無免許医師、みどりジャックあらわる

「すずぅ?おなかから、キューリ出ちゃってるよ。」

「アッ・・・!おやびーん(親分)、ばれちゃった?エヘヘ。だってすず、キューリ大好きだもーん。」

すずがおすわりをするたびに、気になってたんだよね。みどり色の何かが出てるってこと。

おで、ライオンのボブぞです。

ウサギのすず、こと鈴之助は、おでのコビン(子分)。まぁ、弟分、といってもいいのかもしれないけど、我が家のウサギのすずとアザラシのフクが、ふたりで”コビンズ”っていうコンビを組んでるからね、コビンって呼んでるんだ。ちょっとかわいいでしょ。

あっ、それでね。すずが我が家にやってきたのは今年の春なんだけどね。実は、オナカの下のところ、ケガして傷口が開いたまんまになってるんだ。

すずってば、うちに来る前までのことは多くを語らないんだけどさ。ケンイツエンチョーのご実家の物置のなかで、暗くて寒くて寂しいところに、長年ひとりぼっちでいたらしいってことは聞いてる。どこでどうなっちゃったのかはわからないけれど、すずのおなかには、実は手術痕がいくつもあるんだ。例のみどり色の何かってのは、古傷のひとつが、きっと開いちゃったんだと思う。

“おすわりすると、チラリと見えるキューリ色の何か・・・”

「ねぇ、すず。その傷、痛くないの?」

「ヘ?なんのことー?」

「ほら、そのキューリ色のとこだよぉ。」

「アッ!コレ、傷っていうんだねー?痛くないよー。キューリいっぱい食べるとね、ちょっと中身が出ちゃうだけだから、気にしないでー!アハッ!」

“アッ!コレ?キューリいっぱい食べると中身でちゃうんだ”

すずはいつだって明るくそういっては、まあるい目をキラキラさせるんだ。だから、おでも、大丈夫なのかな?って思うようにしてたんだけどさ。

・・・でもね。どうしたって、やっぱり気になる。

だから、おで、ある日、リンくんに相談してみた。

「なぁなぁリンくーん。ヘタなりにさぁ、手術できないの?シュ・ジュ・ツ!針と糸、使うやつ。リンくんだってボタンくらいはつけられるでしょ?すずのオナカ、傷口が広がっちゃう前に、治してあげてほしいの。」

「そうだねぇ。さすがボブぞオヤビン(親分)!優しいね。ボブぞが治してあげればいいじゃん?」

「んもう!おではまだ7才のライオンなんですぅ!まだお裁縫、習ってないんですぅ!それにさ、おでのライオンの手じゃ、針も糸も持てない気がするなぁ。」

「あはは。こういうときだけ、”まだ”7才っていう。”もう”7才のおニーさんなんじゃないの?」

ぷぅ・・・。
どんなにあがいても、このおでの青い爪とふわふわのお手てじゃぁ、細い針は持てないもの。針に糸、通せないもの。すずのこと逆に傷つけちゃったら困るもの。

「そりゃあ、大好きなすずの役に立ちたいキモチはあるけど、ライオンがウサギさんのこと手術するって、聞いたことないでしょ?んもう!そういうのはさ、ニンゲンのかたちしてるリンくんがやってよぅ。せっかく器用に動かせるニンゲンの手指持ってるんでしょ!お願いだよぅ。すずのためなんだよぅ!」

「ボブぞに懇願されちゃあ、断れないね。じゃぁ、無免許のリンくん外科医が執刀しようじゃないか。フハハハハハ!手術後の経過観察は、ボブぞ看護師さん、頼みますよ。」

「おう!看病は任しとけ!すずはおでの大事なコビンだもん!あっそれから、メスはいらないんですよ。縫合のみ、お願いしますよっ。」

フゥ。やれやれ。リンくんを手なずけてうまく働かせるのは、おでの大事なシゴトだ。多少調子に乗らせてでも、欲するものを実現せねば。リンくんなんて、ライオンの手のひらの上でコロコロと転がってればいいのさ。フハッ。

