絵描きパブロヲ、憧れの柴崎春通先生に会う

おっす!オラ、パブロヲ!
オラ、ハシビロコウだから、普段はジィーっと大人しくちょっとやそっとのことじゃぁ動じない・・・文字通り、動かない鳥として知られているんだけれどね。
今日はもうソワソワして、居ても立ってもいられないの!
だって・・・だって・・・
だってね。
「オラの憧れの、あの柴崎春通先生に会えるのだから!」
オラが柴崎春通先生のことを知ったのは、とあるテレビ番組のことだった。
柴崎先生は、その番組の講師を務めていた画家さんだ。
真っ白なシルバーヘアと口ひげ、ボタンダウンのシャツにジーンズ姿でイーゼルの前にシャンと座る。眼鏡の奥には優しい表情をたたえ、ハキハキとした口調と通りの良い声質とで、楽しくテンポよく、絵の描き方を教えてくれた。
オラ、今年の4月(2025年4月)から3ヶ月間、毎週水曜日、全12回の放送を楽しみにしていたの。課題に沿って、アクリル絵の具でキャンバスを自分なりに彩り、なによりも、自由に絵を描くことを楽しむ・・・、柴崎先生は、そんなシンプルで大事なことを教えてくれたんだ。
「ね?リンくん?」
今、オラの横にはリンくんがいる。
実際に「絵を描く」チャレンジをしているのは、うちのリン画伯——画伯というのはおこがましいが、一応そういうことにしている——である。
リンくんははっきり言って絵に関してはド素人だ。本人曰く、小中学校の図工・美術の時間に描いても特段評価はされなかったし、オトモダチとの交換ノートにイラストを描いてみても、あくまでそれは漫画の真似事で、人より秀でて上手に描けたわけではなかったらしい。
それがそのままオトナになって、現在。ときどき、オラたちオハナ(注: 家族。ぬいぐるみのことを我が家ではオハナと呼んでいる)の絵を描いてくれる。まぁ人に見せるもんでもないし、ちょっと描いてみるかな、みたいなキモチで、気が向くと、描いてくれるくらいのもんだ。
そんなリンくんが、この番組を観て、ホントに課題を全部描く、と言い出した。
詳細は過去ブログに譲るが、アクリル絵の具や道具を用意して、柴崎先生の出す課題に沿って、悪戦苦闘しながら、番組が終了した今でも絵の練習を続けている。
「そうだよーパブロヲ。うん。絵を描く楽しさを教えてくれた柴崎先生に会えるんだって、とっても嬉しいねぇ。」
会場は西新宿
ココはトーキョー、西新宿。
むかぁし、リンくんはこの街でシンニューシャイン(新入社員)ってヤツだったらしいよ。懐かしい街に久しぶりに降り立ってみると、どうやら景色が大きく変わっていたらしい。
「ふはっ・・・!え!東京医大、こんな新しいビルになっちゃったの!」
うわぁぁと口をあんぐりと開けて空を見上げる姿は、まぁまるで都会に初めて出てきた者だ。
「えーっと、会場はヒルトピアね。ヒルトンまでの道なら任せて。土地勘あるから。」
ちょっと偉そうなリンくん。
だけれど、今日の身なりは、上は白Tシャツ、下はまるでパジャマのような綿素材の赤を基調としたストライプのパンツで、足元は紺のキャンバススニーカー。アタマは刈り上げが少し伸びてきたツーブロックに、耳元にはイヤーカフがぶら下がっている。じっとりと汗をかいた背中にはワークマンのリュックを背負って、ハシビロコウのオラが、サインをもらおうと持参した柴崎先生の番組テキストと一緒に、その中にこっそりとおさまっている。
シンニューシャイン時代にはこの同じ西新宿の街を、黒いリクルートスーツに真っ白いブラウス、ストッキングに黒いヒール靴、長い髪の毛をゴムでひっつめて、革のカバンには大量に書類を詰めて歩いていたらしい。その頃のリンくんにすれば、まさか自分が中年になって会社員でもなく安定した職もなく、こうなっているとは・・・と、想像もつかない変貌ぶりだろう。
予約時間の昼の12時までは、あと15分くらいある。
西新宿にあるホテル「ヒルトン東京」の地下街にあるヒルトピアアートスクエアで、柴崎春通先生の個展は開かれている。時間指定の事前申し込み制になっているのだけれど、会場に到着すると、すでに30人くらいの待ち列ができていた。

前の回のお客さんとは完全入れ替え制らしく、出入り口の反対通路にはチラリホラリと帰途につく人の姿も見える。申し込み済みであることを確認するQRコードを係員さんに見せて、オラたちも入場列の最後尾についた。


