もっつの長風呂日記
こんにちわーに。ツキノワグマのもっつです。
おれ、三十路半ばのオッサンぐまだけれど、加齢臭とは無縁。
最近のおれはなぁ、かなり清潔なニオイがするんだぜ。
なにせ、こないだ数年ぶりに風呂に入ったんだからな!
「リンくーん、おれががんばった長風呂の日記、(正しくは風呂に入っている時間よりも乾かしている時間が長いのだが)ちゃんと記録しておいてくれよな!」
「ヘイヘイ、おまかせくださいまし。」
「リンくんってば、おれを風呂に入れるとき、すごく邪悪な目をしてたもんなぁ!」
「まさか!邪悪じゃないよ。もーうエステティシャンの気分だったんだから。もっつ王様をお風呂に入れて差し上げるのだもの。うふふんうふふん。」
「それが邪悪だってェの・・・。」
ではもっつの長風呂日記をどーぞ!
1日目(2025.11.4 Mon)
ブラッシングからスタート
よく晴れたゲツヨービ。ゲツヨービと言えば、イッシューカンの始まりの日。
「よぉし、もっつ。いよいよお風呂入ろっか?」
お。おぉ・・・。んじゃ、とりあえず、服脱ぐか。

「よっこらせ。うんせ。うんせ。」

「はい、んじゃ。コチラにお座りくださーい。」
「いやいや、座るといっても、そこ、食卓の椅子に座ったリンくんの膝の上だから。」
リンくんに促され、仕方なくおれはリンくんの膝の上に座る。
「ではー、お風呂に入る前に軽くブラッシングしていきましょうねぇー。」
3種類のブラシが用意されていた。
ひとつめは、ニンゲンが使うプラスチックの粗いブラシ。ふたつめは、毛玉取り用の豚毛のブラシ。みっつめは、ペット用の細かい金属製ブラシだ。

シュッシュッシュ
シュッシュッシュ
シャシャシャシャシャ
シャシャシャシャシャ
「いやぁお客さん、抜け毛多いねぇ?」
「うるせーやい!優しくしてくれよ。」
「まぁまぁ。やりすぎないように最低限でやっていきますから、安心してくださいねぇ。リラーックス、リラーックス。」
コショコショコショ
コショコショコショ
「・・・ってウォイぃ!くすぐるんじゃないっ!」
「うふふ、うふふ。サービスですぅ。」
ううむ。
ええいままよ。なすがままにされて、おれは文字通り、万事休すだ。


伝家の宝刀、ウタマロ風呂
さぁて、いよいよ風呂場へ移動。
ホラ、ねぇ、見て見て。
我が家の風呂場、去年強制的にリノベーションとなってね、なんと壁の色がおれにそっくりな色なのねん。
「もっつ、そんな解説はしなくてもいいんだよ。ゆっくり、ハイ、リラーックス、リラーックス。ね?」
うむ。もうココからは後戻りできない。

リンくんはというと薄いゴム手袋をして、手には青緑色の固形石鹸を握りしめている。
「ひっひっひ。伝家の宝刀、ウタマロ石けんじゃぁ!」
ゴシゴシゴシゴシ・・・
ゴム手袋の手で泡立てようとするが、なかなかうまくいかない様子。
そう、ウタマロ石けん、めっちゃくちゃ泡立ちの悪い石けんなのだけれども、青緑色の特徴のある色と独特の香り、そしてなによりも強力な洗浄力が素晴らしいのだよ、とはリンくんの言い分。
ようやくできたひとかたまりの泡を、おれの顔に塗りたくってきた。
「おわぁー!目はやめろぉ!しみるじゃねぇか!」



顔面を泡で覆ったあとは、全身へ・・・?と思いきや、リンくんは泡立てるのをやめて、バケツ・・・いや「湯船」にウタマロ石けんを固形ごとドボンして溶かし始めた。
いわゆる、入浴剤ってやつだな。
「それでは、当館自慢の”ウタマロ風呂”をお楽しみくださいまし。むふ。」
湯の温度は40℃。うむ、熱すぎずぬるすぎず。おれの毛むくじゃらの肌にはちょうどいいな。
どれどれ・・・?
ちゃぷん・・・
「フハァ・・・!あぁーいい湯じゃ!」


