初デートは東山動物園 – ころすけの旅日記(名古屋&伊勢編)その2

「スミマセン、ちょっと質問してもいいですか?」

ちっこいコンパクトデジカメを首から下げたリンくんはどうしてもガマンしきれなくなったらしく、おれらの後方で大砲みたいな望遠レンズを肩から下げつつ、シャッターチャンスを待ちながらほうけている様子のカメラマンのオジサマに声をかけたのだった。

ココはアイーチ(愛知県)、名古屋にある東山動物園だ。

うっす!旅グマころすけです。

リンくんとリンママちゃん(リンくん母のことだ)、そしてウサギのフロプシーとの旅はようやく始まったばかり。本来3泊4日の予定だった名古屋&伊勢旅行。悪天候が懸念される影響で急遽イチニチ早く出発することを決めて、今朝、慌ただしくも東京駅で新幹線に乗り込んだのだった。
(※東京駅での出発までのお話はコチラ「ニチヨービの東京駅の洗礼 – ころすけの旅日記(名古屋&伊勢編 その1」

おれらは13時半過ぎに、定刻で名古屋駅に到着。その後、一旦ホテルにチェックインして荷物を置いてから、黄色い地下鉄東山線に乗ってこの東山公園までやってきた。リンくんはココへやって来るのは4度目だという。

地下鉄駅から地上へ上がると、ツルツルとした石像のコアラさんがお出迎えしてくれて、一気にコアラ気分が上昇してしまう。時計の針はすでに午後3時過ぎ。ニチヨービだから人の流れは多いけれど、これから入場門へ向かう人よりも、反対方向に駅に向かって帰ってくる人のほうが多い感じがする。

“ツルツルとした石像のコアラさんがお出迎え”

そうそう。
チェックインしたホテルの部屋で、ちゃんとフロプシーと合流できたの。フロプシーというのはね、リンママちゃんがおうちから連れてきたウサギの女の子。おれの今回の旅の相棒ってところかな。おれはリンくんと一緒にチーバからやってきたから、ココでようやく対面できたってわけだ。
フロプシーってば、移動の数時間のあいだ、リンママちゃんのスーツケースの中でギュウギュウになっていたらしく、最初はちょっとごきげんナナメの様子だったんだけどね・・・。

「ヘイ!フロプスィー!」

おれがハットを脱いで、それから精一杯のスマイルで右手を上げて挨拶したら、ちゃんと笑顔を返してくれた。

「ハァイ!ころすけ!」

「会えて良かった。体調平気?移動で疲れてない?」

おれがそう聞くと、フロプシーはこう答えたんだ。

「ナァニ、ワタシよりアナタのほうがずいぶん年上でしょ、心配なのはアナタのほうよ。ワタシは元気いっぱい!さぁ!さっそくお外へお出かけしましょう!」

ありゃあ、一本取られました。

「おう、じゃぁ初デートってことでさ、動物園はどぉ?」

「もちろん!大賛成よ!」

“「ヘイ!フロプスィー!」”
“リンママちゃんちからやってきたウサギのフロプシーと合流”
“「さぁ!お外へお出かけしましょう!」”

おれはもともと今日の行き先はココロに決めていたんだ。フロプシーとの初のデートは動物園がいいなってね。それでリンくんとも相談して、名古屋観光1日目は、東山動物園へ行くことになったよ。

正門を入るやいなや、まっさきに園内マップを確認するリンくん。
閉園までは、あと1時間半ほどしかない。行ったことがある人はわかると思うけれど、ひとつお隣の星ヶ丘駅までの一帯が動物園と植物園が併設していて、さらには展望タワーまであるこの広ぉぉぉい東山公園。あれもこれもと気になるところではあるけれど、とにかく今回の目的は、ただひとつ。

