がびちゃんの秘密とくまくんの生い立ちと、それからそれから — ライオンボブ家、オトモダチに会いに海が見える町へゆく その2

細い曲がりくねった坂道を、赤い”ちょろQ”がぐるりと走る。

まだ5月の上旬だというのに、高台から望む海はまるで夏の様相を見せるかのように、鮮やかなブルーのグラデーションを塗り重ねている。
眩しいほどの日差しのもと、心地の良い風がふぅわりとおれの鼻先を通り過ぎゆく。
右手の林から聞こえるイソヒヨドリの高く澄んださえずりが耳に気持ち良い。

「今日はねぇ、富士山はちょぉっと見えないかなぁ・・・?あ、でもうっすらアタマだけ見えるね。ホラ!」

こーたろーさんの指差す方向に、おれは視線を向けた。

山並みにかかる白い雲の間に間に、富士山らしきアタマのカタチを探す。展望台のデッキの目の前に掲示してある古びた遠景図と照らし合わせると、確かにそれだとわかった。

富士山の頂上から真下、手前にある島は江の島だそうだ。鎌倉の海が目の前にキラキラと輝いている。

眼下には、披露山住宅と呼ばれるセレブリティなお方たちの住まう別荘地が広がり、その先、海岸線沿いに立ち並ぶのがかの有名な逗子マリーナだ。

頭上を見上げると、トンビが一羽優雅に羽根を伸ばして旋回していた。

・・・こうやって、今、写真を見返しながら、おれはあの日のことを思い出している。

毎日イチニチイチニチを一生懸命楽しく生きていると、ほんとうに日が経つのは早い。

あれから、もう4ヶ月弱が過ぎようとしている。

8月下旬。暦の季節はもう秋で、でも連日35℃を超えるという酷暑の夏日が続いていて、そうそう、今年の高校野球ももう終わってしまった。

沖縄尚学が優勝して、にわかに盛り上がる中、残念ながら、くまくんたちが暮らすカナガーワ代表の超強豪校、横浜高校はベスト8止まりだった。(なんならチーバ代表の市船は一回戦敗退だったけれど。)

「ねぇ、みんな何してるかなぁ?」

おれは、リンくんに聞いてみる。

「ン?みんなって?」

「くまくんやがびちゃんたちのことさぁ。」

「あー、そうだねぇ。こーたろーさんとは時々LINEしてるよ。9月以降涼しくなった頃、会おうよって話してる。」

「なんだー連絡取ってたのか!ニンゲンはいいなぁ!おれもLINEしよっかなぁ。」

「そうだよ、くまくん、LINEできるんだから、送ってみればいいじゃん?」

くまくん、というのはリンくんのニンゲンのオトモダチ、こーたろーさんちで暮らすクマさんのことだ。くまくんのおうちにはくまくんよりも先輩の家族ぬい(ぬいぐるみ)がたくさんいて、最年長の”がびちゃん”をはじめ、愛され毛玉の”トリート”くん、それからくたくたの”ちょろぴー”、品行方正優等生な”ぴ~ちゃん”・・・!とまぁ個性豊かなメンバーがいる。

これは、5月のGWが明けた日に、海の見える街で暮らす、くまくんたちに会いに行ったときのお話の続きだよ。

(その1はコチラ「くまくん!くまくん!くまくんくん! — ライオンボブ家、オトモダチに会いに海が見える町へゆく その1」

まずは逗子エリアを”ちょろQ”ドライブ!

待ち合わせはJR逗子駅に朝10時。そこから、おれら(おれボブお、妹のボブこ、弟のボブぞ、それからニンゲンのリンくんだ)はこーたろーさんのお迎えの愛車”ちょろQ”に乗り込んで、こーたろーさんオススメのスポットへドライブに連れて行ってもらった。

後部座席には、くまくん、がびちゃん、トリートくん、ぴ~ちゃん、ちょろぴーが勢揃いで待っていてくれて、おれらを車内からもてなして大歓迎してくれた。

鎌倉・葉山の海を一望できる披露山公。富士山撮りにはうってつけの公園なんだそうだ。それから、かの有名な超高級宅地の披露山住宅エリアをするるーっと通過しつつ丘を下り、逗子マリーナへ。

「あ!逗子マリーナといえばねぇ、あのねぇ、うちのリンくん、前にね、万年筆の書写で、『逗子マリーナ』って練習してたんだよ。」

おれ、ホントは話してやろうかと思ってたんだ。でもね、なんだかまだくまくんたちに会ってから1時間ちょっとしか経ってなくて、あ、どうやってお話しようかなって迷っちゃって、切り出すタイミングがなくって言えなかった。今だったらなんでもすぐ口に出しちゃうのにね。

