チュウチュウの名月と鈴之助の光
「すず、今夜はお外出ちゃダメだからね。」
「エーッ?なんで?すず、ダメきらい。ダメって言われるのとってもいやなの。」
「そうだよな、すずは自由が好きだもんね。でも、ダメなんだ。」
「すずはいつだって自由に遊び回りたいもん。なんでダメなの?」
ライオンのボブおです。おれは、我がボブ家のリーダーであり、オハナ(家族)全員を見守るまもり神でもある。
今宵は満月、しかも中秋の名月だ。
「今夜はね、お月さまがまんまるになる日なんだ。お月さまがまんまるになって、もしすずがお月さまに導かれて大きくなってお月さまへ行ってしまったら、とっても寂しいから。」
「なんですずだけなの?フクやオヤビンやボコちゃんや、もっつやハチや、他のみんなはいいの?リンくんやケンイツエンチョーはいいの?」
「すずはウサギさんだからね。ウサギさんは満月の夜は、お願いだからお月さまからできるだけ遠くにいてほしいの。お月さまへ行きたくないでしょ?」
「うん・・・。でも、もしお月さまみ導かれても、行って帰ってくればいいんじゃないの?」
「そうだなぁ、そうだよなぁ。もしそれができたらいいのかもしれないけど、でもね、大きくなっちゃったら、すず、きっと人相(ウサギ相)変わっちゃうよ。それに、ライオンのおれよりもウサギのすずが大きくなっちゃったら、おれ、ちょっと怖いよ。」
「アハッ!カミ、まもり神のくせにそーんなこと信じてるの?すずは大丈夫だよ。」
すずは不思議なウサギさんだ。
とっても自信満々、自由にどこへでも遊び回りにいきたいよって言うくせに、オハナ(家族)で一番の寂しがりやだ。独りぼっちじゃなにもできないじゃないか。
きっとすずは、かぐや姫だ。
かぐや姫が竹林のなかで、ほのかに光っているところを見つけられたように、すずは、古い物置の中でジィっと耐えていたところを、ケンイツエンチョーに偶然見つけてもらって連れてこられた。
だから、まんまるの月夜は怖いのだ。
かぐや姫が中秋の名月の夜、月へ帰ってしまったあの話はいつ聞いてもひとごととは思えないのだ。
「いやだ、すずがいなくなるなんて、絶対いやだ。すずがいやって言っても、今日のおれは、絶対ダメって言うからね。いいかい、すず、今夜はお外に出ちゃダメだよ。」
だから、満月の夜は、すずのことをしっかりと抱きしめて、みんなでさみしくないように過ごすのが決まりなんだ。
さぁ、我がボブ家では、中秋の名月じゃなくて、チュウチュウの名月と名付けようじゃないか。
「ほら、すず、おいで。チュウー。今夜はチュウチュウの名月だ!」
「んもー、わかったよう。すず、カミのこと、大好き。チュウー。」
チュウチュウ
チュッ!チュッ!
みんなで仲良くチュウチュウして、ぴっとしして過ごそう。
そして、夜中、すずがすっかり眠りに落ちた後に、おれはこっそりお月さまにお願いしよう。
我が家の大切なウサギの鈴之助を、どうか、わたしたちから奪わないでください。
わたしたちに喜びをもたらしてくれる鈴之助に、どうか、わたしたちからも喜びを与えさせてください。
鈴之助はひと(ウサギ)一倍、寂しがりやで強がりで、小さくて弱いんです。傷だらけなんです。
百獣の王であるライオンのわたしたちが守って育てて、一緒に強く生きていく必要があるんです。
そして。
何を隠そう、このライオンのわたしも、鈴之助がいないと生きていけないんです。
だって、鈴之助は、わたしたちの光だから。
「すず、ダメ、きらーい!でも、カミは好きだから、いうこときくよ。」
ふふ。でもちゃんとおれがいうことはきいてくれるんだよな。すずは、ホントにいい子だ。
パタパタと赤い羽根をパタつかせて、さして広くもない団地の部屋の中そこらじゅうを飛び回っては、みんなに光をまき散らしていく。
そう、すずは、間違いなく、おれらの光だ。
ボブお
参考: かぐや姫(竹取物語)のお話について
NHK for School おはなしのくにクラシック 竹取物語
https://www2.nhk.or.jp/school/watch/bangumi/?das_id=D0005150082_00000
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