モッフモフのコアラさんを見ること!
とにかくその一択だ。この限られた時間で、それだけは必ず果たしたいという気持ちだった。

「うぉぉぉぉぉ!とにかく、コアラ舎まで一直線に向かうのだー!」

周囲を見回せば、朝から丸イチニチをこの東山動物園で過ごしているであろうちびっこ連れの家族でいっぱいだ。気まぐれにアッチコッチを好奇心のままにフラフラと走り回る子供たちのように我々も本当は気ままに散歩をしたいところだったのだけれども、リンくんの号令に従い、脇目もふらず・・・いや実際にはちょっとだけフラミンゴを見たり、東山スカイタワーの写真を撮ったりしつつ、とにかくコアラに会いに向かったのだった。

“東山スカイタワー!リンくんは上までのぼったことあるらしいぞ”

5月という季節は、暑くもなく寒くもなく、湿気も少ないときて本来旅にはもってこいの時期のはずなのだけれど、残念ながら今夜から明日にかけては大雨の予報が出ている。なんなら公共交通機関に影響が出るかも、と気象予報士がアッチコッチで言っている。その予報ががあったからこそ、旅程を早めて今日のうちに名古屋まで移動してきたんだ。

「もしも、明日移動だったら、東山動物園は定休日だから今回の旅程には組み込めなかったはずなんだよね。」

「ホントよねぇ!動物園なんて来るのいつぶりかしら・・・?上野だってアナタが子供の頃以来行ってないし。」

「うんうん、昔はよく上野動物園行ってたよねぇ!チーバから近いしさ。」

リンくんとリンママちゃんが、動物園にまつわる昔話で談笑している。

いつ雨が降り出してもおかしくないどんよりとした空模様とは裏腹に、おれらはとにかく今この東山動物園にいられて、コアラさんに会いに行けること自体がとてもラッキーなのだ!とうれしいキモチでいっぱいだ。

「コアラ!コアラ!コアラ!コアラさーん!会いに行くぜ!」

リン母娘と小さなウサギのフロプシー、そしておっさんグマのおれは、ココロを鬼にしてキリン舎もシロクマもペンギン水槽の前も全部スルーした。急坂を登りきれば、そこはコアラ舎だ。

「まぁ!70を過ぎて、初めての名古屋で、人生初めてのコアラを見られるなんてうれしいわぁ!」

リンママちゃんは、まるで少女のように弾けた笑顔を振りまいてはしゃいでいる。大好きなiPhoneでコアラ舎の入口の写真を撮ると、リンくんとおれら(フロプシーとおれはふたり一緒にリンくんに抱っこされているのだ)を置いてさっさと中へ入っていってしまった。

“コアラ舎の入口に到着!”

薄暗い舎の中へ入ると、そこにはいくつかのブースに分かれて木の枝やユーカリの葉が置かれた大きな飼育舎があった。

「むふー!いたーぁ!」

全体的には灰色のモフモフのカラダ、大きなお耳には長い白っぽい毛が混じり、手指は長く爪も大きい。まぁるまるとして、基本的には木の上で寝ている。目の前のそれは、まさしくコアラらしいコアラさんたちだった。

“灰色のモフモフのカラダ、お耳には白っぽい長い毛が混じる”
“まぁるまる!” 
“アンモナイトのようにカラダを丸めてお昼寝中”

東山動物園の公式によれば、現在(2024年4月18日のプレスリリース)の飼育頭数は10頭なのだそうだ。それはあとから調べて知ったまでのことで、そのときは木の枝に器用にはさまりつつカラダを固定してお昼寝しているコたちをぼんやりと眺めた。手前に掲示されているお名前を見てもひとつのお部屋に複数のコがいるものだから、どれがどのコなのか見当もつかなかった。

“むふー!指がカワイイのよ”

せっかくなので、おれはフロプシーと記念撮影をしてみることにした。

「リンくん、おれらのこと撮ってくれよ。ツーショットでさ。」

「はいはいなー。でもコアラさん、うまく入るかなぁ・・・?」

「アラ、ころすけと一緒、ワタシうれしいわ!」

「ハイ、じゃぁ撮るねー!ニコッって笑ってくださーい。ハイッ!」

カシャカシャカシャ

“「リンくん、おれらのこと撮ってくれよ。ツーショットでさ。」”

