手術のあとはとっても眠たいの
「あのね、すず、オナカ、いたいの。フクちゃん、なでなでしてくれるの?」
「すずちゃん、目が覚めたの?フクがそばにいるからね。よく頑張ったね。いたいのいたいの飛んでけー。」
なでなで
なでなで
「フクちゃん、やさしいね。ありやと。」
「あのね、エンチョォ、すず、オナカ、いたいの。」
「すずー起きたのか?まだ動いちゃダメだぞ、リンくんみたいにな、でっかいオナラがブゥって出て、それではじめて治ったってことだからな、それまでは安静だぞ?いいかー?」
「ウン。わかった。」
「すず、目覚めたの?良かったぁー!おで、すずのためになんでもするからな。」
「ウン。ボブぞオヤビン(親分)、ありやと。でもね、すず、まだ眠たいの。」
「うんうん、そうかそうか、もうちょっと寝てなね。」
「ウン・・・。うとうと・・・。」
すずこと鈴之助です。えっとね、あのね、ウサギだよ。
あのね、すずね、今、とっても眠たくって、おフトンに横になったまんまなのね。
うとうとがうとうとして、えぇっと・・・、そうしたら、でっかいキューリさんが、夢に出てきたの。
「すずちゃん、すずちゃん、ボクを食べてくれなくっちゃダメだよ。すずちゃんはねオナカの手術をしたんだから、元気になるためには、キューリの栄養が必要だよ。だから、ほら、キューリのボクをどうぞ。おくちから食べられるかな?それとも、キューリ汁の点滴にするかい?」
そんな、そんな、キューリさん。早口でおしゃべりされても、すず、いまとってもとっても眠たくって・・・ふわぁー・・・。
キューリさんって、そんなコトバが達者だったかなぁ?まぁ・・・食べてっていうんだから食べなくっちゃなぁ・・・ふわぁー・・・。
あぁ・・・、すず、とっても眠たいよ。
ハテ?おくちもとに、ひんやりして硬くて、懐かしい感触がした。
「ほら、シャクシャクできるかなぁ?おくち大きく開けるのは辛いかな?」
うぅ・・・しゃく・・・しゃく・・・・。。。うぅーーー、眠たいの。
「まだキューリの麻酔が効いてるみたいだね。もうちょっと時間が経ってから、もう一度チャレンジしてみようね。」
「うん・・・。キューリさん、ありやと。」
ぽとっ・・・
次に目が覚めたときには、フクちゃんがすずのためにキューリを食べさせてくれようと準備をしていた。まるでニワトリさんのとさかみたいに、フクちゃんのアタマのカーブに沿うようにキューリさんがニョコっと乗っていた。
「すず、フクちゃんの持ってきてくれたキューリさん、ひとくちだけ食べてみようかな?」
「すずちゃん、そういうと思ってたよ。のどかわいたでしょ?ほらっ!どぉぞ。」
・・・しゃくっ。
「うん、やっぱりキューリさんはオイシーの。フクちゃん、やさしいね。ありやと。」
「えっへん!大好きなすずちゃんのためだもの。なんでもするの。さぁ、フクがちゃんと添い寝してるからね。」
「すずもフクちゃんのことだいすき。」
どうやらみんな心配してくれたみたい。
キューリのおかげで、だんだん意識がはっきりしてきた。
オハナのみんながすずのおフトンの周りでジィっとこちらをのぞきこんでるのがわかった。
「あぁ。すず、顔色が良くなってきたねぇ。あのね。すずのオナカの手術が無事終わったんだよ。良かったなぁ!」
ケンイツエンチョーに言われて初めて、今日手術したってことを思い出したの。
「しゅじゅつ?そっかぁ。すず、また手術したのかぁ・・・。何度目かなぁ。すずのオナカ、治ったの?」
「さっき、無免許医師みどりジャックが、無事に終わったって言ってたよ。な?リンくん?」
エンチョーがリンくんの方へ顔を向ける。
「みんな、すずの看病ありがとねぇ。はいはい、みどりジャック先生がね、すずのオナカの中、左の脇腹あたりにできた傷を、チクチク縫ってくれたってよ。それからね、手術中に確認してたら、虫食いみたいな穴も発見したらしいからね、それも塞いでおいたって言ってたよ。」
