ボブ家の方舟
パタ・・・。パタ・・・。
パタパタ。パタパタ。
ポッ。ポッ。ポッ。ポッ。
雨粒がモビスケの背中にあたる音が聴こえてきた。いよいよ、恐れていた雨雲がやって来た。
ボブおです。
今日は、6月はじめのキンヨービ。
おれは、オハナのみんなと一緒に、モビスケの中で雨音を聴きながら、エンチョーが戻ってくるのを待っている。モビスケというのは我が家の愛車でオハナのひとりでもある、ホンダのクルマの名前だ。
今週の週初め月曜日のこと。
臨時のオハナ会議が開催された。
議長であり、エンチョー兼モビスケの運転手のケンイツがひとこと。
今度のキンヨービ、ホヨーしに、ケンポのホヨージョへ行こうか!
いいかい、全員で行くよ。初めてだよね、オハナ全員。モビスケに乗り込んで、全員で行くんだよ。
・・・・・!!!
やったーあ!おでまめおでまめ!おでまめおでまめ!
急なドライブの決定にうれしいのと同時に、エンチョーのその言葉を聞いておどろいたのは、おれだけではないはず。オハナ全員、ということは、通称ソファの番人、ハチまるともっつのふたりも一緒だということ。過去、彼らは、ほとんど外出をしたことがないし、数えるくらいの外出のときもハチまるともっつが同時に一緒に出かけられることはなかった。
・・・・・!!!
案の定、ソファに目をやると、目をギラッギラに見開いて毛並みをモサモサと嬉しそうに動かすでかいクマのもっつと、いつも以上に歯を見せてニーッと笑い、首に巻いたタコストールをふわふわとなびかせるでかいハチまるがいた。
さっそく彼らは番人の仕事から解放されるイチニチを待ちわびて、おしゃべりをしていた。
やったなぁ!ハチ!ついに一緒におでまめできる日が来たのな!わっし、ワクワク。
ニーーーーッ!!!(ことばにならないくらい、うれしい!)
そんなわけで、思い立ったが吉日、ホヨーをしに、ホヨージョへ行く計画が急遽持ち上がったというわけだ。
今日は朝から大忙しだった。
なにせ、天気予報はサイアク。雷が鳴り、ところによってはひょうが降るだなんて脅してくる始末だ。おれは、とにかくカミナリさまが苦手だ。できればカミナリさまには会いたくない。
さらに、オハナ全員がモビスケに乗り込むためには、一度では難しい。雨粒が落ちてくる前に、順番に移動する必要があった。そんなわけで、早朝からリンくんはわたわたと準備をして、朝ごはんをいつも以上にしっかりと食べて、移動に備えた。
なにせ、モビスケはじめての大シゴト、ボブ家の方舟なのだ。
え?ボブ家は、何人家族かって?
いい質問だね(一度、言ってみたかったの、フハッ)。
まずおれとおれの妹と弟で、ライオンが3人と、クマだけで5人。イヌが2人にネコが1人。新入りのウサギが1人。ペンギン1人。ウパが2人、カエルが3人、ワニが1人とティラノザウルスが1人。さらに、ヨウセイが1人。えっと。21人?
あっ。大変。ケンイツエンチョー(ニンゲン)と、リンくん(ニンゲンのかたちをしたどうぶつ)を忘れてはいけない。
そして、大切なのは、モビスケ。モビスケは我が家の愛車であり、オハナの一員なのだ!
さぁ。総勢24名様のご一行で出発だよ。
三手に分かれて順番に乗り込む。最後に、リンくんが助手席に、エンチョーが運転席に座って、完了。
シートベルトおっけー?
おっけー!
はい!点呼!
全員いるね?
います!
では、いざ、出発!
出発してからも、リンくんは助手席でずぅっとニヤニヤニヤニヤしてカメラをおれらに向けている。
なぁなぁ、リンくん、いい加減に写真はもういいよぉ。
だってだってだって、全員乗ってるのが嬉しすぎてワクワクが止まらないのよ。みんな超かわいい。みんな大好き。うれしいな、うれしいな。
はいはい、落ち着いてー。リンくん、ちゃんと前向いておとなしく助手席座っててよ。せめてさ、ほら、CDJしててよ。
うん、もちろん。今日は絶対かけたい曲があるんだもんねー。
ぼくはくま くま くま くまぁー🎵
まぁくらぁじゃなーいよ?
ってあっ!歌詞ちがう、
くぅるまぁじゃなーいよ くま くま くまぁー🎵
リンくんは大好きな宇多田ヒカルのお気に入りの一曲をかけてとってもゴキゲンだ。しかし、いつも歌詞を間違う。
だって、リンくんにとって、くまは時にしてまくらだからだ・・・。もっつ限定だけれど。
はは、どうしても間違っちゃうね、むふふ。
そんな感じで、おれらはわちゃわちゃしながら、小さくもなく大きくもない、真四角の愛車、モビスケに乗ってドライブを続ける。
途中、市原サービスエリアでトイレ休憩だ。
おれらは、小も大も、無色透明、無味無臭なので、どこでもオッケーなので、ニンゲンはちょっと面倒だなと思う。
リンくんが先に戻ってきて、湿気でムッとした空気に耐えられなくなったのか、車のエンジンをかけてくれた。
・・・ってエ?!リンくん、エンジンかけられるの?
ていうか、泰山!!!なんと!泰山がシゴトしておる!
ベロベロベローんと可愛らしい姿でモビスケのエンジンをかけてくれた。泰山、よくできました!
泰山とは、リンくん専用のモビスケのキーの番人として我が家にやってきたワニのことだ。普段はドアのカギの開閉しかしないから、エンジンをかけたのは今日は初めてのはずだ。
リンくんはというと、めっちゃドキドキしてて、おれらのほうにまでキンチョーが伝わってきた。
みんなー!私、エンジンかけられたよ、何年ぶりかな?何年ぶりかわからないくらい久しぶりにエンジンかけたよ。
ふわぁああああ!ドキドキしたぁ。
たぶん、一番ドキドキしたのはモビスケだろう。慣れない泰山とリンくんにキーをさしこまれて、正しくエンジンをかけてやらなきゃいけない、その忖度度合いは、はかりしれない。しかも、そんなリンくんが、ゴールド免許保持者であることを、おれらは一応知っている。
何をやらせても危なっかしいリンくんを横目に、おれらは、ケンイツエンチョーが戻ってくるのを静かに待つのだ。
モビスケの窓ガラスを叩く雨粒の音が大きくなってきた。
パタ・・・。パタ・・・。
パタパタ。パタパタ。
ポッ。ポッ。ポッ。ポッ。
ケンイツ、遅いね。
うん、いまね、急なカイギで呼ばれちゃって、オシゴトのお話してるみたい。そこのベンチにいるよ。ほんと、ニンゲンって大変だよね。
ポツポツポツポツ・・・。
雨音を聞きながら、おれらは静かに、この先の旅路に思いをはせるのだ。
さぁ。どんなイチニチになるのかな?
何せ、このモビスケの方舟の中には、オハナが全員いるのだ。誰ひとり欠けることなく、同じ景色をみて同じ経験ができるなんて、とってもうれしいな。
ワクワク。ワクワク。
ボブお
ぼくはくま くま くま くま くま
宇多田ヒカル『ぼくはくま』
車じゃないよ くま くま くま
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