雨上がりの桜歩き
地下駅の階段を登って地上へ出ると、誰も傘をさしていなかった。
舗装路はすでに乾いていて、まるでわたしたちの到着を待っていてくれたかのようだった。
駅前のコンビニで缶チューハイを1本買って、それから、わたしたちは目的の方向を目指した。
こんにちわーに。ライオンのボブこよ。
今年はソメイヨシノの開花がここ10年でいちばん遅かったっていう話ね。わたしたちが暮らすチーバでも、4月最初のドヨービになって、ようやく見頃になってきたの。
毎年いくつか定番のお花見さんぽスポットがあるのだけれど、今日は、船橋市を流れる海老川沿いの桜並木をおさんぽしに来てみたよ。
「んあ?アレ、わたし、間違えた。海老川、コッチじゃないね、、、。」
「んだよなぁ、おれ、コッチ来たことないよなって思った。」
「ゴメーン。なんか一瞬方向感覚失った。」
「ま、1年ぶりだしな。」
リンくんってば、スタスタと足早に大通りの横断歩道を渡ったのだけれど、そのあとに方向を間違えたことに気がついた。ケンイツエンチョーはハテ?と思いながらもついていってみたけれど、やっぱり間違えてたみたい。
気を取り直して大通りを歩いていくと、左右に伸びる桜並木が見えてきた。右手は船橋市場で、ずっと歩いていくと船橋港、つまり、海まで出られるのだけれど、今日は、左手、上流の方へと進んでいく。
海老川のお花見といえば、レジャーシートを広げているグループはほとんどいない。むしろ、小川というに近くて、さして広くはない川幅の両側に遊歩道があるだけの場所ではあるのだけれど、そのスキマに何軒もの屋台が立ち並んでにぎわいをみせるのよ。たこ焼き、やきそば、お好み焼き、の定番粉ものから、牛串、チキンステーキといったお肉もの、ベビーカステラや10円焼きなんかの甘い系もそろっているの。
我が家はリンくんが食べ物制限がいくつかあるせいで屋台での食べ歩きはほとんどしないから、そのかわり、缶チューハイでカンパイしてその雰囲気を楽しむのよ。
「ンー!おで、焼きそば食いてぇー!」
弟のボブぞがおはなをクンクンとさせながらキョロキョロしてる。
「ボブぞ、食べていいよ。わたしはダメだけど。」
リンくんがボブぞに言うと、ボブぞは逆にシュンとなって言うのだ。
「いんや、いいもん。ココでなにか食べておなかいっぱいになっちゃったら、あとで昼メシ食えなくなるから。」
花冷え、というコトバがある通り、今日はお花見日和とはいいがたいどんよりと重い雲のかかった冬のような寒さの日だけれど、ニンゲンたちが薄ピンク色に染まった頭上を眺めながら談笑し、ゆっくりと行き交うこの遊歩道は、とても暖かさに満ちている。
ちびっこ連れのファミリーは子どもたちが着慣れぬスーツ姿。ママさんがピカピカのランドセルを手にしている。小学校の入学祝いの記念写真を桜の木の下で撮るのかもしれなかった。
それから、シニアの御夫婦はベンチでお弁当を広げて、ノンアルの缶ワインでカンパイをしている。
あ!ウェディングドレス姿の女性。前撮りかなぁ。隣に寄り添う新郎も幸せそう。
遠くから集まってきてワイワイするようなお花見スポットじゃないからこそ、地元の人たちの日常に寄り添って文字通り花を添える、この海老川のやさしさがとっても好きよ。
「ボこちゃん(リンくんはわたしのことをそう呼ぶ)、ハーイ、こっち向いて。」
気がつくとリンくんはカメラを手にわたしのことを撮影し始めた。
カシャカシャカシャ
「ンー。曇ってるからちょっと白飛びしちゃうけど。でもいい感じだよ。さすが美ライオンのボこちゃん!」
うふふ。うふふ。
そう、海老川のこの桜並木は、わたしたちの春のイチニチを喜びのあるものにしてくれるの。
満開まではあともうひといき、八分咲きというところ。
残りのつぼみたちが、お日さまの日差しを求めて、今か今かとワクワクしているように見えた。
雨上がりの桜歩きは、ほんのりとしっとりと、わたしのココロに潤いを与えてくれるね。
「あぁ、なんだか桜を眺めていたらノドが乾いたわ!」
缶チューハイのレモン味が、シュワシュワするするとわたしのノドも潤してくれたのだった。
ボブこ
海老川は、マラソンランナーの有森裕子さんの記念碑があったり、近くの市立船橋高校の生徒たちも走っている地元では有名なジョギングロードでもあるよ
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海老川ジョギングロード 千葉県船橋市
https://funakan.or.jp/tourism/853/