おデートという名の苦行
クルッククーククルッククーク
クルッククーククルッククーク
鳩がしきりなしに鳴いている。
10月の2日。まさかまさかの真夏日ってやつだ。リンくんはノースリーブ着てサングラスして、キャップをかぶってる。夏真っ盛りなスタイルだ。
おではというと、ナツオトコ!な白Tスタイルで、同じく夏感をまだ楽しんでる。
ボブぞです。
とにかく陽射しが強くて、なんの日陰もないこの芝生のベンチは、のんびりまったりするには、いささか厳しい。
ああ、ここへ来て、ようやく、あれだね、厳しい残暑ってやつ。
リンくんがもそっとつぶやく。
うーん、うん。暑いには暑いけどおかしいでしょ。もう10月だよ。いくら昨日、台風で雨も風もびゅんびゅんの嵐だったからといって、台風一過とはよくいったものだ。
おではライオンだから、どうぶつだから、ニンゲンよりも感覚が鋭いし、雲行きや湿気の感じにはクンクンで対応できる。
それにしたって、今日は、異常な暑さだ。
そんな日に限って、リンくんてば、朝起き抜けにおでのところへ来て。
ねえねえ、ボブぞ、今日、おデートしよう?ね?行くって決めたの、お散歩、一緒に行こう?それで、お気に入りのベンチで、ふたりでおしゃべり、しよう?
あ、うーん。
今日は土曜日だけど、エンチョーが昼間はお出かけなんだって。だから、そんなスキを狙って、おでをラチしようとするんだ。エンチョーがいなくてさみしいから、おでと遊ぼうって言いに来たんだ。
ねえ、リンくん。知ってると思うけど、おではもう6才のライオン。6才のおニーさんなの。だから、リンくんの言いなりにはならないよ。
ならないよ。ならないってばぁ、ならないもん。
おでの抵抗をよそに、リンくんのギュッ攻撃がやってきた。
ギュッギュッ。ギュッギュッ。ボブぞ、だいすき。ギュッギュッ。
あ、うーん。。。
ここで断ったら、リンくん、悲しい顔するんだろうなって、わかった。わかっちゃったから、おで、あ、うーん。。。って何も言えなくなってしまった。
そんなこんなで、リンくんのお気に入りの芝生のベンチで、強烈すぎるひなたぼっこってわけだ。
市の放送が遠くに聞こえる。
・・・キンキュージタイセンゲンガ・・・
・・・キンキュージタイセンゲンガ・・・
カイジョされました・・・
カイジョされました・・・
ポーンペーンポーンペーン
そう。異常なくらいによく晴れた、おでの強くも繊細な美しい毛並みの肌を、焼け焦げさせようとせんばかりの太陽。そして、世の中がほんの少し緩やかに、ほんの少し笑顔を取り戻した週末。
おで、生きてる。
ふと、思ったの。
やったね。おで、なにはともあれ、生きてる。だし、リンくんが楽しそうに、ニーッってしてる。おでのこと、見つめてきて、ニヤニヤ、してる。
そうか、おで、リンくんのこと、笑顔にしてる。
リンくんに笑顔を与えられたから、ヨシとしよう。そうしよう。
気がついたら、鳩は鳴きやんでいた。不釣り合いに、秋の虫が、リーンリーン、リンリンリンリン、と鳴いた。
おぅい、リンリンリンリン、リンくん。おで、焼け焦げちゃう。多分、リンくんもめっちゃ日焼けしてるよ、しかも、カラダのみぎっかわだけ、黒焦げになるよ。10月にもなって、黒焦げになるなんて、変などうぶつだな。
そろそろ、ひなたぼっこは止めて、おうち、帰ろう?ね。
リンくんとのおデートは苦行だけど、おで、きっといいこと、したな。
ギュッ。
ボブぞ