強運アザラシ フク、ダイヤモンド富士を拝む

(じゅう!きゅう!はち!なな!・・・)

会場内ではカウントダウンが始まった。マイクを手に持ったおネーさんが高い透き通った声で、西の空に向かって叫んでいる。

こんにちわーに!
アザラシのフクこと、鰒太郎(ふくたろう)だよ。

(・・・ご!よん!さん!にぃ!いち!)

「ふぁぁぁぁ!見えたー!見えたー!見えてる!見えてるよー!ねぇねぇリンくん、見えてるねー!」

わたしはリンくんが小脇に抱えるうすっぺらいエコバッグのなかからそぉっと顔を出して、その紅色の光の方に顔を向けた。

わたしの真横では、カメラのシャッター音が鳴り響いている。

カシャッカシャッ・・・カシャッ・・・

リンくんは巨大な望遠レンズを左手で支えて一心不乱に押しまくっていて、わたしの呼びかけに応じる気はないらしい。

午後5時11分。

歓声に沸く商業ビルの屋上で、わたしは200人超と思われる老若男女のニンゲンたちに混じって、ただひとりのアザラシとして、この目でダイヤモンド富士を拝んだ。

「キレーだなぁ。」

わたしの真っ白い毛までをオレンジ色に染めてゆくバレンタインデーの夕日は、100km以上も先にある、富士山のてっぺんに沈むのだそうだ。

毎年2月14日のバレンタインデーに開催される、チーバ県(千葉県)八千代市のイベント、「ダイヤモンド富士でバレンタイン」
「ユアッエルッムー!♪」のラジオCMでおなじみの(チーバのラジオ局BAYFMベイエフエムのリスナーしかわからないよね・・・)商業施設、八千代台ユアエルムの屋上からは、一年のうち、2月と10月の、それぞれ数日間だけ、ダイヤモンド富士を見られるチャンスがあるんだって。

“イベント参加特典でエコバッグやら雑貨やら。八千代市特産のバラのサッシェももらったよ”
“スカイツリーもうっすらと”

MCのおネーさんによれば、イベント自体は今年(2025年)が開催5年目で、バレンタインデー当日に実際に見られたのは今回が初めてだったらしい。
八千代市の頭上はずっと快晴なのに、今日の西の空は朝からほんのついさっきまで曇っていて、富士山の稜線を見ることはできなかったんだけれど、夕日が沈む午後5時過ぎになって、奇跡的に、富士山上空の雲はどいてくれたみたいなの。

「わーぉ!すごい!5度目の正直だってー。なかなか珍しいものなんだね。」

リンくんに向かってもう一度話しかけてみたけれど、まだ無視を決め込んでいやがる。でっかいレンズをおろしたかと思ったら、今度はスマホでカシャカシャと周囲の様子を撮影して、ダイヤモンド富士を見られたコーフンをおさめているようだ。

ホントはオハナ(家族)のみんなと一緒に見たかった。ライオンのボブおやボブぞオヤビン、ボコちゃん、それにウサギのすずちゃんやハンペン、みーんなと見たかったな。でも、リンくんがでかいカメラをリュックに入れたものだから、他のみんなが入るスペースがなくって、協議の結果、わたしがオハナ代表として連れてきてもらったのだ。

「そうだ、しっかり目に焼き付けなくちゃ!おうちに帰ったら、みんなにホーコクするんだもん、フク、そのお役目、ちゃんと果たさなくちゃ!」そうココロに決めた。それから・・・ちゃんと見られたよって証拠写真もね。

そろそろ落ち着いたかな?と思ってリンくんのほうをチラと見上げて、三度目、話しかけてみた。

「んもー!リンくん、フクのことも撮ってよー!せっかく一緒に来たんだもん!」

「ねーねー、フク。思ってたよりもダイヤモンドの瞬間って一瞬だったねぇ!数秒、刻一刻と夕日は動いちゃう。いやぁ・・・一応写すことはできたと思うんだけど・・・んー、露出がベストだったかどうか・・・自信ないやぁ。ううぅ。」

「いいから、いいから!まだ富士山見えてるうちに一緒に撮ってよお!」

「あぁ・・・フク、ごめんごめん。そうだよね。一緒に見られて良かったね。」

「うーん、一緒に見たっていうか、リンくんは写真撮るのに一生懸命だったから、フクが代わりにありがたいダイヤモンド富士、拝んでおいたからね。」

「そっか。アリガトねぇ!フクは持ってるアザラシだね!」

リンくんはそう言うと、自分の左腕に力こぶを作って、ポンポンとそれを右手ではたいた。

わたしも嬉しくなって、お返しにとリンくんに力こぶを作ってみせてみた。・・・あ、いや、えーっと・・・、わたしには腕はないから、気持ちだけだけど。ね?