(ちなみにここで補足しておくと、憧れの「逗子マリーナ」って字をカッコよく書けるようになったら=住所を上手に書けるようになったら、いつか住めるかもしれない、だなんてふざけて言ってたの。うちのリンくん、変なやつだよね。)

丘の上から眺める海はいいけれど、テトラポット越しの海もいい。見上げればまるで南国風情のヤシの木。潮風を浴びながら、右手のアッチは材木座海岸だよ、と教わる。コンクリートで固められた足元には青々としたオオバコが生えていた。

“テトラポット越しの海”
“南国風情のヤシの木”
“アッチは材木座海岸だって”

目に入るそんなものひとつひとつを愛でながら、おれらは少しずつ少しずつ距離を縮めていったんだ。

“オオバコずもうの話したよ”

そう。一分、一秒、この瞬間が、おれらをとても親密にさせていく。ずっと会いたかったキモチが爆発して、一方的に押し付けないように。

「でへっ!ニィーちゃーん!おで、トリートくんと仲良くなったの!」

“トリートくんに乗っかられるボブぞ。うれしくてしょうがない!”

弟のボブぞがハイテンションではしゃいでいる。トリートくんとは、セキグチさん(「ぬいぐるみのセキグチ」というぬいぐるみ会社)出身のワンちゃんだそうで、こーたろーさんご家族にとても縁の深いコだそうだ。そのトリートくんと早速じゃれ合うボブぞの姿を見て、おれはホッとひと安心した。

「ボブぞ、良かったなぁ!」

“みんなで海を眺めるよ”

おれらはアッチコッチで記念撮影をしたり、それからファミレスでうまい昼メシを食ったりした。ニンゲンたちは、”チョロQ”の車中でも、お店の中でも、歩きながらでも、その間ずぅっと、ずぅっと、おしゃべりをし続けている。

“ファミレスで桜えびおこわの御膳をいただく”
“アッチもコッチも写真撮っては食べてしゃべってる”

がびちゃんの秘密

「え?なになに?がびちゃんって・・・えー!なんと!アラフィフなの?」

「そーそー!しぃかぁもぉー、ホラ・・・本来スヌにはかならずある背中の黒い模様がね・・・?ちょっと目つきも違うしぃ・・・?」

「うわぁ、ホントだぁ!よく見たら・・・スヌじゃない!あっははは!それは知らなかったなぁ。ずっとスヌーピーだと思ってた。」

“おれとボブこに挟まれてる真ん中にいるのがウワサのがびちゃん!”

「でねぇ、名前の由来は、ガビガビだから、がびちゃん。おかしいでしょぉ?」

「がびちゃーん!そっかぁ。こーたろーさんに愛されてるねぇ。」

ウンウン。
ウンウン。

こーたろーおばさんとリンおばさん、ニンゲンたちの楽しそうな笑い声が響き渡る。

ガビガビのがびちゃんは秘密をバラされてもなお、目尻を下げて笑っている。いつだって、こーたろーさんに寄り添って、ドコへお出かけするにもついてきてくれるらしいよ。楽しい場所はもちろん、病院への付き添いだって一緒なんだってさ。

ガビガビのがびちゃん。あどけない表情(カオ)した50才。
かなぁり、スヌ寄りのイヌではあるが、スヌではないイヌ。 

ふふっ・・・!

正統派スヌのぴ~ちゃんやくたくたちょろぴーくんよりもカラダは小さいけれど・・・うーん!よく見ると、貫禄はナンバーワンだね!

“よく見ると、たしかにがびがびしてる・・・?あと、お耳にもお傷が”

くまくんのエスコート

「さ。着いたぁ。ココです。どぞどぞ!」

こーたろーさんはプスンと”ちょろQ”のエンジンを切ると、なにやらファイルを取り出して書き書きしている。
すかさずリンくんが突っ込みを入れる。

「へ?なんですか?その、ひと昔前のタクシー運ちゃんみたいなやつ?」

「あはっ!あのねーぇこーいうの書いとくといいのよ、あそこ行ったの、いつだっけ?とかねー。あとから見て、思い出せるでしょ。」

いわゆる乗車記録ってやつだ。こーたろーさんってば、やっぱり面白いニンゲンだ。ズボラなリンくんと大違い。

「あー!こーたろーさん、Twitterでも、いつ扇風機出しただとかガスファンヒーターしまったとか、毎年の記録上げてるもんねー。」

今日のこの日のことをくまくんとLINEでやり取りして、約束をしていたとおり、くまくんたちが暮らすおうちへお招きに預かったのだ。

「ハイ、キミはねぇ、こうやって、こうね。んで、はい!カラフルライオンちゃん御一行様、我が家へごあんなーいってして!」

くまくん、さっきまでおとなしく座っていたちょろQの後部座席から出てきたと思ったら、こーたろーさんに首根っこをガシッと抱えられて、両の脚をぶらんぶらんとさせながら、エントランスへ向かっていった。

