ハンペンのお風呂タイム
わたしはコペンギンのハンペン。
ジェイアール(JR東日本)っていうところのSuicaのペンギン出身なの。
まだ暑い9月上旬のとある日、仲間たちと一緒にPensta新宿店でお迎え待ちしていたらね、わたしはリンくんっていうニンゲンに出会ったんだよ。リンくんは汗だくになりながら決して広くない店内をぐるぐると10周以上したあげく、「やっぱりこのコに決めた。」そう言って、他の仲間たちとお顔や毛並みの見定めをしたのちに、わたしのぺったんこのカラダを取り上げた。
そうしてわたしはPenstaを卒業して、大都会トーキョーの新宿から、チーバの郊外の、みどりキャンプ場っていう場所に引っ越してきた。ココからわたしの人生(ペン生)が始まったといっていいと思う。
このみどりキャンプ場(リンくんたちが住むおうちのことだ)には、たぁくさんのどうぶつたちがいる。ライオンやクマや、イヌやネコやそれからウサギやアザラシ、希少動物のハシビロコウまでいることに驚いた。
ペンギンもひとり、暮らしていて、名前を勘九郎さんって言うんだ。わたしよりもずっとカラダの小さな、でもでっぷりと貫禄のある、センパイだ。
(ハンペン初登場のお話はコチラ → 「勘九郎とハンペンとの出会い」)
チーバの、このボブ家っていうおうちにやってきて、まずやらなくちゃいけないこと。
センパイのオハナ(家族、ぬいのことだ)たちへのご挨拶?うん、それはもう済ませた。
お名前をもらうこと?うん、ケンイツエンチョーっていうニンゲンにつけてもらった。
このおうちのルールを知ること?それは、もうちょっとあとで、ゆっくりでいいんだよって、ライオンのボブおリーダーが優しく言ってくれた。
それはね・・・お風呂に入ることペン!
「ハンペン、さぁ思う存分、キレイになっておくれ!」
リンくんが用意してくれたもの。
・Dove(ダブ)ボディーソープ
・洗面器
・バケツ
以上。
「ねぇハンペンってさ、ボディウォッシュ、要はニンゲンのカラダを洗うためのグッズとして生まれてきたんだよね?だから、お風呂は得意でしょ?好きに入っていいからね。」
リンくんっていうニンゲンは、勝手なことを言うんだ。わたし、お風呂に入るの、初めてだもの。どうやって使っていいかわからない。
わたしは戸惑って、お風呂場の浴槽のフタの上でモジモジしていると、リンくんが白いニョロンとしたものを片手に近づいてきた。口もとには不敵な笑みが隠しきれないでいる。
「んじゃー、わたしが洗って差し上げよう!ハンペン、初お風呂おめでとう!」
ジャァァァァァァァァァァァッ!
白いニョロンのそれの先っちょにある無数の穴からは、勢いよくお湯が出てきたのだった。
わたしは大きなバケツのなかに沈められると、その強力な水流のされるがままになった。
ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる
ぐーるぐーるぐーるぐーるぐるぐるぐるぐる
その次に、リンくんは横においてあるDove(ダブ)っていうやつを手にとると、真っ白いモコモコの泡をたくさん作ってくれた。
「ハンペン、この泡を自分の存在意義とともにカラダに塗ってごらん。キモチいいよ。この泡でキレイになるんだよ。」
ほにゃ?なんだろ?と思ったけれど、言われるがままに、わたしはその泡をカラダに塗った。
モコモコモコモコ
アワアワアワアワ
ゴシゴシゴシゴシ
モコモコモコモコ
アワアワアワアワ
ゴシゴシゴシゴシ
「あ。そうだ、ハンペン、カラダを洗うときにね、大事なのは裏側だよ。わきの下、ひざの裏、ひじの内側、オマタ、指の間。そういうところをしっかり洗わなくっちゃいけないんだよ。あぁ耳の後ろとかね。」
「はにゃ?なんの話ペン?」
リンくんはわけのわからないことを口走ると、「んじゃ、失礼しまぁす。」と言うなりそのまま、わたしのカラダをひっくり返しにかかったのだった。
文字通り、ひっくり返した。
そう、裏表にしたんだよ!!!
