白いねこは白くない。天王洲のアチャラカ世界に引きずり込まれる
「うっわー、すごい久しぶりだ。カイシャインの頃に来たのが最後だから・・・5-6年ぶりかも?」
天王洲アイルの駅に降り立つ。おでらが乗っていた最後部の車両から降りる人は他にはいなかった。リンくんは妙に懐かしんでるけど、おでにとっては初めての路線だし、初めての駅だ。
「リンくーん、ドコ行くの?」
おでは若干興奮気味のリンくんに聞いてみる。
「うふふ。”おちんちん”観に行くよ。」
?!
あぁ、ついにリンくん、自分のブログでそのワードを恥ずかしげもなく書くようになったのか・・・。これまでちょっとは気をつけていたはずなのに。
「あいや、SNSでよく見てる田島享央己さんっていうアーティストの展示を観に行くんだよ。」
言い直したところで、それはもう手遅れなんじゃないかと、思う。
「あーん?それってゲージュツガクブの活動の一貫ってこと?」
(※前回のゲージュツガクブはコチラ→ 「ゲージュツガクブ、キメラに出会う」)
「そうですよ。そうですとも。今日はね、ゲージュツ作品を観に行くのですよ。ゲージュツ!うふふ。うふふ。」
うーん。なんだかリンくんのテンションがおかしい。あやしい。
でも、ここまでついてきてしまったおでは、もう引き返せないことを悟った。
オトモダチのみなさん、こんにちわーに。
おで、ライオンのボブぞです。
今日はトーキョー都内は品川の近くにある、天王洲っていう街にやってきたよ。おでのコビン(子分)でウサギのすずもお伴だ。リンくんのいつもの黒いリュックのなかに、すずと一緒にギュぅっと詰め込まれて、てんてけてんてけ、チーバからやってきたのだ。
目的地は、寺田倉庫という場所、というか、エリアにあるらしい。
「へぇー!なになに、天王洲って、アートの街になってるの?知らなかった・・・!」
目の前には”TENNOZ ART MAP”と書かれたなんだかミニマルな案内板。オシャレだけど、決してわかりやすい地図ではない。
「えーっと、わたしたちが行きたいのは、TERADA ART COMPLEX Ⅱ だから、ソコ、左折だ。」
手元のスマホと照らし合わせながら進んでいく。新東海橋を渡るとそこにはクルーズボードが停まっていて、ニンニクのものすごくいい香りがしてきた。地中海レストランらしい。
おっ!朝ごはんはおにぎり半分だったし、お昼どきだしさ。全然ガッツリ食えるぜ、おで!
「なぁなぁ、リンくん、腹ごしらえしないの?」
おでは一応聞いてみたけれど、ソッコー却下された。
「着いたー。ほぅー!なんだかカッコいい建物ですなぁ!」
手入れされた芝生と木々が植えられたエントランスには、オープンカフェまで併設されていて、マダムたちがランチしながら談笑している。ドアを引いて入ると、美術館のそれとは決定的に違うオフィスビル感というか、むしろマンション感があった。いくつかのギャラリーが入居していてそれぞれの展示会を行っているらしい。
おでらが目指すは、2階の”gallery UG”だ。
エレベーターのボタンを押して待っていると、ものすごい違和感に気がついた。
「でっか!エレベーター、でっか!」
「おおー!搬入専用エレベーター的なサイズなのね、ほうほう。」
「おでっ!こんなにっ!でっかいエレベーター乗るの、はじめてー!!!ひやっほう!」
「ボブぞ、ココでコーフンするかね?まぁ、いいけど。2階までだから、すぐ着いちゃうよ。」
ついつい、コビン(子分)のすずをそっちのけで遊んでしまった。ゴメンよ、すず。
エレベーターを降りて右を向くと、ガラス張りのブースの中に会いたかったあのコがいた。
「あ!白いねこ。」
作品のタイトルは知らない。知らないけれど、白いねこがいた。会いたかったよ。
“gallery UG”の天王洲ギャラリーで開催されているのは、田島享央己さん(Takaoki Tajima)の個展なのだ。いつだったかTwitter・・・じゃないやXで出会ったこのアーティスト、いたくリンくんのお気に入りなのだ。いつか自分の目で見たい、とリンくんは言っていたのだ。
初めてか、というと実際のところは、違う。今年の9月に千葉そごうで開催されていたアートスペースへ足を運んでいくつかの作品は見てきたんだ。そのときはデパートの人に接客されそうになって、ビビってすぐに出てきてしまったらしい。
リンくんいわく、「今日こそは、いっぱい楽しむんだもん。」だそうだ。
入場して早々に、口もとがユルユルとゆるんでいる。その視線の先には、バンドマンの白いねこ。
「ねぇねぇ、見てよ、この指っ!ギタリストはちゃんとフレット押さえてるし、うわ、特にボーカリスト、なんならヒムロックでしょ。」
スピード感のあるタッチからは、ビートが聞こえてくるような気がした。
「なぁ、この絵を見てて、おで、そんな感想でいいのか?」
「いいんじゃなーい!」
あ、だんだん適当になってきた。
