スミレおじさんと心残りのキイロイトリ
「リンくん、あそこ!あそこ!!!」
うぃーんうぃーん。。。
うぃーんうぃーん。。。
「あぁ、カメラのピントが合わない!私にも目では見えてるの、見えてるけど。。。」
「ははぁぁ!!!リンくーん!遅いよぉ。鳥さん、飛んでいっちゃった。」
「あぁ・・・。なんかさ、黄色かったよね?心残りのキイロイトリ。。。」
ケンイツエンチョーが口をはさむ。
「いやいや、リンくん。のど元、黄色というより、オレンジ色だったよ、あの鳥さん。そのキーワードだけで、なんの鳥か、名前わかる?」
「いやぁ、、、わからない。野鳥の本でも目にも留めたことないな・・・。せっかくこんな富士山のふもとの森の中を早朝に歩いててさ。多分めずらしい鳥だったんだと思うんだよぉねぇ、はぁーやっぱりこんな小さなデジカメじゃぁ追いかけられないか。」
「リンくん、そういう問題じゃなくてね、あのね、リンくんの目が悪いんだと思うよ?」
「あー、野鳥観察には全然向いてないよねー。はぅー残念残念。」
リンくんは残念そうにカメラを一旦OFFにしてから、気を取り直して、湿った土と草に香りが充満する遊歩道を前に進んだ。

みんなー!こんにちわーに。
鳥さん大好き、ウサギのすずこと鈴之助だよぉ!
ここはね、静岡県富士宮市側の富士山のふもと、”朝霧ふれあいの森”っていう森の中にいるんだ。
すずの大きな長いお耳には、これまでに聞いたことのないくらいのたくさんの鳥さんのさえずる声が聞こえるよ。普段すずたちが暮らしているチーバのみどりキャンプ場の周りだってそこそこ鳥さんの声は聞こえるんだけどね、そんなレベルをはるかに超えてるの。

ことの発端は、響き渡るキジさんの鳴き声。まだ朝の6時前のこと。
クワァーッ!クワァーッ!
幻想的な夜明けの富士山をバックに、大きな鳴き声が立て続けに聞こえたものだから、ちょこちょことその主の元に近づこうと歩いてきたら、気がついたらこんな森の中だった。
リンくんとケンイツエンチョー以外のニンゲンはいない・・・かと思ったら。
ハッ!!!
前方に、人影を発見!発見!
黒いダウンコートを着て、カメラ用の三脚をテンテンテンテンと上手に杖のように使って、森の中の方へどんどん歩いていく。時折足を止めて、キョロキョロと草むらの奥の方を見ている。
「ンー?あのおじさんもキジとか鳥探してるのかな?その割には、足元ばっかりみてるよね、まぁキジは飛ばないけどさ。」
ハテ?と思いつつも、そのオジサンの後ろをすぅっと通り過ぎ追い越して、ズンズンと進んでいくと、遊歩道の分岐があらわれたの。地図をジィッと見て、ドッチに行こうか、進もうか戻ろうかと相談していると、後ろから声がした。

「ここは、初めてかい?」
追い抜いたはずの、さっきの黒いダウンコートのおじさんだった。
「あ、どぉもー。はい、初めてなんです。」
ケンイツエンチョーが返事をする。
「そうかいそうかい。わたしはね、この時期に何度かやってくるんだけどね、いろんな種類のスミレが咲いてるんだよ。さっき、桜の木があったでしょう?あそこの下、今は囲われちゃって入れなくなってるけれど、あの根本に、黄色いスミレが咲いてたよ。昔は十何種類だとかのスミレが見つけられたもんだけど、今日はここまでで、えーと、7種類かな。」
「へぇ!黄色いスミレ!珍しいですねぇ!」
リンくんが反応する。
「そうそう。黄色いの。いろいろ探してみるといいよ。あ、この先ね、”一休さん”の頂上まで行けるから、こうやってココのルートを通ってわたしは行くけどね。もし心配なら同じ道引き返してくるといいよ。」
「あ、そぉですか。”一休さん”?・・・あ、”一休山”、山の頂上。ココ。」
“朝霧ふれあいの森”の自然観察歩道の地図の右上に照準を合わせる。
「ありがとうございましたーぁ。」
「どもぉ。」
そんな会話をして、スミレおじさんは去っていった。相変わらず、カメラのない三脚を、杖にしていて、なんだか不思議な仙人みたいだった。
「いやぁ、スミレ見てたんだねぇ。確かに紫色のスミレはさっきからいっぱい見かけてたけど、それも一種類じゃなかったんだ・・・!鳥さん探して、木の上ばっかり見てたから全然足元見てなかった。」
「じゃあ、すずが鳥さん探すから、リンくんは野草探してていいよー。すず、鳥さんの声聞きながら、イッキューサンの頂上目指すの!」
「おっけー。じゃぁ、すず、鳥さん探しは頼んだよ。私、コケも撮りたい・・・うふふ。」




「よぉし!富士山のふもとの野鳥の森で、鈴之助隊長率いるオハナ探検隊、一休山の頂上まで行くよ!えい、えい、おー!」
「えい、えい、おー!」
すずがその小さなこぶしを突き上げてオハナ探検隊の隊員一同を鼓舞すると、また鳥さんたちがさえずりを聞かせてくれたのだった。
まるで、わたしたちの森へようこそ!おさんぽを楽しんでいってねって歓迎してくれているみたい。
フゥーーホォケキョッ!
ピィピピイピピピ!
クワァクワァクワァ
ヒュヒュヒュヒュヒュ
ぴぃゆぴぃゆぴぃゆぴぃゆ
ジュクジュクジュク

朝の鳥の声は美しくて、みんなで歩く山の空気はみずみずしくて、すず、この森が大好きになっちゃったよ!
鈴之助


参考: チゴユリ / 植物図鑑 エバーグリーンより
https://love-evergreen.com/zukan/plant/4924
参考: ニリンソウ / 植物図鑑 エバーグリーンより
https://love-evergreen.com/zukan/plant/7759
「朝霧のかかる朝霧高原で富士山を眺める」
https://bobingreen.com/2023/05/09/4859/