30分ほどの入浴を楽しんだ。・・・といっても実際には、リンくんのゴム手袋の手によって、ぐるんぐるんギュウギュウとバケツ、いや「浴槽」のなかで手回しされて、全身びちゃんびちゃんになるまで、それはまぁいうなればクマ虐待をされたわけなのだけれどもね。
聞くところによれば、ほかの家のクマは洗濯機に放り込まれたりするケースもあるらしい。それとこれと、ドチラが幸せなのかというのはその当事者でなければわからない。
少なくとも、おれはうんと小さい頃、リンママ(リンくんの母)には洗濯機でやられた記憶がうっすら残っているから、両方を経験している。昔の洗濯機よりは今の洗濯機のほうが快適だろうけれども、それにしたって、洗濯機に好んで入りたいわけではない。
まぁ、リンくんが自分のTシャツまでびしょ濡れにしながらおれをこうやって介抱している姿を見るのは悪くないか。(あぁ、逆にその姿を写真におさめてやりゃぁ良かったな。残念。)
「というわけで、すずぎのお時間ですぅ。」
どんなわけだ?リンくんの脳内では、”というわけで”、すずぎの時間らしい。
シャワーヘッドを片手にしたリンくんは、おれをバケツの上に寝かせるとその上から容赦なくお湯をかけてきた。
あらかた表面の石けんをとったあとは、今度はお湯を替えて再度入浴。っていうか、ためすすぎ、だとリンくんは言っている。
なんだよ、結局のところ、おれはまるで洗濯物だ。
「だってしょうがないじゃん。っていうかめっちゃくちゃ重いんですけど、もっつ。」
全身にお湯を吸ったおれのカラダは、いつもの何倍にも重くなっているのだ。
「まるで、米袋担いでるみたい。5kgなんてもんじゃないよ、まじで重い。」
「リンくん、おれの存在の重み、わかったろ?」
「いや、お湯だから。早くこれ絞るよ。ほら。」
しゃべっている間にもリンくんはおれのカラダを持ち上げて、足先、手先、耳先、そしてしっぽの先から滴り落ちるお湯を順番に絞っていく。
「いやぁ、手絞りのもっつ汁、いかがっすかぁ?だなんてね。アハッ!」
笑ってる場合かよ・・・、おれ、こんなベチョベチョでいつ乾くんだろ・・・?


“ととのい”スタート
「さぁ、ここからが長いよ、もっつ。頑張って乾いてね。」
ういっす・・・。
寝室の窓際まで運ばれたおれ。日差しの差し込む角度をキープ。
そして、折りたたみ椅子の上にのせたバケツの上にタオルが敷かれ、その上にそぉっと寝かされた。

「ホントはこんなに晴れてるんだからベランダに出してあげたいんだけどね、最近カメムシ野郎たちがものすごくてね・・・。万が一クサクサ汁かけられたらまたイチから出直しでしょ?だから、おうちのなかで乾かすからね。」
「うむ。うむ。おれ、カメムシ野郎のニオイにだけはなりたくない!だから室内で頑張る。」
「扇風機ガンガンつけとくから。寒くない?」
「何言ってんの。おれ、毛皮着てるし。」
「あ、そっか。アハッ!」
扇風機が放つ強力な風に当たりながら、”ととのう”おれ。サウナから上がって外気浴(おれの場合は正しくは外気ではないんだが・・・)しながらボンヤリするキモチがわかるよね。
とはいえ、まさかこの”ととのい”が2週間も続くとはこのときは思っていなかった・・・。



2日目(2025.11.5 Tue)
「もっつ、おはーに。」
「あ?おぅ。おはーに。」
昨日の昼間風呂に入ったあと、おれはウトウトと眠ってしまっていたらしい。気がついたときにはもう翌朝だった。
「あれ?ココ、寝室じゃないじゃん。」
おれは気が付かぬ間に居間の窓際へと移動させられていた。
「うん、寝室じゃさみしいでしょ?居間のソファのそばなら、いつだってオハナのみんながいるからね。」
チラリとライオンのボブおのカラフルなたてがみが見えた。オハナ(ぬいぐるみ家族のことを我が家ではそう呼んでいる)のそばにいるから安心、ということらしい。
うん。確かにね。居心地悪くない。
「なぁ、リンくん。おれ、おしりがめっちゃベチョベチョでキモチワルイんだけど・・・?」
「アハッ!仕方ないよ、ずっとあおむけで寝てるからね、全部おしりにいっちゃうよね。えーと、オムツでもするぅ?ウフフ。」
「しないやいっ!タオル替えてくれぇー。」
リンくんにタオルを替えてもらって、おれはまた同じ体勢に戻った。