決して広くはない会場の中には、おもにねこをモチーフにしたドローイングが壁に展示され、空間には彫刻作品が並べられている。いや、並べられているというよりは、彼らが存在している。そして、みな、”おちんちん”を出している。そう、みんなね。
「白いねこ、白くないんだね。」
リンくんは不思議なことを言うじゃないか、本当?って思ってよく見ていたら、彫刻にしてもドローイングにしても、なんとなく”白”って思っていた色は、まったく白くなかった。むしろレインボーカラーに近いような、ものすごく複雑な色の重なりがあって、それが目の前に圧倒的な存在感を示す立体感を出しているのだと気がついた。
「白いねこ、たしかに、白くない。うん。」
おでらは、ひとりひとりの”お彫刻”に対峙してはコトバ少なに感想を言い合って過ごした。ぐるぐる、ぐるぐる。ぐるぐるぐるぐる。
そして、ときどき、すずと一緒に写真を撮って遊んだ。いくつかお気に入りはあるけれど、おではイカがパンダを抱っこしているアレが好きだった。おでもすずのことを抱っこして一緒に写ってみたけれど、正直あんまりそれっぽくはならなかった。
「ほら、”おちんちん”出してないからじゃない?ふたりとも、出しちゃえ!」
「きゃーん!いやーん!おで、人前で出せないもん。」
「エー?すず、オトコノコだけど、ついてないよ?」
この空間に入ってからというもの、リンくんのアタマのなかがどんどんかき乱されておかしくなってきているようだ。
「ふーむ。なんでぬい(ぬいぐるみ)には”おちんちん”ついてないんだろなぁ・・・!リアリティに欠けるねぇ。」
おい、リンくん。
そもそも、おれらはぬいじゃないしね、いい加減、自分のブログだから自由とはいえ、これ以上”おちんちん”言うのはやめなさい。な?
そんなおでの忠告を無視するかのように、すぅっとベンチに座ったリンくん。3冊のクリアファイルに収められたポートフォリオを手に取り、見始める。
「わー、わたしコレ好きだなぁ。むむむ、7万円・・・。。。むむぅ。」
トランペットを吹くねこの横姿。
まるでニンゲンのトランペッターのような風貌、おなかを突き出している姿は哀愁漂うブルースを奏でている・・・ように見えなくもないのに、やっぱりそこでも”おちんちん”が見えている。隠さないのかい、きみも。
ポートフォリオのファイルはあまり人気がないようで?他に誰も見に来なかったのでじぃっくり見ることができた。過去の雑誌記事でのインタビューなども読むことができて、これまでSNSでしか知らなかった田島享央己さんの、想像以上にファンキーでファンシーなアーティストぶりを理解することができた。
特に”おちんちん”のくだりは最高。手足と同じ身体のひとつのパーツであるのにもかかわらず、気にしないように見ないようにすればするほど、気になってしまう、見てしまう。U字を重ねただけのその形状は、ドラえもんののび太にインスピレーションを受けているという。なんとも納得感と親近感のある話だった。ファインアートの世界に漫画のそれを持ち込むことがいつしか受け入れられている、というそのことに凄みを感じる。ポップでキャッチーなアイコンなのだもの、食えなかったアーティストがある意味それで認められて食えるようになったということは、ひとつの時代の進化なのだと思う。
「ンー。やっぱり好きだわ。作品は当然だけど、この方の言語センスも最高だわ。ペシミスティックなアチャラカ。なんじゃそりゃあ。」
リンくん、天王洲のアチャラカ世界に、本当に大満足したらしい。1時間ほどまるまる空間を堪能して、会場を後にしようとしたが、後ろ髪ひかれたらしい。
「この”お彫刻”の本はここで買えますか?」
「あぁ、ごめんなさい。ここでは販売はしていないんです。アマゾンで買えますので、そちらでお願いできますか。」
「あ、そうなんですねー!そうします。ありがとうございました!」
ギャラリーのお姉さん(しかも笑顔がチャーミングなエキゾティックな魅力あふれる方だった)にバイバイした。
あわよくば田島享央己さんに会って買った本にサインでももらえたら、だなんて思っていたけれど、さすがにそうはいかなかった。いつかご本人を拝んでみたい、そのときには、おでがご挨拶しようと思う。
「田島享央己ファンのリンくんっていうニンゲンを連れてきたライオンのボブぞといいます。あのね、おで、相談があるんです、おでにもいつか、”おちんちん”つくかな?」
あー!もう!ちょっと!リンくん、アタマのなかぐっちゃぐちゃーじゃん!勝手におでにそんなこと言わせないで。ホント、やめて。
「ふふ。だから言ったでしょ。あー楽しかったー!」
おでが言ってもいないことを言ったかのように書くリンくん、それは創作なのか?それともただの妄想か?おーい!おーいってば。
「わたしのアタマのなかではボブぞはそう話してるからねぇ。仕方ないよねぇ。」
すっかりアチャラカ世界に足を踏み入れてしまったようだ。
リンくん、戻ってくるかな?それとも、もう戻ってこないのかな?
