オレンジ色の帯を首に巻く
ぴぅぅぅぅぅぅっ!
「いやいやいや。風、強いなぁ。」
おれがお昼寝からノコノコと起きてきて窓の外をふと見ると、隣の林の木々がゆっさゆっさとアタマを振っていた。
ライオンのボブおです。
今日はチーバの最高気温は21℃。ン?11月だぜ?っていうか、28日だぜ?もう終わるぜ?もう12月になるぜ?
ほう。
やっぱり今年は春からずっと変な気候が続いているみたいだ。
「ン?この感じ、気温も下がったのか?」
「さぁて、どうかな。ちょっとだけ出てみよか。」
ガラガラッ
夕方5時前。
リンくんに抱っこされて、おれはみどりテラス(毎度の注ですまないが、うちのベランダのことをそう呼んでいる)に出た。
団地の大規模修繕によって、我が家の窓サッシが刷新されてから約1年が経った。エレベーターのない5階、吹きっさらしの角部屋の我が家、隣には広大な林が広がっている。おのずと砂ぼこりも溜まるってわけね。
昨日リンくんは重い腰を上げて半年ぶりに窓そうじをしたのだけれど、まるでリンくんの雑な性格を表すかのように、窓の上半分はピカピカに磨かれているのに対して下半分には拭き跡がちょいちょい残っている。
「なぁ、洗剤残っちゃってるよ、下半分もやりなおせば?」
・・・なんておれは言うべきじゃないことは理解しているから、何も言わない。本人もわかってるし、次に雨が降ればきっと流してくれる、ハズだ。
第一、おれは窓の外を眺めることは好きだけれど、窓そうじはしたくないもの。おれのフワっフワのお手てが、ガサガサになっちゃったらやだろ?
そんな半分だけキレイになった窓サッシを引いて、みどりテラスに出ると、西側の空に、オレンジ色の帯ができていた。頭上には、もっさりした重い灰色の雲が行列をなして流れていくのだけれど、ココは立ち入り禁止とばかりに不可侵エリアがあるみたいだ。
オレンジ色の帯は、地表と雲との間に今日の残りの光を全部濃縮したエネルギーで、おれの鼻先を照らす。
「スゥー・・・フゥー。スゥー・・・フゥー。」
もひとつ、スゥー・・・フゥー、をしようと思ったら。
ぶえっくしゅっ!
リンくんがひとつくしゃみをした。
ン。
気を取り直してみっつめの深呼吸を済ませると、空を見上げて手を伸ばした。
オレンジ色の帯は意外とふんわりとしていて、それでいてとっても長かった。灰色の雲まで連れてこないようにそっと指先で払って、それから、おれはそれをリンくんの首に巻いてやった。
「それ、巻いておけよ。風邪引くなよ。」
「エ?ボブお、優しいね。ありがとう。」
フフン。おれは優しいライオンだもの。
リンくんはオレンジ色に顔をうずめながら、ちょっとはにかんでいた。
ぴぅぅぅぅぅっ!
おれを抱っこする手に力がこもった。
荒々しい風に吹き飛ばされないように、さぁお部屋に入ろうか。
ガララララッ
窓の鍵をかけてカーテンを閉めようと視線を落とすと、部屋の中から見る窓のすりガラスの下半分には、白い謎の模様が描かれていた。
今日も夜がやってくる。
ボブお