猫の衣を借る熊
急に我がボブ家にやってきた、猫。
ついこの間まで食卓のテーブルの上で、ペタンコのカラダで佇んでいたかと思えば、急に丸々と太って、ペンギンの勘九郎の真横に陣取っている。どうやら、勘九郎が管理している大切なスイーツ在庫を平らげた様子だ。そこかしこにクッキーのカスやチョコレートのしみが飛び散っていた。猫は、ふてぶてしい顔をして、そのでかい腹を上に向けて、どっかりと座りこんでいる。
おぅい。お前さん、ダァレだい?
「吾輩は猫である。名前はまだ無い。」
ひとこと、低いドラ声で答えたかと思うと、おれがまばたきしているそのすきに、姿を消してしまった。
ボブおです。おれは、この家のリーダー、オハナ(家族)の長。
何かとあたらしい仲間が増える我がボブ家だけれど、この謎の猫が果たしておれらのオハナなのかどうか、まだ決めかねていた。やつの行動と態度を観察してからみんなと相談しよう、そう思っていた。ここまでの傍若無人な振る舞いを見る限りでは、うーん、うまくやっていけるかどうか不安だなぁ、と思っていた。
あっれ、ドコいったのかな・・・。
姿を消した猫は、我が家のおやつを食い尽くして、別の家にでも移動したのだろうか?
不思議に思い首をかしげていると、
ヒョコっ
ヒョコっ
猫が怠そうに居たその場所に、白いもふもふと黒いもふもふが、小さなよっつの目で、おれのほうを見ていた。
「我らは熊である。名を六五郎(ムツゴロオ)、七五郎(シチゴロオ)と申す。
どこで生れたか蘭の国だと聞いておる。何でも薄暗いじめじめした所で”Hallo! Hallo!”呼びかけて居た事丈は記憶して居る。・・・」
ン・・・?
名のない猫の正体は、我が家のオハナでオランダ生まれのシロくまクロくまコンビ、ムツゴロオとシチゴロオだった。
“Hallo! Hallo!”(アロー!アロー!)
なぁんだぁ。何してるの?おれ、びっくりしちゃった。
あのねー。ボブおさん、聞いて聞いて。
いいお洋服、見つけたの。猫さんの柄なのね。それでね、ふたりで一緒に入れるの。ボクたち、いっつもおでかけするときさ、箱に入って移動してたでしょ。ちょっと不便だったんだよね。
コレ、いいでしょぉ?似合ってる?
ムツゴロオ(クロくまの方だ)が慣れた日本語で答えると、ムツゴロオ(相方のシロくまだ)がコクコクと首をたてに振った。
・・・おぉ。なんと。日本語、上手になったのね。
彼らの新しい遊びに驚き、おれはそう答えるしかできなかった。
んー・・・バァっ!
“Hallo! Hallo!”(アロー!アロー!)
んー・・・バァっ!
“Hallo! Hallo!”(アロー!アロー!)
ムツゴロオとシチゴロオのふたりはこの遊びがいたく気に入ったらしく、”猫の衣”を首元まで下げたりすっぽりかぶったりと遊んでいる。
フーン。
虎の威を借る狐(とらのいをかるきつね)
ならぬ
「猫の衣」を借る「熊」(ねこのいをかるくま)
ここに現わる、だな。
アハッ!
おーい。ムツゴロオ、シチゴロオ、そんなに”猫”かぶっちゃって!君らの本性、見せてもいいんだよ?
耳の先っぽまで猫をかぶったふたりは、楽しそうに、モゾモゾモゾモゾとうごめいていた。彼らが柔らかい伸縮性のあるその衣の中で動くたびに、猫の表情がコロコロと変わるのがおもしろい。
観察を続けていると、ペンギンの勘九郎が後ろから話しかけてきた。
ねぇねぇ、大事件!ボブおさん!聞いて!
わっしのおやつがね、全部無くなってるのー!食べた犯人、だぁれか知ってる?!
・・・ンー・・・?猫、かな?
カンカンカカーン!ヒドーイ!わっしの大事なスイーツ在庫ーーーーー!カーン!(涙)
まったく。
我がボブ家、みんな個性豊かでみんなおもしろいのよ。
だからオハナはやめられない。
ボブお
吾輩は猫である。名前はまだ無い。
夏目漱石 『吾輩は猫である』
どこで生れたか頓と見當がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニヤーニヤー泣いて居た事丈は記憶して居る。
Rin注: ムツゴロオとシチゴロオの登場のお話はこちらからどうぞ↓↓↓
「ちっちゃいオジサンぐまに出会った」
https://bobingreen.com/2021/09/24/1254/
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