「ボブぞ、コチラへ一緒にどーぞ。楽しいよ。えへへ。」
ポジティブな言い方をすれば、創作意欲をかきたてられたみたいです。リンくんの書くお話がひとつでも売れることを祈るよ、おで。
ノドが渇いたので、寺田倉庫を離れてすぐそばにあったコンビニで、一本の缶チューハイを買ってもらった。
今日は11月も9日だというのに、まだまだ陽射しが暑いくらいだ。コーネンキ気味のリンくんだから、かなり薄着なのに汗っぽく、じっとりとした手でおでを抱っこするのはやめてほしいといつも言っているのに、全然約束を守ってくれない。
プシュッ!ふはぁー。
おでらは揃って、ちょっと潮の匂いのまじる運河沿いのウッドデッキを歩く。天王洲は都会のど真ん中の商業ビルだらけの街なのかと思っていたら、すぐそこはもうマンションだった。お高級タワマン、とかいうことでもなく、どちらかといえば、中流階級のそれで、布団やら洗濯物が普通に干してある、見慣れたような風景だった。
運河の水門横の公園では、学校帰りだろうか、ちびっこたちの遊ぶ声がする。軽く15人くらいはいるだろうか、なかなかににぎわいを見せている。
「女の子たちのヒミツだもんねー!」
フーン?なんの遊びしてるのかな。確かに小学生くらいの女の子3人が、さっきまでいた遊具から離れてコソコソと内緒話をしている様子が見えた。
もしかすると、「ねーぇ、このあと田島享央己の白いねこ、観に行きましょうよ。」「えぇそうしましょうそうしましょう!」って話してるのかもしれない。
うーん・・・女の子のヒミツって、なんだろ。
ゴゴゴゴゴゴ
低いモーター音に似つかわしくない、鮮やかなピンク色の船体が海の方からやってくると、開いたままの水門の、ギリギリ下を通っていった。少し遅れて、ゆるやかな波が追いかけていく。
水面は秋の早い夕暮れの陽射しにコロコロと輝き、白いあぶくが水玉模様を作ってから、ゆっくりと消えていった。
くぴ。
ノドを潤すために買ったアルコール度数9%の”白泡”は、スパークリングワイン未満ぶどうのチューハイ以上の味わいで、空きっ腹のおでには、なかなかに効いてきた。
「うーん、そっか、お昼食べてなかったもんね、そりゃ酔っ払うよね。」
カサッカサッサクサク
遊歩道の風溜まりの落ち葉にわざと足を突っ込む。秋の終わりを知らせるはずが、あべこべに暑いままだ。
「なぁ。白いねこは白くないしさ、アッチとコッチを行ったり来たり、ぐるぐるぐるぐる飛び回ったり、自由にやりたい放題やってみようじゃないか。な、リンくん?」
おではリンくんの腕の中で、ハッパをかけるつもりで、つぶやいてみた。
(葉っぱだけにね!ぐふふ。)
「帰りは品川駅までお散歩しながら帰ろうか。駅ビルのecute(エキュート)で晩ごはん買っちゃお!」
アオサギらしき鳥が一羽、海側から新東海橋の上を素早く飛び去っていった。
目指す先の高層ビル群の上空では、とんびが数羽、悠々と旋回していた。
今日、すっかりアチャラカ世界にやられてしまったおでらは、恐る恐る、少しずつ色を混ぜ、色を重ねながら、とにかく世に出ていくのだ。
どんなにくだらないおでらとの会話だってさ、ブレブレの写真だってさ、ちゃんと世に出してくれよ、リンくん。
頼んだよ。
ボブぞ
田島享央己 Takaoki Tajima 公式ホームページ (gallery UG専属アーティスト)
https://gallery-ug.com/artists/takaokitajima/
田島享央己さんのSNSはコチラ↓↓↓
X (旧Twitter): @shidokou
https://twitter.com/shidokou/
Instagram: @shidokou
https://www.instagram.com/shidokou/
1件のコメント