色えんぴつで描くキモチ
ゴローン。ゴロゴローン。
午後の陽射しが、すぅっとやわらかく射し込んでいる。
広い白い壁と木のぬくもりのカウンターテーブル。
おでは、お気に入りのベンチに、ゴロゴローンとゴロ寝を決め込んだ。
「アッハーん。おで、とってもココチよしなのー!」
ライオンのボブぞです。
久しぶりの、ソロむぎかふぇだぁよ。これまでにも何度か来ているぬい撮りカフェの”むぎかふぇ”、オトモダチと一緒に来るのは、わちゃわちゃおしゃべりしたりみんなで写真撮ったりしてね、とっても楽しいんだけど。
今日は、おで、ソロ活なの。
あ、正確には、リンくんはくっついてきちゃったけどね。(リンくんはおでとのデートだと勘違いしているらしい。)
「ボブぞ、いいなぁー!超リラックスしてるじゃん。」
「でへっ!おでにぴったしのあの白い木のイスも良かったけどさーぁ、今日はこのベンチを見つけちゃったの。いいでしょー!見て見て!このベンチさ、ツタが絡んでるぞ?ゴールド・エクスペリエンスか?!フハァッ!」
見目うるわしい桜色の鶏ハムをつまみに、乳白色に細かな気泡がはじける美しい微発泡にごり酒を、クイッとやらかす。
おで、すんげーぜいたくしてない?おうちでお留守番のみんなにはちょっと悪いけど、ソロ活サイコー!
「ハァー。ココチよしーぃ・・・!」
おでは左手でアタマを支えて、おいしいモノでパンパンにふくらんだおなかを右手でさすりながら、ゆるやかな店内の空気に身を任せるんだ。
「ね、ところで、リンくん何してるの?」
ガソゴソと、立ち上がったかと思うと席に戻ってきたリンくん。おでの目の前には一冊のリングノートと、それから何本かの色えんぴつがぶちまけられていた。
少しクリームがかった無地ノート。
赤、青、黄色、緑。それから、黒と、群青と、肌色、黄土色。
見覚えのある色たち・・・。
「むぎさーぁん、ゲストブック、見てもいいですか?」
「どぞどぞ!っていうか、描いてってー!」
「わーい!」
店主のむぎさんと会話するリンくんの声が聞こえた。
・・・そおいうことかー。リンくんは、むぎかふぇのゲストブックに絵を描くつもりみたい。
ねーねー、アナログで絵描くの、めちゃくちゃ久しぶりじゃないの?ダイジョブなの?人前でさ、カフェのゲストブックになんて、描けるのかな・・・?
おでの不安をよそに、グビグビとにごり酒を口に運びながら、スイスイと色えんぴつを走らせていくリンくん。
「おーい・・・?何、描いてるの?」
「エー?ボブぞに決まってるじゃん。ホラ、そのまま、ジィッと横になっててよ。なんなら、ウトウトしててもいいよー。」
おでがまだ赤ちゃんの頃、リンくんは暇を持て余すとおでの絵を描いていた。あることないことテキトーに、たいがいは酔っ払いの手遊びだ。えんぴつ一本のこともあれば、色えんぴつのこともあれば、カラー筆ペンのこともあった。
あの当時は、絵を描いてもらうのがうれしくて、きゃあきゃあやってたけれど。
おでが少しずつオニーさんになって、あまり喜ばなくなったからなのか、次第にリンくんはおでの絵を描かなくなっていた。
あの当時のことを振り返ってみれば、出来不出来はどうでもよくって、おでとリンくんとのコミュニケーションだったんだよな、って、今はわかる。
いつぶりだろうか思い出せないけれど、色えんぴつを見たら、ほんの少しだけ、むねがキュンとした。
「この感じ、なつかしい。」
おでがそうつぶやくと、リンくんはうれしそうに笑った。
「ね。久しぶりだぁね。前はちょいちょい描いてたからね。カフェで堂々とお絵描きさせてもらって、しかも飲みながらさ、ありがたいねぇ。楽しいねぇ。ね、ボブぞ?」
「フハッ!おで、モデルだなっ!なぁ、モデル料、ちゃんと払ってよ?」
「あはは。モデル料ね。ハイハイ。じゃ、もう一杯頼もっかー?」
「うんっ!それがいいー!」
「あっ、ちょっとちょっと、動かないでよ、いますっごくステキよ、ボブぞ。」
店主チョイスの二杯目は、超辛口の景虎さんだ。
おでは虎じゃなくて獅子だけどね、クセもなく、スルスルと飲めてしまう。二枚目の鶏ハムを、大事に大事に、口に運んだ。しっとり水分を感じる口当たりがサイコーにおいしい。
おでがモデルの合間にちょいちょい飲み食べしているうちにもリンくんは手を動かしていた。
シュッシュッシュッシュ・・・
クピ・・・クピ・・・
シュッシュッシュッシュ・・・
クピ・・・クピ・・・
リングノートに視線をやると、リンくんはどうやら仕上げに入ったらしく、メッセージを書いているのが見えた。
グラスを傾ける回数と色えんぴつを持つ手の動く回数がだんだんとバランスが悪くなる。
シュッシュッシュッシュ・・・
クピクピクピクピ
シュッシュッシュッシュ・・・
クピクピクピクピ
「むぎさーん。できたー!!!(さ、ささ。ボブぞ、コレ、読んで?)」
「ハァピィー ファースト アニバァーサリィーーー!(Happy 1st Anniversary!)むぎかふぇ一周年、おめっとーございまーす!!!」
(たっち!たっち!たっち!)
2022年4月にオープンした”むぎかふぇ”。ぬい撮り好きのみんなに愛されて一周年なんだって。
おでは、店主のむぎさんとハイタッチして、店内ではじめて顔を合わせた隣の席のおねえさんたちともグータッチして、みんなで再度カンパイをして、グラスの最後の一滴まで飲み干した。
「バイバーイ!まったねー!」
店主のむぎさんとバイバイして店の外に出ると、ふぅわりと夕方の匂いがした。
駅前ロータリーには、演説をしようと準備をするどぎついピンク色のジャンパーのニンゲンたちが見えた。色えんぴつの桃色とは全然違う、どこまでも無機質な色だった。
「リンくん、ところでさ。昔描いてくれてた絵って、ちゃんと取ってあるの?」
「もちろんだよー。おうち帰ったら、みんなで見返してみようか。」
うん。そうだった。
おで、絵を描いてもらうの、好きなんだったなぁーって。思い出させてくれて、アリガトなの。
リンくんが描いてくれなくちゃ、だれが描くのさ。写真も楽しいけどさ、絵って、いいよな。
「リンくん、毎日サボってないで、ちゃんと、絵も練習しろよなー!!!」
「はぁーい・・・。え、ナニナニ?ボブぞ、また描いてほしくなっちゃった?」
「フハッ!モデル料はちゃんと徴収するけどねっ!」
うふふ。ふふふ。うふふふふ。
おでとリンくんは、笑い合って、それから、ギュゥっと手を握り合った。
なぁに、荒々しくて、生あたたかい春風に、ムズムズっとしただけだもんね。
ちょっとほっこりした気持ちを思い出して、夕暮れの光を浴びながら家路へとついた。
ソロでも楽しいむぎかふぇさん、今日もアリガトでしたー!
ボブぞ
ぬい撮りのできるカフェ「むぎかふぇ」 @千葉県八千代市(京成八千代台駅)↓↓↓
Twitter: @mugi_otohfu
https://twitter.com/mugi_otohfu
「一周年記念おみやの飴ちゃん&オリジナル紙袋、アリガトぉ!」