ふーむ。考えてみれば、貴重なコアラ舎のなかで、小さなオッサングマとウサギさんが見に来ていて、そのツーショットを撮っているニンゲンっていうのもなかなかな珍獣っぷりだよなぁって思う。まぁでもそんな中でもおれはしっかり笑顔を作ったけれど。

リンくんがおれらの写真を撮っているあいだ、リンママちゃんはというと、コアラさんたち一頭一頭の写真をiPhoneで撮りまくっていた。

「うーん、遠いわねぇ。うまく拡大できるかしら・・・?まぁ、見えるといえば見えるけれど、なんだかちょっとお顔がわからないわね。」

「わたしのコッチのカメラでもコアラさんたち撮っておくからあとで送るよ。」

リンくんはリンママちゃんにそう言うと、ソニお(今回の旅の相棒、SONYのコンパクトデジカメのことだ)を手に、ギリギリまで望遠をしてシャッタースピードと感度のギリギリのせめぎあいをしつつ何枚もコアラさんを撮影しはじめた。

たいがいのコは丸まっていたり背中やおしりを向けていたりしているなか、一頭、積極的にエサのユーカリを手に取り、豪快に頬張る姿を見せてくれるコがいた。むっしゃむっしゃと口を動かしつつ葉を器用につかむその手指は、5本のうち2本がニンゲンでいう親指なのだという。体型もお顔もそのモフモフの毛並みも全部カワイイのだけれど、指はコアラさんのひとつの見どころなんじゃないかと、おれは思う。

“わっ!コッチに来てくれたよ!”
“むっしゃむっしゃ・・・”
“コアラさんの見どころのひとつは器用な手指だと思う”

観察道の目の前までやってきて大サービスをしてくれたそのコは、ひとしきり食事を終えると、木の枝のてっぺんまでよじ登り、枝のY字部分にバランスよくおさまった。かと思うと、すぐにまぶたを閉じた。

やっぱり寝るんかい、コアラさん。

“食事を終えると木の枝のてっぺんまでよじ登る”
“おなかいっぱい、もう眠たい・・・って感じ?”

ずぅっと見ていても飽きない。飽きないよ、コアラさん。もしおれが逆の立場だったら、見るものをこんなに飽きさせずにいられるだろうか。

フロプシーとの初デートに動物園のコアラ舎を選んだのは間違いじゃなかった。
だって、見ているだけで飽きないから、会話が続かなくたって平気だもの。

「カワイイねぇーコアラさん。」

とおっさんグマのおれが言う。

「そうね、カワイイわねぇ、コアラさん。」

と小さなウサギのフロプシーが言う。

それだけで、おれらの初デートはカンペキだ。

ほとんどのニンゲンたちが10分もしないうちに流れるようにコアラ舎を出ていくのに、おれらはというと気がつけば45分が経過していた。リンくんがコアラさんたちとあまりに真剣に向き合いすぎて、リンママちゃんも飽き始めるくらいだった。

こんなに広くて見どころの多い東山動物園だけれど、コアラ舎に長く滞在しているのはおれらのほかにもいた。でかい望遠レンズを装着したカメラマンのオジサマふたりだ。ひとりは三脚を立てたじっくり派、もうひとりは手持ちで機動力重視派のようだった。

(今回のおれの旅日記の)冒頭でリンくんが声をかけたのは、後者のカメラマンのほうだった。リンくんはコアラさんたちのことで、どうしても聞いてみたいことがあったらしい。
「スミマセン、ちょっと質問してもいいですか?」とオジサマに近寄るリンくん。