さぁて。リンくんと話がまとまったところで、次はすずを説得にかからにゃならん。

「なぁー、すーずっ。すーずちゃん?」

「パタパタパタパタ!なーにオヤビーン?」

「すずちゃん、今日はちょっとリンくんのところで遊んでおいで?」

「ヘ?そなのー?すず、オヤビンと遊びたいなぁ。あっ!ナンダコレー!はっけんはっけん!何かはっけんしたよ!コレなぁにー?」

「ぎゃぁぁぁぁ!リンくん、なんてところにこんなものをっ!」

すずが発見したもの、それは、みどり色の手縫い用の糸だった。リンくんがすずのおなかのみどり色と色合わせをするためにソファに置いたものだった。

“はっけんはっけん!何かはっけん!”
“コレなぁにー?”
“イヤン・・・”

(リンくんっ!しっかりしてよっ!もうー!すずが怖がって暴れるかもしれないでしょぉ?)

小声でリンくんに言おうとしたら、すかさずリンくんがすずを抱き上げて行ってしまった。 

「ハーイ、すずちゃん。おーいーでっ!リンくんと遊ぼ。」

「はにゃ―?パタパタパタパタ・・・。」

クンクン・・・クンクン・・・(ふぁーキューリぃぃぃ・・・いいニオイぃぃぃ・・・)
・・・グゥ・・・。

おっ。リン外科医、なかなかの強硬手段に出た!
なんと、キューリの匂いをかがせて、すずを眠らせてしまったのだった。さすがのおでも、そこまで無理強いはできないなぁって思ってたから、リンくんの強引さと鮮やかさにはびっくりした。

そんなわけで、あっさり、手術が開始した。リンくんはメガネをかけて、ジィっと集中している。朝の光が差し込んでいて、手元は十分に明るい様子だ。おでは、心配しつつその姿を見守った。
眠ったすずがおとなしくおなかを出して、リン医師にされるがままになっているのを見て、我が家に来る前、一体すずのカラダに何が起きたんだろうか・・・、とココロが少しきゅっとなった。

すずのオナカの傷の縫合は20分足らずで終了した。
お裁縫のニガテなリンくんのわりには、まぁまぁ手早くやってくれたようだった。

「ボブぞ看護師。無事に縫合終わりましたです。キューリの麻酔から目を覚ますまで、しっかり経過観察と看病、よろしくおねがいします。」

ブラックジャックならぬみどりジャック、リン医師は、目をしぱしぱさせながら多少の疲弊感をかもし出し、おでに向かってそう報告をしたのだった。

“みどりジャック、リン医師。へたなりに頑張ったらしいぞ”

すずが目覚めるまでの間、おでは横で添い寝をすることにした。他のオハナ(家族)のみんなも集まってきて、みんなですずのことを見守った。

すずはやさしい寝顔でぐっすりと眠っていた。どんな夢、みてるかな?オナカの傷、痛くないかな?縫合したから、もう大丈夫だよ。すずがこれまでしてきた苦労のことはわかってあげられないかもしれない。だけど、もう大丈夫。おで、すずのこれからのウサギ生(人生)にずっと寄り添おう、そう、改めて思ったんだ。

すず。よく頑張ってるな。いつも、笑顔をありがとうな。
目が覚めたら、一緒にキューリ、食べような。約束な。

ボブぞ

“すず。よく頑張ってるな。いつも、笑顔をありがとうな”
“オハナ(家族)みんなですずを看病するよ”
“治ったあとのおすわり。ほらっ!キューリ出なくなった!”

すず(鈴之助)が我がボブ家にやってきた日のお話はこちらからどうぞ↓↓↓
「鈴之助、参上。」
https://bobingreen.com/2022/04/15/1808/

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Rin(リン)

ぬいぐるみブロガー、Rin(リン)です。 ライオンのボブ家と愉快な仲間たち、そしてニンゲンのケンイツ園長と一緒に、みどりキャンプ場で暮らしています。 ボブ家の日常を、彼らの視点でつづっていきます。

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