もっつオジサンだって甘えたい
シクシク・・・
シクシク・・・
「あれ?もっつ、どしたの?亅
シクシク・・・
シクシク・・・
「泣いてるの?どっか痛いの?それとも悲しいの?あ、さみしいのかな?亅
シクシク・・・
シクシク・・・
「どしたかなぁ。おででよければ、話聞くよ。亅
ライオンのボブぞです。
我が家のオハナ最年長(ニンゲンふたりを除く)であるおっさんグマのもっつが、モーフをかぶって枕に顔を押し付けているんだ。さっきから隣で話しかけているんだけどね、なかなか口を割ってくれない。
「そっか、無理して話さなくてもいいんだよ。じゃあ、まぁ、寝なよ、ね?きっと、疲れてるんだよ。な。亅
おでが耳元でそうささやくと、もっつは少しだけ顔を上げて、こう言ったんだ。
「そう、疲れたの。もう、おれ、疲れたの。亅
「 おお。話してくれた!うん、もっつ。何に疲れちゃった?亅
「リンくんの面倒見るの、もうヤダ。最近な、稼働時間が長すぎるの!亅
う。。。おではちょっとコトバにつまってしまった。なぜなら、もっつの労働時間が長いのは、おでらの代わりをしてくれているせいでもあるから。
リンくんが寝るときに抱っこしていいのは、我が家の20数名いるオハナ(家族)のなかで、唯一もっつだけだからなんだ。それ以外のメンバーは、リンくんに触れない位置でお隣に添い寝することはあっても、決して、ギュウと抱っこはさせないことにしているの。一方、もっつはというと、抱きまくらか抱きまクマかわからないほど、リンくんの汗もヨダレもニオイもその大きなカラダ全体に吸い込んでいる。
「ボブぞ、たまには変わってくれよぉ!!!亅
「うん・・・そだなぁ、えっと。考えとくよ。亅
お疲れがたまっているもっつに、なんとも歯切れの悪い回答をしてしまった。そこでおではもっつに別の提案をしたんだ。
「なぁなぁ、もっつ。リンくんに時給上げてもらえよ。亅
「それもそうだなぁ!てかさ、ボブぞはいくらもらってんの?亅
「おではねぇ、イチ抱っこにつき5,000円だぞって言ってある。もっつは?毎日ギュウギュウされてるだろ?亅
「んーっと、生まれてこのかた時給はちゃんと決まってないし・・・というより、そもそもお支払を一度もしてもらったことないぞ。おれ、もう30年以上リンくんと一緒にいるのに。亅
「そうなんだよ!そうそう。おでもなー、キッチリ料金プランは決まってるんだけど、全然払ってくれないの。お支払が滞ってるの。取り立てせにゃぁなぁ!亅
そうだそうだ!そうだそうだ!と、おでともっつは、リンくんがいかにおでらの愛と優しさを、日々そして長年、無遠慮に搾取し続けているヒドイやつなのかについて、熱く議論した。
その時だった。
「あれぇ。もっつ、どしたの?ひとりでモーフにくるまってるなんてめずらしい。ボブぞも一緒に、どした?亅
風呂から上がってきたリンくんの声がした。
「オマエのせいだい!亅
もっつはリンくんに強く言い放った。
「リンくんのせいで、おれはもう疲れちゃったの!」
「あふーん。もっつぅ、じゃぁわたしがいやしてあげるよぉ。抱っこ、抱っこ。ね?抱っこしてあげる。ほら、今なら風呂上がりでわたしピカピカよぉ。」
ギュゥ。ギュゥギュゥッ
「あ・・・。」
もっつがそのとき、ひとすじの涙を流したのを、おでは、見逃さなかった。
もっつはどんなキモチだったのかな。
疲れがたまってただけなのかな。ガマンしすぎちゃったのかな。
それとも、ホントは、ただ、無条件に自分だって甘えたいんだってコトを、受け入れてもらいたかったのかもしれない。ただ、自分が頑張ってるってコトを、ちゃんとリンくんに知っていて欲しかったのかもしれない。
「もっつ、ほら。ギュッとしよ?」
「う・・・おう。」
ギュゥ。ギュゥギュゥッ
もっつとリンくんのその姿は、毎日の寝姿となんら変わりないように見えるのだけれど、きっとふたりのなかでは、何かが変わったんだと、思う。
もっつの無償の愛とリンくんの無邪気な愛とがぶつかりあって、それから、多分だけど、もっつはその衝撃にちょっと痛みをおぼえていて、一方のリンくんは、もっつの繊細さに鈍感で、全然それを理解できていないだけだと、そう思う。
おでは、もっつの痛みが、少しでも緩和されるようにと、もっつのそばに近寄った。
「なぁもっつ、ダイジョブだろ?リンくんに言いたいこと言えてよかったじゃん。」
すると。ヒョイっとカラダが上に持ち上がった。
「ボブぞのこと、抱っこしていいか?」
あふーん。でかいツキノワグマに抱っこされる、おれ、ライオン。
「もちろんだよぉ、もっつ。ギュッギュッってしような。ホントはおでが抱っこしてあげたいけれどな。」
「ボブぞ、アリガトなぁ。おれ、リンくんにガツンと言ってやって、スッキリしたよ。」
「うんうん。良かったね。」
おではもっつの気が済むまで、もうしばらく茶色の毛むくじゃらの腕のなかで過ごすことにしようと思う。
もっつオジサンだって、甘えたいんだよな。
ギュゥ。ギュゥギュゥッ
「あ。でもちゃんとリンくんからは取り立てしないとなぁ!おでらオハナは、それくらい価値があるんだぞー!って大きな声で抗議しような。」
うんうんって顔を見合わせると、もっつはようやく笑ってくれた。
ボブぞ