お日さまお風呂
シュッシュッシュッシュ
シュッシュッシュッシュ
リンくんが無言でブラシをせっせと動かす音が聞こえている。
ボブおです。
おれね、いま毛並みをブラッシングしてもらってるんだ。
お気に入りの星柄のTシャツも脱いで、ハダカんぼで、リンくんのヒザの上に乗ってシュッシュしてもらってるんだ。無防備そのもの。おでこ、ほっぺ、鼻の下、口周り、右手、おなか、左手。それから、背中にシッポ。くまなくシュッシュシュッシュしてもらうの。
おれの弟のボブぞも妹のボブこも、それからすずフクコンビも、オハナ(家族)みーんな、ハダカんぼになってね。アウトドア用の長椅子の上で、ゴローンゴローンってしながら、順番を待ってるの。
あ、すずとフクは普段からハダカんぼだけどさ。
まだ6月の、まだ午前10時だというのに、おひさまの光は、すっかり真夏だった。キショーヨホーシの片岡さんによれば、今日は大気が不安定で、それから、32℃まで上がるのだという。たしか5月にもすごく暑くなった日があったけれど、そのときよりも何倍も湿気が多いものだから、体感はとてもジットリとしている。
下を向くリンくんの汗の粒が首の後ろをつたって、おれのほうにまで垂れてこないかって、ハラハラドキドキなの。
この時間のみどりテラス(我が家のベランダのことだ)は、ちょっと久しぶりだった。
夕暮れどきには出てみたりしていたけれど、ムワッと具合がぜんぜん違う。
「なぁー、こんなに暑かったっけ?あっちぃあっちぃなんだけど!」
「ホントねー。あっちぃあっちぃだよ。梅雨、ドコ行っちゃったんだろね?このあたりはまだ雨降りそうもないし、いまのうちに、おひさまおふろだよ。」
リンくんは、まるで職人のように豆絞りの手ぬぐいをアタマに巻き直した。フゥ、これで、汗がしたたってくることはないだろう。部屋着の緑色のVネックTシャツと、子供服売り場で買ったショートパンツをはいて、ビーサンをつっかけている。首から下は夏休みの少年のような格好だ。
眼下には、デイサービスの送迎車や郵便屋さんのバイクやらが行き来する。団地の、変わらぬ平和な光景だ。
「おひさまおふろ、こーこーちーよーしーぃ。」
ポカポカゆるゆる、おひさまの下でブラッシングしてもらって、それからひなたぼっこ。
それがおひさまおふろなんだよ。おれはお水でジャブジャブのおふろは入ったことがない。もう8才なんだからそろそろ克服しなよ、と言われてるけど、なかなか勇気が出ない。
だから、今日もおひさまおふろ。
シュッシュッシュッシュ
シュッシュッシュッシュ
「わきの下もシッカリやってよね?」
「うん、もちろんだよ。」
「おれのあごの白いとこも丁寧にお願いね。」
「はい、はいな。」
「それから、シッポも入念にフッサフサにね!」
「ふふ、ダイジョブだよ、全身くまなくケアさせていただきますよぉ。」
フーンフフーンフーンフフーン
フフフフフーンフーンフーン
思わずはなうたが出ちゃう、こんなお日さまお風呂日和。
はー!さっぱりスッキリ!このまましばらく昼寝しちゃおーっと。
お日さまの力、ありがとなの!
ボブお
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