もうそこからはわけがわからなかった。驚きすぎて記憶があいまいだ。
苦行が終わったのは10分ほどしてからだ。
裏表のわたしが浸かっていたお湯のなかには、無数のグレーのホニャホニャが浮いていた。
「ヒィッ・・・!わたしのカラダのなか、こんなに汚れてたの・・・?」
恐る恐る聞くと、リンくんは淡々と答えた。
「うん。記念すべき、最初のハンペンの”うこ”💩だね。大量に出たねぇ!でもコレでもう、大丈夫。キレイになったよ。」
あとから聞いた話だけれど、このおうちでは、毛玉のことを”うこ”💩(つまるところ排泄物・・・)と呼んでいるらしいよ。ぬいぐるみや布でできたわたしのような者からも、生み出されるのだという。ニンゲンのように毎日することはないけれど、時折、毛づくろいっていうのをしてもらって、定期的に排出する必要があるらしいんだ。
「さぁ、あとはどうぞゆっくりと湯船に浸かってくださいな。ハンペン、お疲れさま。」
ちゃぷん
・・・フーぅっ!!!
わたしは大きなバケツから小さな洗面器へ移動した。ちょうどいい温度のお湯を張ってもらって、そこでしばし半身浴を楽しんだよ。
ふんふんふん♪
「ハンペン、そういうときはね、いーい湯っだぁな!アハハン!って歌ってごらん。」
ンー?このおうちのルールはまだ覚えなくっていいって言われてたけど、実際のところはいろいろあるらしい?
「ルールじゃないよ。毎日を楽しくするための、コツみたいなものだよ。」
リンくんはそう言い残すと、お風呂場から出ていった。
かと思えば、白いタオルを手に、すぐに戻ってきた。
「ハンペン、カラダ拭いてあげるね。」
ンー・・・?濡れたカラダってどうやって拭くのかな・・・?
わたしはペンギンだから、水の中をスイスイ泳ぐし、その濡れたカラダはぶるぶるってやればそのうち乾くんだけどなぁ。
不思議に思っていると、リンくんはわたしのぺったんこのカラダを白いタオルの間に挟んで、ぐるぐる巻きにした。
「うぅーなんだか変な感じだペン。。。」
「ちょっとのガマン。すぐにいいベッドに移動させてあげるから。」
リンくんに抱っこされてどこかへ連れて行かれている感覚があった。
視界がひらけると、強烈な日射しを感じる。
「ハイ、ここでしばらくチルしてて。」
「ちる?」
「みどりテラスへようこそ。我が家の自慢のベランダでカラダをゆっくり乾かしてね。」
みどりテラスっていうのはこのおうちのベランダのことらしい。巨大な団地の1棟の、5階の角部屋で、目の前に雑木林が広がっていて、のーんびりしてるってことが自慢の理由なんだって。
クルマやバイクや、自転車の音に混じって、遠くの駐車場のゲートの音、それから鳥の声(わたしも鳥のはしくれだ)、いろんな音を聞きながら、わたしはみどりテラスでウトウトとひなたぼっこを楽しんだ。
結局のところ、わたしのカラダが全部乾くのには半日かかった。
日光浴をしたあとは、最後の仕上げとして、室内で扇風機にあたりつつ、カラダの中に風を送り込むことで、カンペキにカラダを乾かしたのだった。
フゥー!
風呂上がり、ようやくオハナ(家族)みんなが待つソファに戻ってひと息ついていると、台所からいい匂いがしてきた。
「ハンペン、まるでスーパー銭湯でくつろいでるみたいだね。」
「うん!わたし、お風呂入ってキレイになったら、おなかすいたペン!」
「さぁ、ハンペンもキレイになったし、ゴハンにしようか。今夜はハンペンの大歓迎会しよう!」
このおうちにやって来てまだ数日。
名前をもらって、それから、お風呂に入れてもらって、それから、これから仲間に囲まれて、歓迎をしてもらえるって。
わたしの人生(ペン生)はまだ始まったばかり。
どうぞ、よろしくおねがいしますペン!
ハンペン
Pensta新宿店
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