“両の脚をぶらんぶらんとさせながら、エントランスへ向かうくまくん”

「お・・・おー。我が家へ、ごあんなーい!」

アハッ!!!くまくん、ちょっと首、苦しそう?

「う・・・おばさんってばねぇ、おれのこと、いっつもこうやるんだぜ。」

くまくんのエスコートについていくべく後ろから見るふたりの姿は、一見するとくまくんがこーたろーさんに抱えられてるように見えるけれど、実のところ、くまくんがこーたろーさんに寄り添いながら、背中をそっと押しているようにも見えるのだった。

「うん、いいね。くまくん、いいよ。とっても、いい。」

「ふふん、だろ?」

くまくんの生い立ち

くまくんたちのおうちに招かれると、おれらはさっそく人目をはばからずクンクンと匂いを確かめあった。

「いらっしゃーい!」

“くまくん!くまくん!くまくんくん!いつだっておクチ開けて笑ってる”

「改めましてー!やっぱりお外じゃぁこうはいかないよね!」

きゃっきゃきゃっきゃとはしゃぎまわる。

「ココ、おれのおうち。あ、そんでねぇ、ココがいつもの寝床!」

「あぁー!写真でいっつも見てたよー!ココかぁ!アハッ!」

“クンクン・・・クンクン・・・”
“うわぁい!くまくーぅん!”

今日の待ち合わせは午前10時。それから、いま、午後2時半。かれこれ4時間半が経過したけれど、ニンゲンたちのおしゃべりはやむことを知らない。

「あ。そうそう。今さ、くまくん、『ココ、おれのおうち。』って言ったでしょ?じぃつぅはー・・・。」

「え?もしかして違うの?」

「そ!そうなの!くまくん、実はね、ご近所の別のおうちのコだったの。もう来てから10年になるんだけどね。あ、永遠の2歳だけどさ!」

あれはねぇ・・・と、こーたろーさんがくまくんの生い立ちについて話し始める。

それをうちのリンくんは、その話をへぇとかほぉ!とか言いながら受け止める。

オトモダチとはじめましてのときは、大概そういう話になるけれど・・・、おれらが横で聞くに、くまくんのそれは、愛と友情と・・・それから毛糸玉で満たされていた。

愛と友情と・・・ン?毛糸玉?!毛糸玉って、あの、毛糸をぐるぐるしたやつ?

「アハッ!そうね。くまくんのおかあさんは、編み物仲間なの。」

「どおりで、くまくんたち、冬になるとセーター編んでもらったりしてたんだね。」

「そうそう。そんなこんなでねぇ、くまくん、うちにいついちゃったってわけ。」

あいかわらず大きなおクチをぼんやりと開けて座っているくまくん。

「おばさーん、おれのはなしは、もう、そんなにしなくってもいいぜ?つぎはさ、カラフルライオンちゃんたちのはなしをきこうよ。」

「そうよ!ボブおちゃん、ボブこちゃん、ボブぞちゃんのおはなし聞かせてちょうだい。」

“「次はカラフルライオンちゃんたちがおはなしをする番だよ」”

それから、リンくんは、おれらの話をし始めた。キリのない、長い、オチもないおはなし。

こーたろーさんとリンくんは、そうやって、部屋の中がほの暗くなってくるまで、ひたすらおしゃべりを続けていた。

おれたちオハナ(ぬいぐるみ家族)には、それぞれの家の、それぞれのおはなしが、あるんだ。

必ず、そこにはニンゲンがいて、そして、コトバがある。コトバを介して、コトバを共にして、おれらのフワフワでモフモフの体躯は、ニンゲンのココロをあったかく、柔らかいものにしていく。

「それって、おれらはニンゲンのなにかで満たされていくってこと。」

くまくんの場合は、それが、愛と友情と・・・毛糸玉だったってことだ。

おれの場合は・・・なんだろうな?