ポンポン。

「エッヘン!なにせ、フクは強運のアザラシだもんねー!持ってるアザラシと呼んでくれたへ。」

「なーに!得意げな顔しちゃって。カワイイぞ!この!この!」

リンくんはそう言うと、わたしのまんまるまぁるいカラダを両手でゴシゴシゴシゴシとなでまわしてきた。

えへへへへ。

改めて遠景で見てみると、富士山はホントに遠くなのに、こんなところからでも見られるんだなぁと驚く。例えばさ、トーキョー都内の30数階建てのタワマン、とかからなら、多少なりともわかる気がするよ?でも、ココはチーバの八千代市、しかもたった8階建ての商業ビルの屋上なんだもの。びっくりしちゃうよね。

夕日はすっかり富士山の向こう側に沈み、うっすらと山の稜線を浮かび上がらせている。200名以上とも言われた観客たちは、順次エレベーターや階段の方向に去っていった。

そこで手を振り続けている、ブルーグリーン色に染まったまぁるいカワイイ子がいた。わたしたちにはおなじみ、八千代市のイメージキャラクターの”やっち”だ。猫さんのような耳を持ち、ふくろうにも似た鳥さんのようなくちばしと背中には羽根も生えている「鳥でも猫でもない新種のいきもの」なんだ。

イベント中のやっちは、ちびっこ連れのご家族に囲まれて写真撮影待ちの行列をなしていた。夕日が西の空に沈み、半数以上のお客さんが帰ってしまった今もなお、会場に残ってお見送りをしてくれるやっちはとってもサービス精神旺盛で健気なの。

“やっちの後ろにいるのは八千代市初のアイドル「Bluegreen」のYUIちゃん”

「あのぉ。やっち、写真いいですか?あと、このコを抱っこしてもらってもいいですか?」

リンくんが、やっちの隣にいるアシスタントのおネーさんに声をかけると、わたしとやっちとのツーショット写真を撮りたいとお願いをしてくれた。

「ハイ!えーっと、やっち、抱っこできるかしら・・・?」

そぉっとリンくんが手を添えながら、わたしのことをやっちに手渡そうとするのだけれど。

むんぎゅ・・・

「アッ!あぶない!」

やっちは大きなまぁるいおなかのせいで、両手は使えないらしく(それはわたしの両手と同じだからちょっと親近感はわくのだけれど)、右の手でもって、はんぐぅっ!と強くわたしのことを握ってきた。

むぎゅっぎゅーぅっ

「やっち、じゃぁそのままお願いしまーす!ハイッ!」

カシャっ!カシャっ!

やっちがわたしのことを落としてしまわないかとヒヤヒヤしたらしいリンくんは、かなり急いでスマホカメラのシャッターを切ったのだった。

「やっち、どうもアリガト―!ダイヤモンド富士、見られて良かったねー!」

やっちに向かってお礼をすると、やっちは、ハテ?というあどけない表情で、左の方向に視線をそらしたのだった。

「やっち、照れ屋さんだね。うふふ。でも、フク、抱っこしてもらえて、写真撮れて良かったね。」

「うん!あのね、あのね。やっちの手、めっちゃ力強かったよ。」

「あははは!そっかー。フクのこと、落としちゃいけないと思って、まるでラグビーボールみたいに抱えてたもん。」

「おぉ!ノックオン!・・・ってか違うわい!フクはラグビーボールじゃないもーん!」

わたしたちが暮らすチーバの夕暮れの空。

うっすらと描かれたお山の線は、ブルーグレーからレンガ色に向かうグラデーションの中に、少しずつ、少しずつ、溶け込んでいくのだった。

「さ。じゃぁ、そろそろ晩ごはんのお買い物して、おうち帰ろーか。」

「そうしよー!オハナのみんなが待ってるね。」

ダイヤモンド富士の強運が薄まらないように。
わたしたちはそぉっと大きく深呼吸をして、それから、ビルのエレベーターへと向かったのだった。

フク(鰒太郎)

「ダイヤモンド富士でバレンタイン」イベント (千葉県八千代市 公式ホームページ)
https://www.city.yachiyo.lg.jp/site/kankou/59543.html
※2025年イベントの開催は終了しました

千葉県八千代市のイメージキャラクター “やっち”
https://www.city.yachiyo.lg.jp/site/yacchi-jouhoukyoku/1341.html

ユアエルム八千代台店
https://www.yourelm.co.jp/yachiyodai/index.html

※千葉県にあるFMラジオ放送局
BAYFM(ベイエフエム)
https://www.bayfm.co.jp

2024年5月に八千代市で結成されたガールズアイドルグループ 「Bluegreen(ブルーグリーン)」公式ホームページ
https://bluegreen-official.jp/

▼「ダイヤモンド富士でバレンタイン」チャレンジのアーカイブ▼

▼2024年はコチラ▼
「午後5時11分、やっちと見上げる空」
https://bobingreen.com/2024/02/21/8286/

▼2023年はコチラ▼

「やっちのハートと北風小僧の空」
https://bobingreen.com/2023/02/15/3885/

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Rin(リン)

ぬいぐるみブロガー、Rin(リン)です。 ライオンのボブ家と愉快な仲間たち、そしてニンゲンのケンイツ園長と一緒に、みどりキャンプ場で暮らしています。 ボブ家の日常を、彼らの視点でつづっていきます。

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