えむあーるあい(MRI)とライオン

ジャーッ・・・!

トイレの水を流す音が、リュックの布越しに聞こえる。

おではリンくんに連れられて、これからトーキョー都内までお出かけなの。

「ちょっとおトイレ。」

次の電車が来るまではあと10分ほど。駅のトイレに寄ったリンくんはじぃっと粘っていた。

ちょろん、ちょろりん。

最後の一滴を振り絞る。

「検査の1時間前からトイレ行けないんだよ。だから今のが検査前最後のおトイレ。あー不安。」

普段からおしっこが近いリンくん、宇宙への旅の直前で、ちょっとナーバスになってるようだ。

「大はいいのか?」

おでがからかうと、リンくんの真剣な声がした。

「昨日の晩ごはん以降何も食べてないし、大は出ないもん。」

「あ、そ。」

おでは内心ホッとした。あのニオイをかがずに済んで良かった、ってね。

オトモダチのみなさん、こんにちわーに!

しょっぱなからリンくんのおトイレのお話なんてしちゃって、ゴメンゴメン。

おで、ライオンのボブぞです。

今日はね、これから、リンくんがビョーインで検査なの。えむあーるあい(MRI)ってやつ。

いつも行ってるクリニックのセンセーに紹介状書いてもらって、それで今日はその予約の日なんだ。日本橋にある画像検査専門のビョーインにやってきた。

リンくんのMRI検査は今回で2回目。前回は4年ちょっと前のことで、この同じビョーインだった。その日はドヨービで、ケンイツエンチョーが一緒に近くまで来てくれたから、おではケンイツエンチョーと一緒に、近くのタカシマヤや丸善でお買い物したりして楽しく待っていたんだった。

だけれども、だけれども、今回は違う。

リンくんとふたりぼっち。だから、おではビョーインのなかまで付き添いをしなくっちゃいけない。

今朝、おではオシゴトで忙しくて一緒に行けないから、とケンイツエンチョーから言付かってきた。

「いいか、ボブぞ。ロッカーの中は暗くて狭くてさみしいかもしれないけれど、しっかりリンくんの面倒みてやるんだぞ。」

「うん。リンぐんのことはそれほどだけど、おで、エンチョーの言うことなら、守れる。頑張れるもん。」

「よし、頼んだぞ。帰りになんかうまいもん買ってもらえよ。」

「やったー!うん、そうする。」

そうして。

いま、おではビョーインの検査室の暗くて狭いロッカーのなかに、リンくんの荷物や洋服、靴と一緒にぎゅうぎゅうに詰め込まれている。

はうーん。。。リンくん、行っちまった。ダイジョブかな?ま、二度目だし、えむあーるあいって狭いところで動いちゃいけないけれど、痛くもかゆくもないって言ってたし、ヘーキでしょ・・・。

ン?狭いところで動けない、って、いまのおでの状況と一緒じゃね?ふーむ。そっか、リンくんも今こんなカンジなのかなー?

ハテ?えむあーるあいってどんなカンジなんだろ?と思っていたら、そのとき。

ぴぴぴぴぴ
ぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴ

なにかの信号がおでのアタマにやってきた。

「ぼーぶーぞー!MRIがどんな感じか一緒に体験してみる?ほら!こーんな感じー!」

ぴぴぴぴぴ
ぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴ

そこから、おでは不思議な体験をすることになった。

この先はリンくんなのか、おでなのか、ドッチなのかよくわからない。時間にして、30分か、40分か。それくらい。普段の生活にはない音がカラダの真ん中の芯の部分に突き刺さってくるような体験だった。

ズンズンパンズンズンズンパンズン・・・

重めの4つ打ちのリズムが、かすか遠くで鳴り続けている。早くも遅くもない、リンくんに抱っこされたときのリンくんの心臓と同じくらいのドクッドクッっていうペース。

それから、このリズムは音色としては太鼓というより、シャンシャンという金属が鳴り響く鈴の音に近い。

ほにゃーはなゃーぁぁらあー
ぇなーぁねぇーぬあぃやーぁえー

そのリズムにエンヤ的な重複の女性コーラスのメロディーが重なってくる。どんな意味なのか、なんの言語なのかはまったくわからず、ハミングともスキャットともつかないけれど、とにかく歌詞のある歌とは違う。

はぁ。

おではひとつため息をつく。
リンくんから送られてきたテレパシーは、難解だった。

どうやらヘッドホンをして音楽を聞かされているようなのだけれど、その曲がクラシックでもポップスでもロックでもジャズでも、なんなら演歌や童謡でもなくて、謎の宗教音楽っぽいのがとても不思議だ。むしろトイレやエレベーターで流れている鳥さんのさえずりや川のせせらぎなんかの環境音のほうがリラックス効果がありそうなものだけれど、どうやらMRI検査にそういった音楽は向いているわけではないらしい。

ほへーコレ聴いてジィっとしときゃぁいいのかぁー楽勝楽勝!なんて思っていたら、突然爆音が鳴りはじめた。

ファンファンファンファンファンファンファンファンファンファン!

何デシベル?かはわからないけど、かんなりでかい音、カラダが警告を受けてるって震えちゃうレベルの音量なの。

目の前をサイレンを鳴らした救急車や消防車がずっといる感じ?

それから。

ンガガガガガガガガッ!ンピ――!ガガガガガガガガガッ!