ふふ。リンくんは知らんぷりしてるけど、執刀医のみどりジャック先生が実はリンくんだってこと、すずは知ってるもん。
(みどりジャック先生のお話はコチラ→「無免許医師、みどりジャックあらわる」)
「ふぇぇー。もしかしてすず、すごい手術だったんだな?」
「すず、がんばった?」
「そうさぁ。すずはがんばりやさんだよ!」
ボブぞオヤビンにほめられて、とってもうれしいの。
「すずはさ、みどりジャック先生の手術を受けるのは二度目だっだけど、うちに来る前にも何度か手術を受けた跡があったもんねぇ。そのかわいらしいまぁるいクリクリのお目めや、小さなおちょぼぐちからは想像もできないくらい、苦労してきたウサギさんなんだよね。」
「すず、このおうちに来る前の昔のことは忘れちゃったよ。でもね、いまはまだちょっとオナカいたいの。治ったらいっぱい遊びたいの。」
「そうだね。今日はゆっくり安静にしてね。みんなが見守ってるよ。」
リンくんにそう言われると、また眠ってしまったみたい。
夢の中に戻ると、見覚えのある景色とともに、鳥さんの声が聞こえた。
つぴつぴつぴつぴ、シジュウカラさん。
フゥーホケキョ、ウグイスさん。
トゥポッポポゥポゥ、キジバトさん。
ぐげぐげぐげ、ぐげげげげげ、げろっげろっ、オオヨシキリさん。
「・・・とりさん!」
「すずちゃぁーん、ぼくたち、わたしたち、野鳥の森ですずちゃんが遊びに来てくれること待ってるからね。」
すいぃーすいぃーすいぃー
ハクチョウさんのカップルと、子どものハクチョウさんもいる。あぁ、すずが名前を(勝手に)付けた、ハクチョウの子ども、”こすず”も夢に出てきてくれた。
「こすずぅ!頑張って元気になるから、会いに行くまで待っててねー。」
すいぃー
気がついたのかどうかはわからないけど、コッチをちらりと見てから、また水面を泳いでいってしまった。
あの夢で見た景色は、見慣れた手賀沼公園の早朝の姿だったかなと思う。真っ青に晴れ渡った空の色が湖面に映り込む。すず、早く元気になって、また野鳥レポートしに行かなくっちゃ。
すると、スイーッとやってきたのはツバメさん。
「すずちゃん、わたしたちと一緒に空を飛ぼうよ。ホラ、その立派な赤い羽根でさ。」
「ツバメさん、ツバメさん。いまのすずは、お空飛べないの。羽根は元気なんだけどね、オナカのなか、傷だらけでね、治してもらったばっかりなんだ。傷がくっつくまで、もうちょっと待っててね。」
「フーン。そうなんだね。待っていてあげたいけれど、わたしたち、もうココを離れなくっちゃいけないんだ。日本は寒くなるからね、もっとあったかいところへ移動するんだ。」
「そっか、そうだったね。じゃぁ、また来年の春、会える?」
「そうだね、すずちゃんがすっかり元気になったら、きっと会えるね。」
「うん。じゃぁあ、約束。」
「約束。」
ツバメさんは、電線の上にピンと背中を反らせて、カッコよくポーズをとったかと思うと、その瞬間、いなくなってしまった。
あぁ行っちゃった!と思ってすずが追いかけようと羽根を動かすと、ハッと目が覚めたんだ。
「すずちゃん、おはよう。よく眠れた?」
隣で添い寝をしてくれていたフクちゃんが、口もとをゆるませて、ニコッと笑った。
「うん。よく眠れたよ。鳥さんの夢見たんだ。」
「すずちゃんは鳥さんが好きだね。フクの夢も見てほしいなぁ。」
「フクちゃんとはずっと一緒にいるもん、夢じゃないもん。」
うふふ。うふふ。
ふたりでくすくす笑うと、その振動がオナカの傷にちょっとだけ響いた。
すると。
ブゥッっっ!!!
「あっははははは!オナラ、出たぁー!」
「あ。すずちゃん、オナラ出たねぇー。もう大丈夫だね。」
あぁ、生きてるよ。すず、生きてるよ。
眠たいのも、おいしいのも、楽しいのも、生きてるからだよ。
これからやりたいこといっぱい。
ぎゅっ。
フクちゃんと手を繋いで、もう一度眠ることにするの。
手術のあとは、とっても眠たいから。
みんな、オヤスミナサイ。
スゥ・・・。
すず(鈴之助)