春待つ枯れ庭に、蝋梅いっぽん獅子ひとり
甘い可憐な香りが、冷たい風にのってやってきた。
わたしのたてがみをやさしく揺らして、あっさりと通り過ぎてゆく。
鳥たちのさえずる声。
チュイチュイ。チュルゥルゥ。チュルゥルゥ。
ピーイッ!ピーイッ!
クァクァ。クァクァ。
枯れ葉がひとつあいさつをする。
カサカサ。コソコソ。
遠くで低くうなりつづけるプロペラ音。
バルバルバルバル・・・
かすかに聴こえるバイオリンの音色は、
スピーカーから流れる控えめなBGM。
噴水の音は、しない。
ニンゲンの声も、しない。
池は水さえ抜かれて、メンテナンス中そのもの。
それなのに、メンテナンスをするニンゲンさえ、いない。
わたしのお気に入りの花園は、しばしお休み中。
春に向けて、エイッと力をたくわえる。
じいっと。そおっと。
見回せば、あちらもこちらも、茶系の濃淡の世界だ。
梅雨どきに見事に色づきみずみずしい世界を作り出していたあじさいも
春に秋にと長い命を生き続けながら小さな花弁を散らすオールドローズたちも
小川を真っ赤に彩っていたもみじも
恐ろしい羽音をたててハチたちが飛び回る妖艶な藤棚も
今は色彩を失い、おだやかに光を浴びている。
見上げれば空色をさえぎるものはなく、
よくもわるくも、この花園の隣で暮らすニンゲンたちの家屋や、あの特徴的な外壁の集合住宅がよく見えてしまう。
あら。こんにちわーに!
ライオンのボブこです。
冬のバラ園をお散歩に来てみたの。
平日ってこともあるのかもしれないけれどね、驚くくらい、ニンゲンがいない。
園内で出会ったお客のニンゲンは10人もいないんじゃないかしら・・・。
そして、寒い中、せっせとバラの木を剪定したり、通路を整備したりと忙しく働く係員さんたちのほうが多いくらい。
「コンニチハぁー」
「コンニチハぁー」
剪定をする係員さんとごあいさつをしてすれ違う。
このバラ園ではわたしはすでに馴染みのライオンになっているのかもしれない。
初めての真冬のバラ園。
あまりに季節外れのバラ園。
だけれどね。わたし、今日来てすごく良かった。
いっぽんの蝋梅が、わたしを待っていてくれた。
それは見事に咲き誇り、黄色い花弁は太陽の光を浴びて、ただいっぽん、たったいっぽんで、冬をがんばっていた。
蝋梅さん、今日はわたし、あなたに会いに来たんだと思う。来て、本当に良かったの。
春、夏、秋、とこのバラ園へは花の季節の折々に何度となく訪れてきた。
今日、この冬のはだかんぼうの姿を知ってしまったからには、次の春は本当に待ち遠しい。こんな、素顔が愛おしいのだから、きっと春の装いには、もっと感動してしまうと思うの。
あぁ。楽しみができたわ。
春待つ枯れ庭を楽しめるなんて、わたしもずいぶんとオネーさんライオンになったものね。
うふふ。
ボブこ
京成バラ園(千葉県八千代市)
https://www.keiseirose.co.jp/garden/
※Rin注: 京成バラ園の四季の様子です。それぞれの季節のお話をどうぞお楽しみください↓↓↓
春バラの開花前。新緑と藤棚(4月)
「秘密の花園へのパスポート」
https://bobingreen.com/2022/05/09/1950/
春バラ、雨上がりの夕方(5月)
「バラの香りの絆」
https://bobingreen.com/2022/06/10/2128/
あじさいの頃(6月)
「ボブおの好きな花」
https://bobingreen.com/2022/06/26/2207/
秋バラ真っ盛り(10月)
「プリンセスボブコ」
https://bobingreen.com/2021/10/30/1337/
秋バラの後半&ローズヒップ(11月)
「ローズヒップのお楽しみ」
https://bobingreen.com/2022/11/07/2934/