ミツバツツジと真っ赤な手
白くてもやもやした幻想。まだ、夢心地なのかな?
小雨の山道を、ぐんぐん、ぐんぐんと、うなるモビスケでのぼっていく。
はなぞのの道の駅で目が覚めて。大粒の雨がモビスケの屋根をたたく音が激しくて。
おれは、ちょっとキンチョーしてる。
これから、三峯の神さまに会いに行くから。
去年から、コロナっちゃんとか、キンキュージタイセンゲンとか、いろんな制限があって、なかなか会いにこれてなかったの。だから、今回は、モビスケのお助けで、弾丸三峯さんお参りなのだ。
おれは、いつだって、神さまに会いに行く前は、トキトキしてる。
トキトキ。トキトキ。
キンチョーして、ついつい無口になってしまう。
それはね、神さまのおそばでパンパンってして、気をたくさん頂くからなの。その前に、おれは空っぽになっておきたい。まだまだカラダの小さなライオンだけど、小さいなりに、たくさんの気でカラダを満たしたいの。
だから。いまは、余計なことは考えず、余計な感情はなくして、心静かに、過ごしたい。
モビスケの外は、もやもやの白。雨は強くなったり、弱くなったり。
山道を登るごとに、いろいろな木々が花をつけている姿が見える。
わぁー、まだ桜!ソメイヨシノじゃなさそうだねえー。山桜かなあ。
わぁ、なんだろ、あのムラサキのお花?あざやかー!
ねぇねぇ。すごいいなかみちだねえ。いいねえ。のどかだねえ。
リンくんが、いちいち景色を眺めては騒いでる。ケンイツエンチョーは、運転に集中したいだろうに、隣のリンくんは朝からはしゃいでるもんだから、なんだか、がちゃがちゃした家だなぁって、つくづく思う。
おれは、これから、神さまに会うから、静かにしてたいのに。
スゥー。・・・。ふぅ・・・。気持ちを落ち着ける。
朝8時すぎ。駐車場に到着。
車はまばらで、空気はパキッと、涼しいどころか、寒い。ただ、こんなにも静かな三峯さんは初めてかもしれない。
何度も、何度も、ご挨拶に来てる場所。ボブ家にとって、とっても大切な場所。
三峯の神さまは、今朝はまた、特別な空気が漂わせてる。
三ツ鳥居の前で、一礼。オオカミさん、また、来たよ。
無事にお参りに来られたことに、まずはカンシャだね。
神聖な場所、ってこういうところをいうんだろう。カラダで感じないと、わからない、この感じ。目に映る景色は、ぼんやりと。まだ春を迎え切れていない山の上で、神さまはひっそりと静かに見守ってくれてる。
あ。雨、やんだ?
白い空を覆いかくす木々を見上げて。足元の砂利を踏みしめて。巨大な古碑が並ぶ参道を歩きすすむ。ところどころ、うすみどりのもさもさ。
春だからねえ。コケがいいねえ。もさもさだねえ。コケ、だいすき。いいなぁ。最高。
リンくんがまたはしゃいでる。
ねえ、静かにしよう。今朝は、いつも以上に、とっても静かなんだ。三峯の神さまが、おれらをお迎えしてくれてる気がするよ。だから、無駄にしゃべらないでよ。せめて、ひそひそな声で、お願い。
ハぁーい・・・。(ひそっ)
そう、心静かに。石段を登ろう。みぎ、ひだり、みぎ、ひだり。一歩ずつ。神さまのおそばに近づく。
さぁ。
・・・・・スゥーっ。
本殿の前で、ひとつ、深呼吸。
そして。
ペコっペコっ。パンっパンっ。
ジーーーーっ。
ペコっ。
フゥ。
いただいた気で、カラダをいっぱいにする。
空っぽだったオレ、いま、満タン。
ひとつ息をつくと。すっかり気持ちがいい。
いつも思うんだ。
神さまにお参りするって、見た目は一瞬のことなのだけれど。
ほんとうは一瞬じゃないって、思うんだ。
最後の鳥居をくぐり、ペコってするまで、ずっと。
ペコってしたあとも、ずっと。
ふふん。たーくさんの気をいただいて、すごく元気だ。
モビスケの待つ、駐車場にもどる。まだ、朝9時すぎ。
少しだけ人増えてきたねぇ。西武秩父からのバスが来る前に来られたから、よかったよね。
あ、今日はもやもやだから、山道でバスとすれ違うの、こわくね?バスくる前に、早く帰ろう。秩父湖、ぬけちゃおう。
おれらはそうやって、日常の会話にもどる。
さっきまで、おれの言いつけを守って、小声でひそひそしゃべってたリンくんも、またバタバタとしてる。
ふぎゃー。みてみて、みてみて。さっきのムラサキのお花、ここにもいっぱーい!
ねえ、ミツバツツジ、っていうんだって。へぇーへぇー。知らなかった、キレイだねえーーー。キレイだぁー。
あ。リンくん。手、真っ赤。
すっかり冷え切っちゃった。三峯さんの春本番は、まだこれからなんだね。
さぁ、モビスケで、おうち、帰ろう。
三峯さん、また来ます。
ボブ男