「フーン、さすがに・・・ハシビロコウは・・・っていうか、鳥はオラだけか?」
老若男女のニンゲンたちがワクワクした面持ちで開場を待っている。夏休みということもありちびっこ連れのファミリーもいれば、シニアカップル、ぱっと見、多いのは女性のひとり客かな?
お?「ShibARTS」と印刷されたTシャツを着ている女性を発見。熱烈ファンっぽい姿。おぉ!先生も番組内でかぶっていた「Watercolor by Shibasaki」のキャップを身に着けている人まで!
なんだか思っていた以上に熱量の多さを感じることになり、オラ、ちょっと気が引けてきたぞ?
そうか・・・オラはNHKの番組で初めて柴崎先生のことを知ったレベルの新参者だけれど、おじいちゃん先生YouTuberとしてもともと有名なんだもんね・・・。ちょっと肩身の狭さを感じてしまった。
夢のような30分間
12時ちょうど、時間通りに開場。
係員の方に誘導されて、会場内へ入る。ゾロゾロと奥へと進むと、そこには生身の柴崎春通先生がいらっしゃった。
「最初に、ご来場の皆様へ先生からひとことご挨拶がございますので、どうぞ奥の部屋へ。」
えー!そういうスタイル!アーティストの個展というものには過去何度も足を運んだことはあるけれど、入れ替え制でしかも冒頭にみんなへ挨拶があるというスタイルは初めてだ。
「みなさん、こんにちはー!」
(こんにちはー!)
うわぁ!先生の第一声、その姿も声も、表情も、テレビで見ていた柴崎先生そのまんまだった。そして会場に集まったお客さんたちも一斉に返事を返す。
先生からは個展開催の謝意と、展示室の案内、それからグッズ販売の宣伝もあった。画集を始め、先生が描いた絵がデザインされた扇子のほか、アクスタ(先生の全身写真をかたどったアクリルスタンド)や肩乗りのぬい(なんと!先生のぬいぐるみが売っていた!)まで。ホント、まるで推し活グッズだ。
それから、係員さんからはサイン及び先生とのツーショットはNG、展示作品の写真撮影もNGとのご案内があった。
「あぁ。。。サインはダメだったかぁー。オラ、『パブロヲくんへ』ってテキストに書いてもらおうと思って、ペンまで持ってきたんだけどな・・・。」
ただし、今このアナウンスをしている間だけは先生の写真を撮っていい、ということだったので、まるでプレス発表会の撮影タイムのように、先生がポーズを取りお客さんたちがスマホを一斉に向ける、といった時間が設けられた。
カシャッ・・・!
「リンくーん、撮れた?」
オラはまだリンくんのリュックのなかにいる。
「うん。先生のお姿、おさめさせていただきましたよ。」