「あ、そうか。コトバだ。」

そうだった。おれは小さなライオンのカタチをした、コトバのかたまりだ。リンくんから生み出された、とめどないコトバのかたまり。
それを操って、おれ、いま目の前にいるくまくんたちと、会話をすることができている。くまくんたちと、通じ合うことが、できてるんだ。

お帰りのお時間です

「くまくぅーん!また、会えるよね?」

「うん、またうちにきてよ。いつでもまってるぜ。」

夕方6時。おれらは改めて記念の集合写真を撮り、今日の出会いと、それから、濃厚で充実した時間に感謝した。

“全員キメ顔!このまま雑誌の表紙にでも、する?”

「くまくん、今度はさ、うちのもっつにも会ってくれる?くまくんと同じくらい大きなツキノワグマなの。」

「うわぁ!それはあってみたいな。やくそくね。」

「うん。やくそく。」

ばいばーい!まったねー!、と大きく手を振るくまくんに見送られながら、おれらはおうちを後にした。

“くまくんちの近くで咲いていた自生のシランの花。忘れない。”

バイバーイ!と思いきや・・・?

最寄りの駅まで徒歩で一緒に見送ってくれるというこーたろーさんとリンくんは、歩きながらなにやらゴニョゴニョと相談をしていた。

「んじゃー明日はどーしよっかぁ?何時にする?あ、じゃあ、場所は横浜駅の西口交番ならどーぉ?」

ン?!明日???

ほう!このニンゲンたち、今日イチニチでは飽き足らず、明日も一緒に遊びに行くらしいぞ!

「えーと、ホテルチェックアウトしてから、んじゃぁ、交番前で待ち合わせで!」

今夜は横浜駅近くのビジネスホテルにお泊まりするおれら。明日は特に予定もなくチーバへ帰るだけなのかと思いきや・・・なんと!もうイチニチ遊ぶんだって!

やっほーい!

「カラフルライオンちゃんたち、また明日ねぇー!がびちゃん連れてくから、一緒に遊んでねー!」

「お・・・おぉー!ハーイ!んじゃ、また明日!」

改札口まで見送ってもらうと、会社帰りのこーたろーさんちの”おねえさん”とバッタリお会いすることもできた。

最後の最後まで、おれらはめいっぱいにこの今日イチニチの時間を満喫したのだった。

赤い電車がやってくる。赤い電車に乗り込む。

リンくんがひざに抱える大きなトートバッグのなかで、おれはまだ、ぼんやりと、夢見心地だ。

リンくんは、ふはぁ・・・とひと息をついてグビリと麦茶をひとくちやる。

満足げな表情を浮かべつつも、急に話し相手がいなくなったことで手持ち無沙汰になったのか、トートバッグの外側から、おれたちの感触を確かめるかのようにするするとさすってきた。

「ボブお・・・ボブこ・・・ボブぞ・・・3人とも、良かったね。」と、そう言っているような気がした。

赤い電車の揺れは、とても心地が良かった。

ココロが満たされた高揚感とは裏腹に、麻痺してしまった疲労感を引きずりながら、おれらは仕事帰りのニンゲンで溢れかえる横浜駅で下車したのだった。

(その3につづく)

ボブお

▼おまけ▼

おやつにフルンフルンの抹茶ムースいただいた!うまい!

↓コレを使ってるらしい!うまかったぁー!↓
富澤商店 富澤寒天 ムースの素(抹茶)
https://tomiz.com/item/01142500

あと、おみやでいただいた、「ありあけのハーバー」と「ほっそり細そば」もおいしくいただきました

「どぉれーにぃしぃよぉーかな?」
https://bobingreen.com/2025/05/13/13707/

ありあけ 横濱ハーバー
https://harbour-world.jp/

「ほっそり細そば!うまぁい!」
https://bobingreen.com/2025/05/25/13842/

卯月製麺 ほっそり細そば
https://uzuki-shop.jp/main.php?cc=hoso&srsltid=AfmBOorcwXX7UP5Sa1AoLsdVRJqanXOGBmavbh-w0lP8KWenVwaBGwoT

▼三部作の第1話はコチラ

「くまくん!くまくん!くまくんくん! — ライオンボブ家、オトモダチに会いに海が見える町へゆく その1」
https://bobingreen.com/2025/06/20/14377/

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Rin(リン)

ぬいぐるみブロガー、Rin(リン)です。 ライオンのボブ家と愉快な仲間たち、そしてニンゲンのケンイツ園長と一緒に、みどりキャンプ場で暮らしています。 ボブ家の日常を、彼らの視点でつづっていきます。

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