3日目(2025.11.6 Wed)
「もっつ、おはーに。調子はどぉ?」
「あー・・・うーん。ボチボチ?ただ・・・、腰いてぇなぁ・・・。」
「そろそろ体勢変えよっか?」
オネガイシマス、と頼むのも癪だったけれど、いまのおれはリンくんに頼るしかない。
「もっつ、床ずれ予防にね。寝返りうってみましょうね。ハイ、ごろーん!」
「ウォイ!丁寧にやってくれよ!」
というわけで、うつ伏せになりました。

4日目(2025.11.7 Thu)
「いやぁーよく晴れてる!もっつ、どぉよ?」
「どぉよじゃねぇよ。ノドがあたって苦しいよ。」
うつ伏せになってみたものの、なんだかしっくりこない。
「多分なんだけど、おれの月の輪が光を求めている。」
「あははははっ!そういうこと?まぁ、じゃぁ、あおむけスタイルでおなかから乾かしていったほうがいいかもね?」
「うん。オネガイシマス・・・。」
よっこらせ、とリンくんはおれを抱きかかえると、あおむけの大の字に寝かせた。
おれの胸の月の輪は、太陽の光をいっぱい浴びて輝くのだ。なんだかパワーが湧いてくるぞ!
フハハハハ!


5日目(2025.11.8 Fri)
フハハハハハ!おれの月の輪は光をいっぱい浴びて元気元気!
天気がいいから、窓際のソファの上でウサギのすずがひなたぼっこしてるよ。
「もっつぅ、元気はいいけど、まだおしり濡れてるねぇ?」
・・・。うーむむ、なかなかカラッと乾かないもんだねぇ・・・。
すごろくなら、「いっかいやすみ」ってところか。

6日目(2025.11.9 Sat)
フーン。フンフフーン。
右を下にして反対側に寝返りを打たせてもらったおれ。
リンくんにオケツを向けた途端。
・・・ブッ・・・!
「・・・くさっ!やぁめてよ、もっつ!でっかいおなら、クサッ!」
ブッブッ・・・ブゥーッ・・・!
「くさっ!くさっ!んもー!!!」
ふっふっふっ・・・!

7日目(2025.11.10 Sun)
はふーん。おならからのー!今日はコッチ側。
おれだって自分で寝返りのひとつくらい打てるようになったんだい。
「フーン。なんだか脚がカワイイね?」
「うるせぇ!おれは凶悪なツキノワグマ、カワイイとか言ってねーで、逃げろや逃げろ!エッホエッホ!」
「んー?やっぱりさぁ年末だし、流行語にあやかって人気モノになりたいわけ?エッホエッホ・・・?」
・・・うるせー!おれは天下の「熊」なんだからなっ!
※Rin注: この時点では今年の漢字は発表になってなかったけれど、2025年の漢字は「熊」になりました

8日目(2025.11.11 Mon)
いぃぃぃよっ!
「もっつ、一昨日・・・いやその前か?も同じポーズしてなかった?」
してない、してない。してないよ。おれ、ようやく乾いたんだってば!めっちゃくちゃ体調いい!だから、ねぇ、もう解放して?
「ダメダメ。最後の最後、芯の芯まで乾いてないと解放しないよ?いい?」
あーぁ・・・ホント、リンくんってば嫌なヤツ。

9日目(2025.11.12 Tue)
「はふーん・・・おれ、うつ伏せはやっぱりキライ。鼻の先もいてぇし、なんか病人っぽい。」
あーぁ、ヤダなぁヤダなぁヤダなぁ・・・!!!
「あら、そぉー?うつ伏せだと、まるでマッサージ受けに来てるオッサンみたいだよ?」
「アァーそこそこ、キモチいぃーねぇ・・・!ってオイ!じゃぁ、リンくんがちゃんとツボ押ししてくれよな?」
「早く乾くツボがあれば押してあげるんだけどね・・・」

10日目(2025.11.13 Wed)
「ン?なになに:?情熱大陸?エ?半年の密着取材だったっけ?おぉ、おぉ!そっかそっか!おぉ、忘れてたよ、ゴメンなぁ。おれくらいになるとカメラの存在忘れちゃうわけよぉ、ゴメンなさいねぇ。んで?えぇっと?」
(・・・昨今のクマ被害について率直にどのようにお感じになられてますでしょうか・・・?)
「率直も直角もあったもんじゃないやーい!おれはクマだけど野生じゃねーし!んもう!」
さすがに風呂から上がってもう10日目。
おれ、もう乾いてると思うんだけどなぁ・・・?
モショモショとおれのケツとしっぽのあたりを触るリンくん。
「うん、乾いてるっぽいね、でもまぁ、まだココでととのっててよ。」
もうすっかり乾いてるのにととのえだなんて、それじゃぁ逆にストレスだよ!

