ライオンボブ家 6月のしめくくり、「夏越の大祓(なごしのおおはらえ)」

「エンチョー、おはーに!」

「おーみんなもう起きてたか!なぁ!なぁ!エンチョ、行きたいところがあります!」

朝6時半頃のこと。
トイレに起きたケンイツエンチョーが、おれらの寝室の入口をのぞきながら声を発した。ちょうどおれらはパチッと目を覚ましたところで、今日はニチヨービだ。

「ほう。え?今日の話?」

「そう、今日。」

ケンイツエンチョー、普段ならお出かけは土曜日のほうがよくて、日曜日はおうちでのんびりしたいというはずなのに。訝しんだおれは、まだ寝起きのせいもあって、へんな声が出てしまった。

「へぇ?うん?」

すると、おれの隣で寝ていたボブぞが目をキラッキラさせて飛び起きたかと思ったら、エンチョーの胸元にジャンプした。

「えー!なになに?おれらもおでまめできるってこと?」

「うんうん、そうそう。一緒に行くでしょ。」

「ドコ?ドコ?」

おでまめ、というのはおでかけのこと。おれらがまだ小さな赤ちゃんだった頃、「おでかけ」が言えなくって「おでまめ」と言っていたら、いつの間にか我が家の共通言語みたいになってしまった。

ケンイツエンチョーがコトバをつなぐ。

「あのね。えーっとね、ナゴシノオオハラエっていうのがあってね。」

「ン?何だって?ナゴシの・・・?」

「なごしのおおはらえ(夏越の大祓)。6月も明日で終わるでしょ?半年間を無事に終えることができて、ありがとうございます。残り半年間もよろしくお願いします。って神さまにお詣りして、お祓いをしてもらうことなんだってさ。エンチョー、初めて知ったよぉ。」

「へー!」

ようやくリンくんがおフトンからカラダを起こして、会話に参加する。

「んでね、その時期に、いろんな神社では”茅の輪(ちのわ)”ってのが飾られて、それをお詣りするときにくぐるといいらしいんだ。ホラ、エンチョ、今年の前半、いろいろあったからさ。お礼っていうか?行きたいなって。」

「ほー!」

おれ、ナゴシノオハラエ・・・ゴホン、夏越の大祓(なごしのおおはらえ)っていうのは初めて知ったけれど、茅の輪はなんとなく知ってる。うちのおトイレには茅の輪の御守が飾られているからだ。(滋賀の日吉大社というところの茅の輪守で下の病気、婦人病などによいとされているからおトイレにあるのだ)

「ん?茅の輪をくぐるってなんだ?うちにあるやつはめっちゃ小さいぞ?」

「えーっとねぇ、疫病から守ってくれる神具のことらしい。神社にはニンゲンがくぐれるくらいの大きさの輪っかが設置されて、そこを歩いてくぐるんだってさ。」

ケンイツエンチョー、やけに詳しい。
どうやら夜中におシゴトのパソコンをしたあと、すぐに眠れなくて、だるんだるんとスマニュー(スマートニュース)をタブレットで見ていたら出てきたそうな。

「おっし!んじゃ!行こー行こー!ね?ニーちゃん、ケンイツが行きたいとこ、行こー!」

弟のボブぞはおでかけが大好きだから、まだ早朝だというのに乗り気だ。もちろん、おれだって、神社へのお詣りはとても大切にしている。

「おーっし!エンチョー、行こう行こう!」

そんなわけで、おれらは寝室から飛び出し、いそいそと出かける準備を始めたのだった。

創設900年 大原神社へ

向かった先は、チーバ県ナラシーノ市(千葉県習志野市)にある大原神社だ。

「夏越の大祓」というお祓い自体は6月30日当日のみに執り行われるらしいけれど、あいにく明日は平日なので、おれらは茅の輪をくぐりに行くことにした。

6月とは思えぬアスファルトをジリジリと焼く日差しの中、おれらはバスと電車を乗り継いでやってきた。
最寄り駅の名前は、京成電鉄の「実籾駅」。読めるかな?”みもみ”って読むよ。ニチヨービの朝9時前、各駅停車しか停まらないこの駅では下車する人もまばらだった。

駅から歩くこと5分。のんびりとした住宅街の広がる線路沿いを歩き、踏切を左に見やると、右手にモコモコとした森が見えた。高い木々が多く、さわやかな緑色の葉を風に揺らしている。

「あ。あそこだ!」

そう。お初にお目にかかります。大原神社

決して間口は広くなく、事前に調べていなかったら、スルーしてしまったかもしれない。町の外からやってくるというよりは、地元に根付いた、土地の守り神さまだと言っても良さそうな風貌だ。

「では、行きますか。」

ペコっ

阿吽の獅子に挟まれた第一の鳥居の前で、おれらはおじぎをしてから神社の境内に足を踏み入れる。

腰から90度を意識して、しっかりとアタマを下げるのがポイントだ。おれはね、そういうことを大事にするライオンでいたいと思ってるんだ。

階段を10段ほど上がり、参道を歩く。幅は、ニンゲンがすれ違える程度で、決して広くはない。まっすぐ10mほど行くと左手には手水舎があり、目の前には貫禄のある拝殿が待ち受けている。

「まずは、お清め。」

柄杓を右手に持ち、左手を、そして、左手に持ち替えて、右手を。
再度柄杓を右手に持ったら、左手にくぼみを作ってそこに水を溜め、スッと口元をゆすぐ。
最後に柄杓の柄に水を這わせれば、お清め終了だ。

