だんごの処方箋

「だんごのやまか」。

その赤い看板は、薬局の、先隣にあった。

ツキノワグマのころすけでっす。

ここ一ヶ月ほど、リンくんの右腕の内側はポツポツと赤くなったり腫れたりを繰り返している。

あせもかなぁー・・・。じんましんじゃないよねぇ。カイーの。

そんなことを言ってるうちに、ぶり返すかゆみに耐えられなくなったリンくん、どうやら寝ている間にひっかきこわして、いよいよ悪化させてしまったらしい。

ねぇ、ころすけ。ヒフ科の病院予約したから、付き合ってくれる?

そんな話をされたのは、今朝8時過ぎのことだった。

ン。それって、つまり、来いってことでしょ?

このあっつい8月の最中、誰が好んで、電車にまで乗って病院に行きたいのよ。でも、仕方がない。リンくんをひとりで病院に行かせて、万が一何かあったときのほうが心配だ。おれは、しぶしぶ着いていくことで腹を決めた。

わぁったわぁった。たかがあせも、されどあせも。もうかゆくて我慢出来ないんでしょ。行くよ。

アハッ。ころすけ、ありがと。優しいね。

ハァ。しゃーない。行こう。

そうして、ここまでやってきたというわけだった。

予約ができたといっても、やはり混んでいるものは混んでいる。ママさんに連れられたちびっこ、おさんぽカートを押すおばあちゃん、仕事の合間らしきワイシャツ姿のオジサマに混じって、クマを連れたリンくんは、待合室でちっこくなっていた。

ぐぅぅ・・・寒い・・・。すんごい寒い・・・。やばい寒い・・・。

待合室は驚くほどクーラーが効いていて、リンくんの右腕の発疹は、すっかり赤みが引いていた。

ヒフ科あるあるなんだよねぇ・・・。診察時に症状再現しないやつ。寒すぎてかゆみもブツブツもいなくなったわ。ハァ。

ぶつくさ言ってないで、はやく症状話して処方箋出してもらいな。

おれはリンくんの膝に座って、小さい声でボソボソとやり合いながら、順番を待っていたのだった。

会計と薬局までが終わったのは、もう昼メシ時だった。

腹減ったぁー・・・リンくん、今日昼メシどうする気なんだろ?

そう思ったときに、この看板が目に飛び込んできたというわけだった。

「だんごのやまか」。

キャッチーなゴシック体のフォントに、無機質なウサギのイラストと、山のなかに「カ」と書いてあるロゴが見える。

む。ころすけ、なんだろあのお店?

だんご、って書いてあるから、だんご屋なんじゃね?

うん、たぶんね。調べてみよ。

“「だんごのやまか」”

その場で「だんごのやまか」を検索するリンくん。チーバは松戸に本店のある、だんご屋さんだということがわかった。昔ながらの素朴さで、安くて美味しいとのクチコミだった。だんごの他に海苔巻きやらお赤飯もあるという、いわゆる昭和のだんご屋のラインナップを保っているようだが、今、おれらの目の前にある店構えはちゃんと令和的に洗練されている。

スマホから目線を上げると、近くのベンチが目に入った。おばあちゃんが手に白い紙に挟まれた何かを持っていて、ゆっくりと、それにかじりつこうとしていた。

あ。ヒフ科で見た、カートを押してたおばあちゃん。

再度、視線を店先に戻すと、両手にビニール袋をぶら下げたおじさんがちょうど出てきた。

あ。薬局で隣にいた、サラリーマンっぽいオジサマじゃん。

!!!

なるほど。すっごい納得した。

病院のそばに調剤薬局があるのは当たり前の景色だけど、まさか、その薬局の横に、だんご屋があるとは・・・!

みんな、薬局の出口を出ると、だんご屋に吸い寄せられている。まるで、だんご屋の処方箋でも出てるのかな?と思うくらいだった。

むむ。もう抗えぬ。
行くでしょ。レッツゴー。

入り口にはたくさんのPOPが貼ってあって、今の季節のイチオシはどうやらソフトクリームのようだ。入り口を入ると、左側はソフトクリームのイートイン。右側は、クッキーなどの日持ちする常温の焼き菓子が並ぶコーナーだ。手前に海苔巻きの冷蔵ケースがあったが、チラ見だけして、店員さんの待つメインのショーケースの前に立った。色とりどりの串だんご。10種類以上あり、ベーシックな焼きだんご、いそべだんご、みたらしだんごに、草だんご。今の季節らしい、ずんだあんだんごや、変わり種ではレモンあんだんごなんていう商品まで並んでいる。他にも、クリーム大福や生どら、水まんじゅうやらわらび餅・・・ものすごい誘惑が襲ってくる。

むぅむむぅ!いっぱい種類ある!どうしよ!