「あ、ども。どうぞ?」

「なんで、奥のコを狙ってるんですか?」

そう、確かにカメラマンのふたりは、他のコアラさんたちには目もくれず、観察道からはいちばん遠い、奥の部屋にいるコのシャッターチャンスを狙っているように見えたのだ。

「ああ、あのコね、おなかに赤ちゃんがいるんです。10月に生まれた生後7ヶ月の赤ちゃんがね、お母さんコアラのおなかの袋から出たり入ったりしてるんですよ。」

「へぇ!なんと!それであのコのシャッターチャンスを狙っていたんですねぇ!」

「そうなんですよー。ほら、おなかがちょっとふくれているように見えるでしょ?袋の中に赤ちゃんがいるんですよ。なかなか出てきてくれなくてねぇ。」

「ちなみに、あのお母さん、お名前は?」

「りんです。」

!!!
なんと!リンくんとは似ても似つかぬ、カワイイモフモフのコアラお母さんのお名前は、「りん」ちゃんというらしい。同じ名前だと知ってどんな感情を示せばいいかわからなくなったリンくんは、へぇとかほぉ!とかあいづちを打つばかりだった。

“いちばん奥のお部屋にいたりんちゃん。おなかの袋に赤ちゃんがいるらしい!”
“うーん!おなかの袋の赤ちゃんは見られず残念”

「あ、ちなみに手前のダイフクもりんの子供ですよ。」

すでに閉園まで30分を切っている閑散としたコアラ舎のなかで、そのカメラマンのオジサマは挙動不審気味のリンくんに、丁寧にお話して教えてくれた。ちなみに、さっきお昼寝から起き抜けに豪快にエサのユーカリを食べ、またお昼寝に戻っていったあのコアラさんは「ななみ」ちゃんというコだそうだ。

「ご丁寧にありがとうございました。お邪魔しました!」

疑問が解決してスッキリしたところでオジサマにお礼を言うと、リンくんとおれらはコアラ舎を立ち去ったのだった。

16時50分の閉園までは、残すところあと20分。
実はおれらには、ココ東山動物園で、まだやることがある。この最後の短い時間で、リンママちゃんとフロプシーにはナイショにしていた、大きなミッションを果たさなければならないのだ。

ゴニョゴニョゴニョゴニョ・・・

「ねぇ、ころすけ、例のアレ、覚えてるよね?」

リンくんがこっそりとおれに耳打ちをする。

「もちろんさぁ!」

おれはドンっと胸のツキノワ部分のあたりをたたいてみせた。赤いポロシャツを着ているから実際には見えないけれどな。

リンくんはクルッとリンママちゃんのほうを振り向くと、正門の手前にある”ZOOBOGATE(ズーボゲート)”という緑と黄色の看板を指さした。

「ねぇママ。念願のカワイイコアラさんたちにも会えたことだしさ、おみやげショップに寄ろうよ。ね?ホラ、いっそげー!」

「そうね、いいわね。行きましょう。」

おれは、コアラさんでカメラロールをいっぱいにして満足そうな表情を浮かべるリンママちゃんを、何食わぬ顔で先導した。フロプシーはリンくんに抱っこされて不思議そうな顔をしていた。

「何か、あるの?」

「フロプシー、着いてからのお楽しみだよ。」

いつ泣き出してもおかしくない空模様のもと、人だかりができている閉園直前のおみやげショップに向かって、おれらはスタスタと歩みを早めたのだった。

その3 につづく)

ころすけ

「コアラのラアコがやってきた ラァ!ラァ!ラァ! – ころすけの旅日記(名古屋&伊勢)その3」
https://bobingreen.com/2024/06/03/9399/

「ニチヨービの東京駅の洗礼 – ころすけの旅日記(名古屋&伊勢編)その1」
https://bobingreen.com/2024/05/23/9254/

東山動植物園 公式ホームページ / 愛知県名古屋市
https://www.higashiyama.city.nagoya.jp/

「コアラの赤ちゃんが順調に育っています」2024年04月18日(木) / 東山動植物園公式ホームページ
https://www.higashiyama.city.nagoya.jp/news/2024/04/post-1087.html

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Rin(リン)

ぬいぐるみブロガー、Rin(リン)です。 ライオンのボブ家と愉快な仲間たち、そしてニンゲンのケンイツ園長と一緒に、みどりキャンプ場で暮らしています。 ボブ家の日常を、彼らの視点でつづっていきます。

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