとつ前の世界は、小さな部屋のなかの、そのまた狭い透明の水槽のなかに、たったひとつ土管があるだけの場所だった。色のない世界だった。常に水の中で泳ぎ回り、そういった意味では当時のわたしも自由だったはずなのだけれど、今となっては、そこがとても不自由で不自然な状況だったことを思い出す。もう、ずいぶんと前の話だから、忘れかけているけれど、忘れてはいけないと思って、たまに思い出すようにしている。
そのふたつの世界を移動する間に、わたしは半年ほど、旅に出ていた。
リンくんに言わせると、わたしはある日突然なんの前触れもなく水槽を後にして、ある日突然、リンくんの目の前に帰ってきたとのことだ。わたしにとっては、色彩を求めてふらりと出かけて、いろいろな情景をさまよっていたら、リンくんのほうがわたしに気がついた、それだけのことだ。
ただ、その間の旅路の詳細は、他の人に言ってはいけないことになっている。もちろん、リンくんにも、話していない。
そうそう。
昨日、生まれて初めて、彼岸花の花畑に連れて行ってもらった。案内役はリンくんだ。
リンくん、わたし、なんだか、この花、見たことがあるような気がするんだよね。
え?あ、そぉ?たまに道端とかおうちの庭とかにも咲いてるもんね?どこか近所で見たかな?
いや、そういうことじゃない。わたし、紅の絨毯を、見たよ。今目の前に広がっているのよりも、もっともっと果てしなく、気が遠くなるような広さの、紅の絨毯だよ。
そんな場所、あったかなぁ・・・?
リンくんはとても不思議そうな顔をしていたけれど、それは当然だ。わたしの旅については、誰にも話してはいけないんだもの。
彼岸花。
あの視界いっぱいの紅の世界を、とても懐かしくも畏れ多く感じるのだ。
あちらの世界も、こちらの世界も、わたしにとっては、自分の場所だ。
リンくんの手のひらの上で、ひとつ深呼吸をした。
わたしは、二度目のウーパールーパー生を、すばらしく彩り豊かなものにしようと、心に誓った。
ひふみ
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