モクモクとホワホワ、ゆきあいの空のこと

一昨日のこと。

心地よい昼寝から目が覚めて、ふと窓の外を見ると、美しい空が広がっていた。

アザラシのフクです。

ボクは毛の色が白くて、正面から見るとまぁるくて、横から見てもまぁるくて、ずっしりドッシリとした体型をしている。フカフカふわふわに見えるけど、意外と体重はあるんだ。小さな手と小さな尾をパタパタとさせて、いつもオトモダチと一緒に遊ぶ。

今日はリンくんの腕の中にギュッと収まって、お空を一緒に眺めている。リンくんは、我が家のオハナ(家族)のなかで、ボクを抱っこするのが、イチバン緊張するのだという。

だって、フク、つかみどころがないっていうかさ。首もなければ手も小さければ、しっぽも小さいし、まぁるくてボールみたいで、でもフワフワスベスベしててさ。ツルっ、て手を滑らせたらゴロンゴロンとどこまでも転がって行ってしまいそうなんだもん。

そう言って、リンくんはボクのことを抱っこするときは、両手でキュッとするほかに、ボクのフカフカのおなかの肉をちょっとつかんで、ギュイッとつねるかのようにしてくる。そうやって、ちょっとでも固定することで、ボクが転ばないようにしてくれてるらしい。

ねぇ、リンくん。いっつも思ってたんだけどね。

ボクがどこか行ってしまわないようにって大事にしてもらってるその気持ちはありがたいけれど、おなかをつねられて嬉しいアザラシはいないと思うんだけど。もちょっとマトモな方法ないの?ホラ、ほかのみんなみたいにお洋服着せてくれるとかサァ・・・!

確かにね。そのうち、検討しよう。冬に向けて腹巻きでも編もうかしらん。

むぅ。腹巻きか・・・。可愛くしてよね・・・?

ポソポソとおしゃべりをしながら、窓ガラスを開ける。
みどりテラスに出て改めて空を見上げると、砂埃のフィルターが取れて、より美しさが際立って見えた。

ここのところ秋らしい日が続いてたから、夏の雲はちょっと久しぶりな感じだね。もう今年は、この雲見納めかもねぇ。フクの雲だね。

フクの雲?それって、ボクの雲、ってこと?

そう。マルマルフクフク、白くてくっきりしてて、夏の入道雲はフクっぽいよね。それにさ、フクはつかみどころがないから、それも雲に似てるよ。

フーン。

空の低いところには、輪郭がくっきりとした雲がモクモクとしていて、一方高いところにはホワホワとした薄い雲がやってきてる。モクモクしてる方は夏の間に何度となくみたけれど、ホワホワのほうはここのところの主流だ。

そのときはそれくらいしか思わなかった。

“雲に似てるっていわれるけど、ホントかな?”

ここだけの話だよ。
ボク、後から調べて知ったんだけどね。
夏の空と秋の空がひとときに出会うことを、「ゆきあいの空(行き合いの空)」と言うらしいんだ。季節の変わり目のときに、夏の空と秋の空が一度に見られることなんだって。

ボクは今年の梅雨にこのおうちに来たから、まだ夏しか過ごしていない。これから、よく知らない秋っていうものが本格的にやってくるのだそうだ。

ねぇ、リンくん?夏の雲はボクに似てるかもしれないけど、秋ってやつになったら、ボク、変身するかもしれないよ?リンくんだって、まだボクの秋の姿見てないくせにさぁ。

フク、変身できるのっ?おわぁー!じゃあさ、いっそのこと、腹巻きじゃなくて、変身ベルト編んであげよっかね!へぇーんしんっ!ってやってよね。

ハァ・・・。まったく。
せっかく素敵な空のもとなのに、リンくんは情緒のかけらもないことを言っておちゃらけている。

ボクは興ざめなヤツだなぁと思って、部屋の中に戻ったのだった。

“夏の空と秋の空がひとときに出会うことを、「ゆきあいの空」と言うらしい”

ボンヤリと、もう一度、思い返す。
美しい黄みがかった青のグラデーションと、白い雲のコントラスト。モクモクとホワホワの出会うあの情景を「ゆきあいの空」というコトバであらわすことを知って、いま、なんだかちょっぴり得意な気持ちになってる。ボクは自分自身がこれから秋に向かって、どうやって変化していくのか、とっても楽しみなんだよ。

ねぇ、リンくん?いいこと教えてあげるよ。
今日見たあのモクモクとホワホワの空のことなんだけどね。なんて言うか、知ってる?

えー?夏の神さまと秋の神さまの引き継ぎじゃないの?

ほぅ。リンくんは、そう表現するんだねぇ。せっかく覚えた「ゆきあいの空」のことを教えてあげようと思ったけど、やっぱり自分のココロにとどめておこうと思ってやめた。

コトバはやっぱりおもしろいのぉ。

フク(鰒太郎)

「夏の神さまの引き継ぎ」(2022.9.4)
https://bobingreen.com/2021/09/04/1202/

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Rin(リン)

ぬいぐるみブロガー、Rin(リン)です。 ライオンのボブ家と愉快な仲間たち、そしてニンゲンのケンイツ園長と一緒に、みどりキャンプ場で暮らしています。 ボブ家の日常を、彼らの視点でつづっていきます。

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