夏の終わりのみどりテラス

バタバタバタバタ
グァんっ
バタバタバタバタ
グァんグァんっ

さっきリンくんが干したばかりのデニムの濡れた両脚が、風にあおられて奇妙なダンスをしている。

山吹色と抹茶色の長方形が、白い大きなバスタオルハンガーの上でバランスを失って、洗濯バサミに抵抗してシワシワの台形になってしまっている。

夏の間のみどりテラス、そう、我が家のベランダは、灼熱地獄だ。南東向きの最上階角部屋、といったらとても聞こえはいいかもしれないけれど、古いコンクリ造りの団地、さえぎるものが何もないものだから、あちあちのあっちっちちちーだ。

それなのに、今年は異常な暑さに加えて、急に大きな雨粒がボトリボトリと落ちてくるものだから、おちおち日なたぼっこなんてしていられない。

こんにちわーに!アザラシのフクこと鰒太郎だよ。

あのね、フクね、最近、なんだか毛並みがペタンって寝ちゃってね、フワフワモコモコがなくなっちゃってたんだ。しかもねー、リンくんがフクのアタマやオナカをなでなでグリグリしてくるから、ペッタンコになっちゃった。

「リンくぅーん、あのね、フクね、ブラッシングしてほしぃの。フワフワに戻してほしいの!」

「ホントだねぇー、すっかりペタンコだぁ。」

「あーっ!いいな!すずもブラッシングしてほしいよー!すずもペタンコだよぉ!」

フクがリンくんのおひざの上でおねだりしていたら、ウサギのすずちゃんもやってきた。

確かに、すずちゃんはフクよりもこの夏お出かけする回数が多かったから、なんだか、くにゃっって小さくなっちゃってた感じ。もともと後ろに寝気味の長いお耳が、さらに向こうに行っちゃってる。

「フク、すずちゃんと一緒がいいの!一緒にやって?」

「おっけーおっけー。じゃぁ、洗濯干し終えたらブラッシングしてあげよっかね?」

「ウンッ!わーいわーい!」

「みんな夏の間にいぃぃぃっぱい遊んだからだよねー。お風呂じゃなくていいの?久しぶりにウタマロ風呂してもいいんだよ?」

「お風呂はイヤなの!乾くまで遊べないもーん。今日はブラッシングでお願いしまぁす!」

みどりテラスにキャンプいすを出してもらって、クッションの上でゴロンと横になる。

“みどりテラスでゴロン”

今日は真っ青な空というよりは、雲が多め。お盆を過ぎて8月も下旬、ここ数日になってようやくほんの少しだけ、秋の気配を感じる気がするんだ。日が暮れるのは早くなってきたし、夜になると、りんりんりんりんと虫が鳴く。ちょっと前までは夜になるとセミたちが大合唱していたのにな。

「なんだか、いつもこの時期は、寂しいんだよねぇ。」

豚の毛のブラシを手に持ったリンくんが、話しかけてくる。

「ンー?なんで?」

ちょうどしっぽのあたりをぐいぐいと毛並みに逆らって動かしているところだった。ちょっとこそばゆくて、とってもキモチいいの。

「8月ってさぁ、お盆過ぎて、夏が終わるなぁっていうこの瞬間が、たまらなく愛おして寂しい。」

「ふぅん。そういうもの?フクはわからないなぁー。だって、みんな変わらず一緒にいるでしょ。」

「そぉだね、みんな春も夏も、秋も冬も一緒だよね。そういうことじゃないんだけどなぁ。えーっと。」

「ねぇ、リンくんは忘れちゃった?去年のこと。ほら、みどりテラスでさ、ゆきあいの空、一緒に見たじゃない?フクはああいうのが好きだよ。」
(ゆきあいの空のお話はコチラ「モクモクとホワホワ、ゆきあいの空のこと」

「あぁ、フクの雲だね。あったね。そうか、そろそろ1年が経つんだ。」

「多分リンくんのそのキモチは、寂しい、じゃなくて、懐かしい、なんだよ、きっと。フク、このおうちに来て1年過ぎて、なんとなくわかってきたよ。去年の空を思い出したら、あのときのリンくんのニオイ、思い出すもの。」

「フクって、カワイイねぇ、いい子だねぇ。よーしよーしよーしよーしっ!」

ゴリゴリゴリゴリ!
ゴリゴリゴリゴリ!

「リンくーん!ちょっと!痛い、痛い!やさしくしてぇー。」

「うふふ。フク大好きだよ。はい、終了ー!」

お尻も背中も、オナカもお顔も、両手も、全部キレイにしてもらって、とっても嬉しいの。

“お尻も背中も、オナカもお顔も、両手も、全部キレイにしてもらったの”

フクもリンくんのこと、好きだよって、言おうかと思ったけれど、ホントかどうか、よくわかないから、やめておいた。その代わりに、すずちゃんに耳打ちした。

“お空の下で、すずちゃんに耳打ちしたの”

「ねね、すずちゃん、今年はすずちゃんも一緒にゆきあいの空、探そうね。そして、見つけたら、リンくんに教えてあげるんだ。一緒だよ。」

夏の終わりは秋の始まりなんだ。フクは、みんなと一緒にすてきなものを見たり聞いたり感じたりしたいんだ。ひとりじめにするんじゃなくて、大切なみんなに教えてあげるんだ。
だから、きっとリンくんにも教えてあげる。

毛並みとお耳が戻ったすずちゃんは、その黒いお目めをキラリと光らせて、ニコッと笑いかけてくれた。その後に、リンくんに向かって、せーので大きな声を出した。

「今日も、一緒に空を見上げようよ!」

フク(鰒太郎)

“「今日も、一緒に空を見上げようよ!」”
“みどりテラスはここちよしー!”

「お日さまお風呂」
https://bobingreen.com/2023/06/30/5455/

「モクモクとホワホワ、ゆきあいの空のこと」
https://bobingreen.com/2022/09/08/2612/

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Rin(リン)

ぬいぐるみブロガー、Rin(リン)です。 ライオンのボブ家と愉快な仲間たち、そしてニンゲンのケンイツ園長と一緒に、みどりキャンプ場で暮らしています。 ボブ家の日常を、彼らの視点でつづっていきます。

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