ボブ家のモーニングルーティーン

とぅーんとぅーん・・・とぅーんとぅーん・・・♪
・・・・・ゴト。

枕元で電子音がしたかと思ったら、硬い音がした。

ぐぉぉぉーん。ふわぁ。

リンくんがスマホを畳の上に置いて、その勢いで伸ばした腕をそのままに、大きくひと伸びした振動が伝わってきた。

おれらはひとまとまりにグルっとモーフにくるまっていて、自由に動くことはままならない。まだ目を覚ましていない弟たちを起こさないように、おれは、そぉっとまぶたを開けて、足先だけ、ほんの小さく、ぐぃぃっと、ひと伸びした。

リンくん、おはーに。

ボブお、起きた?おはーに。

いつもの朝のお決まりの挨拶だ。

普通は、おはよう、とか、おはようございます、とか、グッモーニン、とか、そういうたぐいのことを言うんだと思うが、我がボブ家では、「おはーに」、が正式な朝のご挨拶だ。

いつから「おはーに」、になったのか、今となってはもう覚えていない。おれがものごころついたときから、もう、朝の挨拶は、「おはーに」だったから、何が何でも、これまでも、これからも、朝は「おはーに」だ。

改めまして、おはーに。ライオンのボブおです。
いつもの我が家の朝が始まったの。

“ボブ家は「おはーに」で朝を始めるの”

んあ?ニーちゃん、おはーにぃい。

弟のボブぞも起きたらしい。こうなると他のみんな起きていても起きていなくても、容赦なく起床の時間だ。ぐわっと跳ね起きたリンくんに、ぐわっとモーフごと抱っこされて、ドタドタと居間のソファまでそのまま直行する。通称、「オハナ束(おはなたば)」の朝の大移動だ。

「オハナ束」、というのも、「おはーに」と同様、我がボブ家オリジナルの呼び名だ。
まず、「オハナ」とはハワイのコトバで家族のことを指しているらしい。おれらは家族になったばかりの頃、ちょっとこっぱずかしくて、互いを家族と呼ばず、「オハナ」と呼ぶようになった。ライオンだろうが、クマだろうが、ウサギだろうがカエルだろうがペンギンだろうが、なんならニンゲンもひっくるめて、みんな「オハナ」だ。

そして、その「オハナ」が1枚のモーフにくるまって眠る姿が、さながらラッピングを施した切り花の”花束”のように見えるから、というわけで、いつからか、「オハナ束(おはなたば)」、と呼ばれるようになった。

リンくんのくせに、意外といいネーミングセンスをしていると思っている。

今日寝室で眠っていたのは、弟のボブぞ、ウサギのすず、アザラシのフク、そして、おれの4名だ。おれら寝室組は、リンくんにぐるっとオハナ束にされて、居間のソファまで運ばれ、そのままの体制で座らせられる。
一方、普段から居間のソファを寝床にしているのは、おれの妹でライオンのボブこと、ツキノワグマのもっつ、そして、みんなおなじみビーグル犬のハチまるだ。ボブこはお姫さま状態で、両脇をもっつとハチまるに守られ、まだ優雅にスゥスゥと眠っている。
おれらは彼らに合流する形で、ソファの上に居場所をわけてもらって、朝を始める。

“「オハナ束」、朝の大移動”

・・・プチっ・・・むぱっ。

なんの音かと思うでしょ、我が家のテレビだ。

今となれば珍しいプラズマテレビで、なんとなくモサっとした動作が特徴だ。画面が映るまでにちょっとした遅延がある。

おれは小さい頃から、テレビが大好きだった。今も変わらず、毎朝の情報番組は、イチニチのスイッチを入れるのに大切なのだ。チャンネルは、グッドモーニング、平日の朝は、決まってテレ朝だ。リンくんは昔から気象予報士のヨダさんが好きらしく、それが主たる理由らしい。