さぁアナウンスが終わって、いざ展示を・・・!
「待って。先にお買い物するから。」
そう言って、リンくんは真っ先に販売コーナーへ立ち寄った。
「空いてるうちにね。美術館とか博物館とかもそうだけど、帰りってお土産コーナー混むでしょ?わ!あと25分しかない。」
そう。完全入れ替え制、しかも、トータルで30分しかないのだ。展示室は2つあって、70以上もの作品が並べられているそうだ。
「こりゃあ駆け足だ!オラ、普段は動かない鳥だけど、この30分だけはスタスタ動く鳥になるぞ。」
「アハッ!大丈夫、パブロヲはわたしが抱っこしてあげるから。」
そうしてオラはリンくんに抱かれながら、先生の作品をひとつひとつ・・・丁寧に見たいところだけれど全然時間が足りないので、スッ・・・スッ・・・とテンポよく眺めていったのだった。
「わ!やったー!NHKの課題の原画もあるよ!」
そう、リンくんが一生懸命取り組んだ、番組の課題。その中で先生が描いたお手本が、目の前に並んでいた。
「あぁ・・・リンゴ!それから樹木。ワンちゃんに、めっちゃくちゃ苦労した目の高さが大事な街並み!それから、あ!テキストにはなかった山之内すずちゃんの人物画。わー、最後の秋の線路の絵まであるよ!」
オラはリンくんと一緒に、番組の全12回のひとつひとつのポイントを思い出しながら、この12枚を、時間をかけて、じっくりと目に焼き付けた。
ぐるりぐるりと会場を回っていても気になってしまうのが先生の姿。ハテ、いま先生はどちらにいらっしゃるのだろう?と探してしまう。
「先生と・・・話したい・・・でも何を話そう・・・。」
こういうイザという時に人見知りを発揮するのがうちのリンくんだ。
「えいや、で行っちまいな!」
オラがそうアドバイスしても、ゴニョゴニョと言い訳をしている。
「うーん、ホラ、いまちびっことお話してるから邪魔できないし・・・。」とか「あぁ、今ShibARTS Tシャツ着た熱烈ファンっぽいひとが行っちゃった。」とか。
そんなこんなで展示されている作品をすべて見終えたところで、時計の針は12時25分を指していた。退場まで、否応なしに残り5分だ。
意外にも・・・というかみんなお行儀が良い・・・というのか、グッズコーナーに人が集まっている以外には展示室からはお客さんがかなり退去していた。先生の周りには往生際の悪いリンくんを含めて、3-4組だけだ。
「んもー、心残りしたくないから、ギリギリまで待ってみる!」
ヨシ、リンくん、よくぞ決心した!オラたちは他のお客さんと談笑をしている先生から、3mくらい離れたところで展示を眺めつつ、お話が途切れるのを待った。
すぅっ・・・とその場に一瞬、空気が緩んだ。
そのとき。
「せ・・・先生、ひとことだけ。」
「ハイ、どうぞ!」
満面の笑みでカラダごとこちらに向き合ってくれる柴崎先生。
「NHKの番組、楽しく拝見しました。それから、全部の課題、描きました。ありがとうございました。」
「そうですか!それは、よく頑張りましたね。これからも絵を楽しみましょうね。
今日は暑い中来てくださって、ありがとうございました。」
おおおおお!
おおおおお!
リンくん、よくやった!先生に話しかけられた!
そして先生はそう言い終えると、スッと手を差し出して、握手を求めてくれたのだ。
・・・ン?誰に?
もちろん、オラ、パブロヲにね!
オラは差し出された先生の右手に、右の羽根・・・いや、実は右足をニュウっと差し出し先生の手をギュゥっと握り返した。
先生が絵筆を持つ右手、そして、オラが絵筆を持つ右足。そのふたつが重なり合った。画家同士、通じ会えた瞬間だった。
先生の手は全然大きくなくて、柔らかなぬくもりに溢れていた。
握手!握手!わー握手!
オラ、胸いっぱい!
その後、すぐにタイムアップ。係員さんに誘導され、残り数組となっていたオラたちは会場をあとにした。
ヒルトピアアートスクエアの出入口には、オラたちがしたのと同じように、数十人のニンゲンたちが並んでいた。次の回は12時30分~だ。柴崎先生の絵を見たさに、そして先生に会いたさに、興奮を抑えつつもみんながその時を待ちわびているのがわかった。
オラとリンくんにとっての、夢のような30分間は、あっという間に過ぎた。
良かった。ホント、来られて良かった!!!
これからもお絵描きを自由に楽しみます
「パブロヲー!柴崎先生の手!大きくなくてホンワカしとった。あのまんまのおじーちゃんだったよ。」
帰り道、西新宿駅へ向かう蒸し暑い地下道のなかで、リンくんは声を弾ませながらオラに向かってそう言った。
アレ・・・?先生と握手したの、オラじゃなかったの?もしかして、ホントに夢だったのかなーぁ?
ふと、リンくんの右手に目をやると、”Watercolor by Shibasaki”と白い字が印字された青いバッグを下げている。中には柴崎春通先生の最新画集が入っているそうだ。ハテ、あの青いバッグは5,000円以上お買い上げの方への特典だったはず・・・?
「へへっ・・・まさか画集一冊で5,800円もするとは思ってなかったよー!まーでも、いいんだ。先生に会えたし!」
ま、オラはいろいろ言いたいことはあったけれど、あまりに気分がいいから、気にしないことにした。
あー楽しかった!
感激!感謝!です。
柴崎春通先生、どうもありがとうございました!
オラ、先生の優しい手と、「よく頑張りましたね」のひとことを励みに、これからも我が家のゲージュツガクブ(芸術学部)部長、がんばります。
それから、リンくんと一緒に、これからもお絵描きを自由に楽しもうと思います。
ね?リンくん!
パブロヲ

柴崎春通 絵画展2025(東京、新宿)
開催期間:2025年7月31日(木)〜8月5日(火)
午前の部10:30〜13:00 午後の部14:00〜18:30(初日は11:00から、最終日は15:00まで)
開催地:ヒルトピア アートスクエア https://www.hilartsq.com/
https://peatix.com/event/4441530?lang=ja-jp

▼3か月でマスターする 絵を描く Eテレ 番組ホームページ▼
https://www.nhk.jp/p/3months-ewokaku/ts/XK15MY1YJG/
▼テキストはコチラ▼
▼番組で講師を務めていた 柴崎春道 先生 公式ホームページ▼
https://www.watercolorbyshibasaki.com
▼リンくん「絵を描く」!アーカイブはコチラ▼
「リンくん『絵を描く』!(第1回 & 第2回)」
https://bobingreen.com/2025/04/28/13524/
「リンくん『絵を描く』!(第3回)」
https://bobingreen.com/2025/05/12/13675/
「リンくん『絵を描く』!(第4回 & 第5回)」
https://bobingreen.com/2025/06/13/14188/
「リンくん『絵を描く』!(第6回)」
https://bobingreen.com/2025/06/17/14302/
「リンくん『絵を描く』!第7回 — “ウモー”と”イッキュー”」
https://bobingreen.com/2025/07/08/14709/
「リンくん『絵を描く』! 第8回 — “Ctrl+Z”のない世界」
https://bobingreen.com/2025/07/29/15261/
▼パブロヲの名前の由来のお話はコチラ▼
「命名パブロヲ – 『コート・ダジュール』に憧れて」
https://bobingreen.com/2024/02/22/8316/