ひぃー今度は道路工事が始まったぁっ!間近で遠慮なしにコンクリートを砕く音がする。

それが数十秒続いて、うふぅー・・・。やれやれ、と思っていたら。技師のおニーさんの声がした。

(ハイ、じゃぁ今から息止めいきますので、がんばってくださいねー。ハイ、息を吸ってぇ・・・吐いてー・・・止めてください。)

いち・・・に・・・さん・・・し・・・

おではリンくんからテレパシーを受けているだけなはずなのに、ついついリンくんと一緒に息を止めてしまった。数を数えている間も、謎のリズムとエンヤ的ボーカルは歌い続けている。

ズンズンパンズンズンズンパンズン・・・

ほにゃーはなゃーぁぁらあー

(ハイ、楽にしてください。)

おニーさんの指示で、呼吸をする。リンくんがゼイゼイと息を吸って吐いてしている姿が目に浮かんだ。

それからも、息止めが続く。16秒間、とか、20秒間とか、何度か繰り返した。

ズバババババババババ!

マシンガン的な速度かつ高音でやられながら息止めをしたのはちょっとびっくりしたよね。もしおでが関西人(ライオンだけど)なら、バーンって打たれて倒れる真似しちゃうヤツだと思うよ。あれのマシンガン版。

ズバババババババババ!

バタッ・・・!ってね。アハッ!

でも、まあなんとかリンくんは息を止めていられたようで、無事に難所をクリアしたのだった。

それからしばらくして。

(ハイ、終わりですー。お疲れ様でした。)

マイクを通した技師さんのくぐもった声が聞こえた。

ふわぁ、意外とすんなり終わったぁ。なんか前回の時はリンくん、宇宙船に乗った感じって感想言ってたんだけれど、おでにとってはそんな感じでもなかったなぁって思った。

おでは集中して目を閉じていたところから、ぱちっと目を開けてみたのだけれど、真っ暗なロッカーのなかで、まばたきをしてみても何も見えなくて一瞬焦った。

もうすぐリンくんがおでのいるロッカーに帰ってくる。無事に検査終えて帰ってくる。そこでおでは狭くて暗いロッカーから救出してもらって、それから、帰り道にタカシマヤでうまいもんごホービに買ってもらうんだ。

わくわくして待っていると、リンくんが技師さんに呼び止められる声がかすかに聞こえた。

「スミマセーン、リンさん。1枚撮り忘れちゃったのがありまして…5分位なんですけどもう一度いいですか?お時間あります?」と。

ウォオオーイイッ!

いやいやいや、おで、ロッカーの中から思いっきり突っ込んじゃったよね。

撮り忘れってー!

再度時間調整して交通費かけてやって来るのも大変だから、今この瞬間撮り忘れに気がついてくれて良かったけどさ。でもさ、でもさ。

んー、技師さん、もしかして新人だったのかな・・・?いやはや。。。びっくり。

いうわけで再度、すごすごと機械の中へ収納されたリンくん。

ヘッドフォンして。おなかにベルトみたいのを巻いて、それからおなかの上に重しみたいのを置かれて、それからガガガがって入っていく。

その後はもうテレパシーも送ってこなかった。

おでは耳の中に残ったズンズンパンズンのリズムと例のボーカル(もうエンヤでもないのにエンヤっていうのも悪いから、エンヤコラとでも言っておこう)を反芻しながら、リンくんの戻りを待った。

「ボブぞ、ただいまー。」

更衣室に戻ってきたリンくん。ロッカーの鍵を開けて、おでを救出してくれて、それから、ギュゥっとひとつ、おでのことを抱きしめた。

いつもなら、イヤンイヤンってするけれど、検査を頑張った者同士だから、おとなしく抱っこされてやった。

「おう。おかえりー。無事にえむあーるあい、終わって良かったな。」

「うん、撮り忘れたからってもう一回入ることになるとは思わなかったけどね。アハッ!」

「あの音楽、結局なんだったんだろな?おで、ちゃんとテレパシー来てたぞ。」

「あーあーあ、エンヤみたいなやつね。」

「そうそう。エンヤコラ。エンヤコーラサッサッ!ってなぁ!」

「アッハハハハ!エンヤコラ、いいね。鳥のさえずりとかが良かったなぁ。。。あれって選べないのかねぇ。」

おで、ちゃんとリンくんの検査、無事に見守りました。なんならテレパシー受けて一緒に体験してきた。リンくんとおんなじこと考えてて、おで、ちょっと恥ずかしい気持ちになったけど、それでも今日はいい子にしてる。

おで、エライ。おで、やさしい。

おで、えむあーるあい、知ってるライオン。

えっへん!

「あっ!ボブぞ、ちょっと待って。着替える前にちっこしてくる。ガマンしてたから。」

バタン!ジャーッ・・・!

うぅ、雑にロッカーを再度閉められた。

そして・・・やっぱりおトイレの話で、なんだかゴメンね。

「あぁお待たせ。ところでボブぞはさ、どこのMRI検査したの?オナカの断面図、できたらリンくんにも見せてよね。」

・・・ハッ!おでのえむあーるあい、どんなだろ・・・。ドキドキ・・・。

ボブぞ

「MRI検査とは」 AIC八重洲クリニック 公式ホームページ
https://www.m-satellite.jp/info/02.html

「ボブぞのユウウツ」
https://bobingreen.com/2025/02/21/12736/

※実は4年前のリンくんのMRI検査のあとに、ごホービとしてロクシタンプレゼントしてやったのね
▼そのときのお話▼
「ガサガサ星人」
https://bobingreen.com/2020/12/20/827/

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Rin(リン)

ぬいぐるみブロガー、Rin(リン)です。 ライオンのボブ家と愉快な仲間たち、そしてニンゲンのケンイツ園長と一緒に、みどりキャンプ場で暮らしています。 ボブ家の日常を、彼らの視点でつづっていきます。

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