ようやくおれらはリンくんから開放されて、ソファで各自、自由時間になる。今日の天気をチェックして、ガラス窓の外を眺めたりしながら、もうちょっとウトウトする。

リンくんはというと、台所へ移動して、自分のルーティンに入る。湯沸かしポットに水を注ぎながら、口にはマウスウォッシュを含む。お湯を沸かしている間、食卓のイスに座ると、謎の機械を取り出して手首に巻き付ける。血圧計ってやつだ。ここ1ヶ月ほど、リンくんはこの新しいガジェットで、なにかの数字を取ってるらしいんだよね。毎回、ブオォォォォっという聞き覚えのない音がするから、まだおれらは慣れなくてちょっと緊張する。

いやぁ。こないだの健診で、血圧スゴイ高く出ちゃって。そろそろ気をつけないとさぁ・・・。

リンくんはそんなことをブツブツといいながら、毎朝と毎晩と、ブオォォォォっをやっている。最近、料理の味付けはもっぱら薄味だし、大好きな黒ごまのおせんべいも、あんまり食べなくなった。その代わりに、アルフォートか、つい最近覚えたばかりのドライクランベリーをバクバク食べるようになった。このままだと、むしろ別の数値を気にしたほうがいいんじゃ・・・という気になる。

そう、それでね。リンくんはブオォォォォっを2度連続でやってスマホに記録を保存してから、ゴム手袋を両手にはめて、昨日の晩メシの洗い物の残りを始めるのだ。昨夜のうちに洗っちゃえばいいのに、と思うのだけど、晩酌の後は手元がヘニャヘニャのクルクルパーになるものだから、お皿やコップは朝洗うことにしてるらしい。おれら、過去に何度もひどい目にあったことがあるから、それが習慣化して、少しだけ安心している。*

洗い物が終わるとゴム手袋を外して、ようやくお茶をいれるんだ。最近は、玄米茶にハマってるらしい。お茶パックっていう不織布の白い袋にあらかじめ茶葉を小分けにしておいた自家製ティーパックをサーモスに突っ込んで、ダバダバとお湯を注ぐ。コップに移しかえると、リンくんはおれらのいるソファにやってきて、ズズゥっと、とひとくちすする。

その頃になると、おれらはぱっちり目が覚めて、すっかり元気モードだ。

オトモダチたちに「おはーに」のご挨拶を送るのは、このタイミングだよ。

日によって、おれらライオン兄弟が両手を広げたり、ウサギのすずとアザラシのフクが元気にはしゃいだり、ハチまるがニーッとはにかんだりする。時にはボブこがゆったりと微笑み、もっつがモサモサの毛並みを整えつつ朝の光のもとでダンディズムを発揮したりする。

そして、ご挨拶が済んだところで、おれらはイチニチのスケジュールを確認する。

ねーねーねねー!ニーちゃーん!今日は何して遊ぼっか???

ねーねーねねー!えへへえへへ、何して遊ぶぅ?

私も一緒に遊びたいぃ。

えー、リンくんはダメだよぉー。

わーん、ボブぞ、抱っこさせてよぉー!チュゥもー!チュゥゥゥ!

おわっ!もぉーリンくん、朝からしつこいぃ。チュゥ、だめぇ。

・・・そうやって、おれらは、わちゃわちゃとそれぞれの朝を迎える。
ふわりと漂う玄米茶の香りをクンクンしながら、今日も、何でもない、そしてすばらしいイチニチになりますようにと願うのだ。

ボブお

“毎朝、おれらは元気いっぱい!”

*ボブお注: 過去に何度もひどい目にあったというリンくんのエピソードはコチラ↓↓↓
「デストロイヤーリン」(2020.7.7)
https://bobingreen.com/2020/07/07/402/
「デストロイヤーリン再び」(2021.8.24)
https://bobingreen.com/2021/08/24/1176/

いいね! Like! 0
読み込み中...

Rin(リン)

ぬいぐるみブロガー、Rin(リン)です。 ライオンのボブ家と愉快な仲間たち、そしてニンゲンのケンイツ園長と一緒に、みどりキャンプ場で暮らしています。 ボブ家の日常を、彼らの視点でつづっていきます。

シェアする

1件のコメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください