台風7号とヨコハーマの朝
ぐぅーぐぅー・・・
ぱちぱちぱちぱたぱたぱた・・・
規則正しい寝息の音と一緒に、窓を打ちつける雨の音が聴こえる。
おはーに。ライオンのボブおです。
ぱちっと目を開けてみると、真っ白い天井と見慣れぬ薄グレーの壁。心地よく空調が整ったコンパクトな部屋に、木の温もりのある広いベッド。
おれはそのど真ん中に、横たわっている。隣には妹のボブこがいて、そのさらに向こうには弟のボブぞがぐーすか寝ている。おなかのうえには、これまたすぴーすぴーとよく眠っているすずフクコンビがいる。
ベッドの横にある小さい丸テーブルもまた木目のデザインで、そのうえには昨晩のささやかな宴会のあとが残っている。コンビニで買ってきた赤ワインのボトルの中身は半分くらい残っている。それから、手をつけられていない未開封のチリトマトヌードルと割りばしが放置されている。
おれは思い出す。
そうだ。昨日は、ボブぞが観たいといっていた映画をみんなで観て、それから、遅めのランチとして、ボブこ念願のスペイン料理屋さんでしこたま食べて飲んだんだよな。
そのあとこのホテルにチェックインして、ニンゲンたちと一緒に爆睡したあと、夜中になって起き出して、ホテルの部屋の中で、買ってきたお惣菜やらで晩酌をしたんだった。そうだった、そうだった。
アタマを巡らす。えーと、ココはどこ?
そう、ココはヨコハーマ。ハマにある小さなビジネスホテルのひと部屋だ。
ほんの少しだけ開けた遮光カーテンのすき間から、部屋の中に朝の光が差し込んでいる。
おれはジィッと耳を澄ます。
おれらの暮らすチーバをはじめ、関東の東側では、かねての予報どおり大雨警報が発令されているようだ。そんなこんなで、今日は東海道新幹線や在来線の一部でも計画運休になっているらしい。
このお盆休みの期間を利用して、おれらは、ココ、ヨコハーマで、ボブことボブぞのおたんじょうび祝いの旅行を楽しんでいる。昨日の晩一泊したのち、本来なら、今日の午後にチーバへ帰る予定「だった」。
だったのだけれど・・・、どうやら台風7号ってやつがモーレツな勢いでおれらのことを追ってきてるようだから、急遽、おうちに帰るのをイチニチ延ばすことに決めたんだ。つまりは、もうひと晩、台風のなか、おこもりステイ。もう最近は流行ってるのかどうかわからないけど、いわゆるホカンスってやつかもしれない。
いまは朝の7時過ぎ。
おれの耳もとに置いてあるリンくんのスマホは、チーバでの豪雨予報のプッシュ通知をブイブイ言わせている。
おれは想う。
おうちでお留守番してくれてるみんなは、ダイジョブかなぁ・・・。雨音や強風に怖がってないかな?停電とかしてないかな?それから、ちゃんとメシ食えてるかな?帰るのがイチニチ延びちゃったから、冷蔵庫の中身、足りるかなぁ?
おれらライオン三兄弟とすずフクの5人以外のオハナたち(家族、いわゆる、ぬいのことだ)は、自宅のみどりキャンプ場に残ってくれてるからさ、やっぱり心配になるんだよね。
あれこれ考えて、やっぱり昨日のうちに家に帰るべきだったのかなぁとかちょっと後悔をしかけていたところで、そのとき、おれの耳もとでカエルくんの声がした気がした。
(「おーいボブお!そっちはどお?楽しんでる?大丈夫。おれがみんなを守るからさ。オレ、要石だし、なによりも、カエルだからね、雨は好きなんだ。」)
そっか!
カエルくんがおうちでみんなを守ってくれていたら、ダイジョブだね。カエルくんは、雨は大の得意だもんね。考えてみたら、カラダの小さなライオ ンのおれなんかよりも、よっぽど頼もしいね。
(「そうさぁ。たまには、任せて。そしてボブおはさ、もうイチニチ、ハマでゆっくり羽根をのばしておいでよ。アッ!でもお土産は忘れるなよな!」)
うん、わかったよ。
ありがとう。カエルくん。我が家の頼もしい、要石。家をしっかり守ってくれな。
ぐぅーぐぅー・・・
隣でニンゲンたちのイビキが、雨音に混じって大きくなった。あいつら、まだまだ寝る気らしい。
おれも、もう一度、目を閉じる。
特別な、ハマでのイチニチが始まるよ。さぁ、なにして過ごそうか。
ボブお
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