ま、ライオンのわりにはカラダの小さなおれにとっては、この柄杓はちょっと大きすぎて難しいので、リンくんやケンイツエンチョーがお清めしている姿を横目で見ながら、キモチだけ一緒にパシャパシャした。

手水舎にはアジサイの花が浮かべられており、涼やかな風情を醸し出している。おれは6月生まれで、アジサイの花が大好きだから、この花手水のおもてなしがとてもうれしかったんだ。

「アジサイの花手水、いいねぇ。ボブおのこと、歓迎してくれてるみたいだね。」

リンくんも同じこと、思ったみたい。

改めて、拝殿にカラダを向き直してみると、目の前には大きな輪っかがあった。笹の葉で作られたそれは、神具だというだけあって、神秘的で厳かな美しい和を感じさせてくれる。

「これが、茅の輪!」

横にはちゃんとお詣りの仕方の説明の看板もあって親切だ。

「なになに?えーと、左足から入って、左回り、右回り、そしてもう一度左回りで、最後はくぐらないで通り抜ける・・・、と。」

ケンイツエンチョーを先頭に、おれらはズラッと整列して・・・というのは妄想で、ケンイツエンチョーの抱えるトートバッグのなかに入ったまま、ジィっとココロ静かに、茅の輪をくぐる。そのあとからリンくんがついてくる。運動神経のないリンくんのことだから、茅の輪の足元でずっこけたりしないか、ヒヤヒヤする。

ひだり・・・みぎ・・・ひだり・・・

そして、拝殿の前に立ち、お詣りをする。

ジャラッ・・・
カランカランカラン・・・

お賽銭を入れて鈴を鳴らす。

小さな声で息を吐きながら、せーのっ

ペコッ・・・ペコッ・・・
パンッ・・・パンッ・・・

ジィーーーーー

ペコッ

二礼二拍手一礼。
慣れたリズムで、お詣りを終える。

2025年、半分を無事に終えることができました。
去年のリンくんは今しがたは病み上がりで退院したばかり。今年は大きく体調も崩さず、日々を一緒に過ごせています。

それから、今年の前半のケンイツエンチョーは、思いがけず海外へシュッチョー(出張)に行ったり、ちょっとしたいろんなことがありました。

今日、こうやって、オハナ(家族)みんなで、この大原神社の神さまにお初にお目にかかることができて、光栄です。これから、またきっとお詣りに来ること、あると思います。

どうぞよろしくお願いします。

拝殿の横には、初詣ならぬ、「夏詣」と書かれた提灯がぶら下がっていた。

「夏詣か。いいコトバだ。」

ウンウン、とケンイツエンチョーが満足げにうなずいている。

社務所はまだ営業はしておらず、巫女さんや神主さんたちはこの時間は朝の神事やお掃除などでお忙しそうな様子だった。

本来であれば、おみくじや御守のほか、夏越の大祓の団扇だの、季節限定の御朱印だのと、参拝者への授与品もいろいろと取り揃えているらしい。

我が家では「キリがないから」と御朱印集めはしていないけれど、もしも集めている人がいたら、とても喜ぶんじゃないかなぁと思うような、カラフルで流麗な御朱印を配賦しているようだった。

説明のとおりに、帰り道は茅の輪をくぐらずに、参道を下ってゆく。

キラキラと朝の陽の光に輝く、赤・青・黄色の七夕飾りが、おれの鼻先をかすめていった。

「七夕かぁ・・・。」

「今年は令和7年だからね。7年7月7日で、7のゾロ目なんだね。」

そっか。令和ももう7年なのか。そして、もう、7月になるんだね。

おれらがゆっくりと出口の鳥居に向かって歩いていくと、反対からはこれからお詣りしようという人たちが何組もやってきた。

このナラシーノの地で地元に根づき、人々の生活や環境を御守りしてくれている、大原神社

なんと創建は昨年2024年で900年を迎えたという。

6月最後のニチヨービの朝、すがすがしいキモチで、「夏越の大祓」の茅の輪をくぐり、お詣りできたことに感謝します。

そんなキモチで、おれは、最後の鳥居をくぐり、神さまに一礼をしたのだった。

別れ際、左の獅子はムウッと口をつぐみ、右の獅子はアー!と暑そうに息を吐いていた。

そうだ。
いよいよ、夏本番がやってくる。

ボブお

▼創設900年、習志野の杜 ご縁結びの大原神社▼

大原神社(千葉県習志野市)
https://ohara-jinja.com/

主祭神は、伊弉冉尊(イザナミノミコト)、伊奘諾尊(イザナギノミコト)、猿田彦命(サルタヒコノミコト)

▼滋賀にある日吉大社では”ちの輪守”をいただくことができます▼

日吉大社(滋賀県大津市)
https://hiyoshitaisha.jp/

「うづめ、1年ぶりにオットの猿田彦さんに会う」
https://bobingreen.com/2024/12/30/12039/

「辰の年始め、龍神様に珠をいただく」
https://bobingreen.com/2024/01/05/7694/

「アッツアツの熱田さん」
https://bobingreen.com/2023/12/28/7568/

「お不動さんのお導きの先には紅葉と長命泉とうなりくん」
https://bobingreen.com/2023/11/27/7107/

「静寂の時」
https://bobingreen.com/2021/11/15/1387/

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Rin(リン)

ぬいぐるみブロガー、Rin(リン)です。 ライオンのボブ家と愉快な仲間たち、そしてニンゲンのケンイツ園長と一緒に、みどりキャンプ場で暮らしています。 ボブ家の日常を、彼らの視点でつづっていきます。

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