腹へりのリンくんとおれは、あれもこれもと候補を並べ立ててコソコソとひとしきり相談をして、この初見のだんご屋で何を買うべきか、ショーケースを見回した。

だんご屋なんだから、ここは初心にかえって、串だんごにしよう!

みたらしいっぽん、ごまだれいっぽん、ください。
・・・あっ、あと。あの、すみません、わらび餅って、賞味期限いつまでですか?(「明日までです」)・・・じゃ、これもひとつ。

そんなわけで、串だんごを2本と、やっぱり我慢できなくて、わらび餅の小さい方をひとつ買って、店を後にした。

ころすけ、いいおみやげできたねぇ。帰るよ。

あれ、昼メシは?外で食ってかないの?

うん、どこもお店混んできちゃったでしょ。スーパーでお弁当でも買って帰ろう。

おれらがペコペコに腹をすかせたまま家に帰ると、ビニール袋の中から漂う甘じょっぱい香りをかぎつけたヤツが飛んできた。

おかえりー!!!カンカンカカーンカンカカーン!

そう、ペンギンの勘九郎だ。彼は、自称スイーツ番長として、昼も夜もおいしいお菓子を探しては、そのまぁるいおなかを突き出している。今日は涼しい部屋で留守番をしていたのだけど、どうやら、我々が何か買ってくるのではと感づいていたらしい。

クンクン。ねぇねぇ、イイニオイするの💕おみやげ?なぁに?なぁに?

ふふ。勘九郎、さすがだね。今日はね、和菓子だよ。おだんご。

やったぁ!カンカンカカーン!

おなかすいたよー!さっ。みんなで食べよう。

いっただっきまーす🎵

モッチモチの大ぶりなお団子が一串に4つついている。つやっつやのタレがたっぷりかかった、懐かしいみたらしだんご。最後に食べたのはいつのことだったろう?

「お先でーす」!と、勘九郎がひとつめにパクッとかじりつく。その後、リンくんがふたつめを食べた後に、おれは、みっつめを串の横から、はむっ、はむっとかじり取る。ゆっくりと口に含んでモチモチをかみしめながら、パックに残った甘じょっぱい旨味たっぷりのタレを串の先にチョチョイとつけて、ペロリとなめた。

モグモグ。

しみじみ、みたらしだんご、うまい。
おれはシアワセなクマだなぁ。モグモグ。

ようやく空腹を満たすことができて、ホッとした。トロッとしたタレをなめるとちょっと安心するのは、おれがクマだからなのかな?いやいや、おれはくまのプーさんとは違うけどな。

・・・なぁリンくん、このだんご、うまいなぁ。次は、別のだんごも、買おうぜ。おれ、磯辺もいいなぁ。渋いだろ?

うんうん。同感。このおだんご、おいしいねぇ。モグモグ。ヒフ科にはできれば行きたくないけど、このおだんごは食べたい!
・・・でもさ、だんごの処方箋なくても買えるかな?

アハッ。そうだなぁ、おばあちゃんもオジサマも、みーんなヒフ科、薬局からの、だんご屋だったもんな。あの流れ、すごい良く出来てる商売だよね。

ねぇねぇ、ころすけ、リンくん、何の話してるの?勘九郎も、次はこのおだんご屋さん行ってみたいな!モグモグ。

勘九郎、コッチの話だよ。ねぇ、それより、勘九郎はあせもとかできてないかな?

エッ?ないよ。ペンギンはあせもできないよぉ。ごまだれもいっただっきまーす🎵

おれも、ツキノワグマでモフモフの毛皮を着ているから、あせもはできようがない。ヒフ科には用事があるのはリンくんだけか・・・。

あ、リンくん。早く、もらってきたクスリ塗りなよね。今日、だんごを買いに行ったわけじゃないんだからな。

うんうん。食べ終わったら塗るぅよぉ。

フゥ。
だんごを食べたら、リンくんはあせものことをすっかり忘れたようだった。

ま、結果オーライ。
今日、行って良かったな。

ころすけ

“だんごの処方箋。ニンゲンのあせもに効くよ”

だんごのやまか(本社: 千葉県松戸市)
https://www.dango-yamaka.jp/

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Rin(リン)

ぬいぐるみブロガー、Rin(リン)です。 ライオンのボブ家と愉快な仲間たち、そしてニンゲンのケンイツ園長と一緒に、みどりキャンプ場で暮らしています。 ボブ家の日常を、彼らの視点でつづっていきます。

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