チューリップたちのヘッドバンギング
ごぉぉぉぉぉーーー!
びぅぅぅぅぅーーー!
「ひえぇーーー。寒っ!!!」
薄っぺらいシャツコートのボタンを全部閉めて、これまた薄っぺらい日焼け防止用の手ぶくろをしたリンくんが、大声を出してぶるぶると震えている。
カメラを片手に、スマホをもう一方の手に持っているけれど、風に翻弄されて、まったく安定しない様子だ。
ハァロォ!(Hallo!)
わたし、くろクマのムツです。
わたし、しろクマのシチです。
わたしたち、オランダ生まれのクマコンビなんです。ムツシチって呼んでね!
さぁて、ここで問題ですっ!
チーバでオランダ的風景を楽しめる名所といえば?
・・・せぇのっ!
「さぁくらのぉー、ふるさとひぃろぉばぁーーー!(佐倉のふるさと広場)」
わたしたちがふるさとのオランダを思い出すことのできる特別な場所なんだよ。
一面の色とりどりのチューリップ畑に、オランダ風車があってね。
周りにはのどかな田畑と民家、それから印旛沼の景色が広がるんだよ。ニッポンの田舎の景色のどまんなかにオランダがやってきた感じ。
そんなふるさと広場で、この時期恒例のチューリップフェスタが開かれているから、今年もやってきたんだ!
鳥の声や踏切の音を聞きながら、ぽかぽか春の陽気に包まれて、アーキモチイィねぇ!!!っていうおさんぽを期待していたのだけれど。
・・・だけれども。
強烈な風にあおられて、チューリップさんたちがアタマを揺らすこと、揺らすこと・・・!
まるで、高速メタルバンドのライブさながらだ。
吹きっさらしの広場を駆け抜けていく風の音が、デス声のボーカルに聞こえてくる。
ごぉぉぉぉぉーーー!
びぅぅぅぅぅーーー!
ごぉぉぉぉぉーーー!
びぅぅぅぅぅーーー!
色とりどりにアタマを染めたオーディエンスたち(チューリップさんのことだ)が、一体となって、右へ左へとカラダを揺らし、上へ下へとアタマを激しく振り回す。
ゆっさゆっさゆっさゆっさ!
ゆっさゆっさゆっさゆっさ!
「ほぉー・・・。圧巻のチューリップヘッドバンギング!!!」
このライブを傍観しているしかできない我々、会場の派手な演出(冷たく吹きすさぶ、春の強風だ)に戸惑って、しばらく見惚れてしまった。
そのときだ。
会場の中央に位置し、ランドマークとも言える、オランダ風車が少しずつ回転していることに気がついた。
「あれっ?なんか風車が回転したね?ちょっと見に行ってみよう。あっ、風で落ちちゃったら大変だから、ムツシチ、ポケット入ってて。」
「あーい。」
わたしたちはリンくんのコートのポケットにササッと入って移動する。リンくんってば、ヘロヘロになりながらも、向かい風にあおられながらチューリップさんたちの間を歩いて、風車のそばまでやってきた。
「指揮者だ!!!なんと!このライブには指揮者がいたよ!」
ハテ?何を言ってるのかな?
リンくんは時々、いや、しばしば、おかしなことを言い出す。
「シキシャ?」
わたしたちがポケットから顔を出してみると、そこには、黄色いジャンパーを着たオジサマがひとり、風車のふもとで両手を大きく動かしていた。風車の舵を回しながら、風をつかさどっているらしい。
ぐぅるぐるぐぅるぐる
ぐぅるぐるぐぅるぐる
「なぁるほどー!あの人が、シキシャ?」
「風を読んで、風車の向きや帆の張り方を調整してるんだね。まさに指揮者だよ!」
黄色いジャンパーのオジサマが、実はこの高速メタルライブの大舞台を取り仕切る縁の下の力持ちだったようだ。数十万ものオーディエンスのチューリップさんたちを揺り動かす、すごい場面を見ることができて、ちょっと面白いなぁって思ったよ。
そんな舞台の中央である風車の頂点には、赤、白、青の3色に塗り分けられた布が一枚、風に負けじと堂々とはためいていた。
「あっ!オランダ国旗!わたしたちの故郷!」
「ふふ。これだけ風が強いから、よく見えるね。ムツシチ、オランダのこと何か思い出した?」
「んー?わかんないなー!わたしたちのオランダの記憶は、ココ、佐倉のふるさと広場なんだよね。」
カーンカーンカーンカーン
カーンカーンカーンカーン
近くを通る京成電鉄の踏切の音が風の音に交じる。まるで派手なパーカッションのようだ。
ごぉぉぉぉぉーーー!
カーンカーンカーンカーン
びぅぅぅぅぅーーー!
カーンカーンカーンカーン
ゆっさゆっさゆっさゆっさ!
ゆっさゆっさゆっさゆっさ!
ぐぅるぐるぐぅるぐる
ぐぅるぐるぐぅるぐる
今日しか見られない、特別なチューリップフェスタ。
なかなかにタフだったけどね、それはそれで楽しかったな。
ほら、だってさ。
風がなくっちゃ、風車はまわらないものね。
チューリップのみなさーん!
サイコーのライブを楽しませてくれて、ありがとぉー!
「ダンクユゥー!(Dank u!)」
ムツゴロオ&シチゴロオ
※そういえば、わたしたちのアタマについてた金属のリング、今朝取ってもらったの!その代わりじゃないけど、猫のタビがしっかりわたしたちを運んでくれているのさ!
タビ「今日は本来のシゴトで、裏方に徹するさ。ムツシチを大切に運んで旅させる足袋さ!」
佐倉チューリップフェスタ2023 (千葉県佐倉市) / 佐倉市公式ホームページ内
日程:令和5年3月29日(水曜日)~4月23日(日曜日)
https://www.city.sakura.lg.jp/soshiki/sakuranomiryoku/event_kanko/2990.html
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