11日目(2025.11.14 Thu)
むふー・・・。まぶし。まぶし。あーまぶしい。
お天道様はなんでもわかってるんだろうなぁ・・・。
地球がどんどん太陽に熱せられて熱くなってること、クマが最近ニンゲン世界に進出してること、それから、世界各国いろんな国同士の仲が悪くなってること。
んまぁ、おれは外交には興味ねーし、おれが生きていくうえでは一生関わらねーって思っていたけれど・・・、うーん、実際にはそうも簡単には済ませられないらしい。
フーン。あぁそう。クマがいると、いろんなニンゲンに害を及ぼすかもしれないらしい。
うっし、よっしゃ。んじゃ、おれ、がんばるな。いいクマ、ニンゲンに危害を与えず、むしろ癒やしを与えられる良いクマになるべく、がんばる。
そうさ、こうやって、太陽の光を浴びて、ニンゲン社会に溶け込むから。
どうぞよろしく。
「・・・っておれ、あまりにヒマ過ぎてだんだん詩人もしくは哲学者みたいになってきた。」

12日目(2025.11.15 Fri)
グガーッ・・・グガーッ・・・
フガッ・・・
・・・おれ、めっちゃ寝てた。
昨日、小難しいコト考えちまったもんだから、すっかり脳が疲れちゃったんだな。
そうだそうだ、そうに違いない。
うーん、やっぱりクマっつぅのは昼寝が大事。おれ、昔っから昼寝が大好きなんだもの。
もちょっとウトウトしよぉっと・・・。

13日目(2025.11.16 Sat)
ライオンのボブおがおれの様子を見にやってきた。
ボブおは我が家のオハナ(ぬいぐるみ家族)のリーダーだ。
おれ、どうやらもうすっかり乾いてからさらに数日が経って、ようやく寝床から起き上がっても良くなったらしい。
「完全復活!!!」
「もっつ、ちょっと、話があんだけど・・・?」
なになに?なんだろうな?
※もっつとボブおとの会話はコチラ → 「鈴の音色を月の輪に揺らして — ライオンボブ家、オトモダチに会いに海が見える町へゆく その3(完結編)」
14日目(2025.11.17 Sun)

おはーに。
昨日、ボブおとの引き継ぎを終えてからというもの、おれはそのままうっとりと心地よく眠ってしまったらしい。
目が覚めたら、だいぶん気分が違っている。
この2週間、この窓辺に特設されたタオル敷きの寝床の上で、あれやこれやと色々と物思いにふけっていた。
おれは、働き過ぎだったんじゃないだろうか。
働いて、働いて、働いて、働いて、働き過ぎていた。
だから、こうやって2週間もの”バカンス”?を経て、ちょっと英気を養えたような気もする。
少なくとも、おれはとてもいいニオイになった。
毛並みもフワフワになったし、白い月の輪のマークもピカピカとお日さまに輝くようになった。
手のひら、足の裏の毛玉もすっかりキレイになくなった。


そして、おれがこの2週間風呂上がりにととのっている間、リンくんは、おれのポロシャツを洗濯して、さらに丈つめをしてくれた。もともと140cmの子供サイズを着ているのだけれど、着丈が長すぎてワンピースみたいになってしまっていたのだ。
それを、格好悪いから、と裁縫嫌いながら、チクチクと手縫いで調整してくれていたのだった。


うん。これでおれの長風呂は終わり。
さぁ、服を着て、街へ出よう。
おれ、オトモダチに会いに行くんだ!


準備万端!
くまくーん!待ってろよ!
おれのウタマロ風呂のいいニオイ、かがせてやっからなー!
もっつ

「ふたりならお風呂もへっちゃら!」
https://bobingreen.com/2025/09/01/15878/
「ハンペンのお風呂タイム」
https://bobingreen.com/2024/09/24/10507/

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