辰の年始め、龍神様に珠をいただく
「のうまくさんまんだ・・・えーっと・・・(ゴニョゴニョゴニョ)。エイッ!龍神様、どうかお願いします!」
何度やっても、真言はなかなか覚えられない。成田の総本山の新勝寺でも、ココ、深川不動尊でも、ちゃんとご真言を掲示しておいてくれるのは本当にありがたい。いつか、ちゃんと覚えてココロの中で唱えられる日が来るのだろうか。
おれは、本堂のなかから聞こえてくる荘厳な護摩行の圧を感じながら一礼をして、初詣の参拝客をかき分けかき分け、踵を返したのだった。
こんにちわーに。ライオンのボブおです。
1月4日、おれは今日トーキョーは門前仲町にある、深川不動尊にやってきたんだ。不動尊、つまり、お不動様。お不動様といえば、おれらチーバ県人(チーバ県ライオンか)にとって大切な成田山新勝寺が総本山で、ココ、深川不動堂はその東京別院にあたる。
成田山新勝寺へは年に数回お参りに行くけれど、深川のほうにやってくるのは実は初めてなんだ。
「深川の龍神様にご挨拶行くかー!」
昼過ぎのこと、急にエンチョーが言い出した。思い立ったが吉日、というわけで、チーバからやってきた。
「あ、それ、ちょうど今朝じゅん散歩でやってたよ。龍神様の御池にお願い事を流すんでしょ?」
「それそれ。」
「混んでないかな・・・?」
「成田山新勝寺よりは平気じゃない?」
「じゃ、行っちゃう?」
「行っちゃう!行っちゃう!」
おれらは今年の新しいご衣装、ドラゴンの絵柄のスカジャンに着替えて、初めてのおでまめ(お出かけ)となったのだった。
本来であれば、地下鉄の門前仲町駅を降りてすぐ、なのだけれど、沿線トラブルがあったとのことで運休していたので、おれらは迂回してJR京葉線の越中島駅から歩いてきたんだ。越中島、こしなかじまじゃないよ!えっちゅうじま、って読むの。ちなみに、越中島駅で降りるのも初めてだった。
「越中島って何があるの?」
「いやぁ、月島と門仲(もんなか、門前仲町のこと)のちょうど中間くらいなんだよね。昔知り合いのオッサンが住んでてさ。一回だけ来たことある。」
ケンイツエンチョーでも一回しか利用したことがないらしい。東京海洋大学というでっかい建物があって、その通り沿いをずんずん歩いていくと、永代通りにぶつかった。
「あ、もう門仲だ。」
永代通りを渡って右に折れると、アーケード商店街があらわれる。門仲には何度か来たことがあるはずだけれど、今日は景色は全然違って見えた。いろんな食べ物のニオイが入り混じった屋台が軒を連ねていて、商店街の歩道の幅は半分以下の狭さになっていた。有名店なのだろうか、ベビーカステラ屋の前では特に行列をなしていて、老若男女、まぁるいちっこいボール状の食べ物が焼けるのを今かと待っているようだった。
うぐぅ。
ケンイツエンチョーを先頭に、次いでリンくんが、狭いその人いきれを縫うように歩く。おれらはというと、リンくんの抱えるトートバッグのなかでジィっと息をひそめていた。
門前仲町駅の看板が見えて、その手前を左に折れると参道だ。
「あ。ココだー。」
すぐに目に入ってきたのは、やはり、ニンゲンたちの行列だった。
「な、なるほど。ココからが、もう参拝の列ってわけね。」
「どうする?並ぶ?」
「いや、せっかく来たし、並ぼうよ。」
時刻は午後2時50分。ちょっと風が冷たいけれど、ニンゲンたちはダウンコートにマフラーを巻いて手袋もして、防寒は万全だ。そして、おれはというと、おろしたての裏起毛のスカジャンを着込んできたから、ちょっとの寒さなんてぜんっぜんへっちゃらさ。
並び始めて約20分ほどで、参道から境内の入り口まで到達した。境内案内図の看板を見る。
いまおれらが並んでいるその先がメインの本堂になっていて、その中にお不動様がいらっしゃる。最初にそこでお参りをしよう。
それから、おれらが成田山新勝寺で必ず行く出世稲荷も、この深川不動尊にもあることがわかった。そして、最後に、今日の一番の目的である、深川の龍神様にお会いするんだ。
列に並んでいると、結構ワンちゃんが多いことに気がつく。おれらの直前に並んでいるご夫婦も黒いワンちゃんを連れていて、時折後ろを振り返ってはニコッと愛想を振りまいてくれる。リンくんもケンイツエンチョーもわうわうわうーっとこっそり手を振ったりして、列に並ぶ時間をワンちゃんに楽しませてもらっている。(ちなみにお名前は、クロマティーンちゃんだった)
おれはというと、ワンちゃんじゃなくてライオン、しかもドラゴンの刺繍の入った真っ赤なスカジャンを着た派手なライオンだから、きっとここで顔を出したら周りの知らないニンゲンたちはたいそう驚いてしまうだろう。まだまだ龍神様にお会いするその瞬間まではおとなしくジィっとバッグのなかで暖を取りつつ待っていることにした。
さぁさ、いよいよおれらまで順番が回ってきて、”のうまくさんまんだー・・・”を唱える。正月の初詣らしく、行列の中だと、どうもゆっくりと、というわけにはいかない。いかないけれど、できるだけココロを込めて、お不動様に新年のご挨拶と今年イチネンの平穏無事をお願いした。2024年は始まって早々、地震に事故に事件にと、平穏無事ではない世の中なんだ。不幸せなことはなければそれに越したことはないけれど、もしも身の回りに起きてしまうことを避けられないのであれば、できるだけ悪いことは小さく、少なくで、お願いしますね、とお願いをした。
本堂へのお参りに加えて出世稲荷へのご挨拶も済ませると、境内の至るところでまた別の行列ができていることに気がついた。どうやら、おみくじの列らしい。それから、御朱印を待つ人、屋台で買った食べ物を頬張る人、決して広くない境内は正月らしくニンゲンでごった返していた。
おれらはそれらの列には並ばず、本日のメインイベント、龍神様の御池を目指したのだった。
境内の入り口付近、少し暗がりになっているその小さな水場は、驚くほど青く、いや、碧く、紺碧(こんぺき)のといっていいほどの深みのある色に輝いていた。
驚くべきことに全然混雑はしていなくて、ひっそりと佇むその御池は、むしろ穴場スポットみたいだった。
そばには龍神様へのお手紙(”龍神願い札”という)を書く台が設置されていた。たった数人の列を待ったのちに、リンくんが代表して、おれらボブ家のお願い事をしたためた。
「コレでいいかな?」
「うん、シンプル。いいね。」
ケンイツエンチョーとリンくんとで内容を確認して、それから、みんなで一緒に龍神様の御池へ向かった。
どーん
鑼(どら)を自分でひとつ鳴らしてから、それから、ご真言を唱えるという流れらしい。
のうまくさんまんだー・・・(ゴニョゴニョゴニョ)・・・
最後までゆっくり読み上げて、それから、いっせーのーせ、で手を離して、龍神願い札を流した。
ペコッ
一礼をした後、その札の行方を見守った。
三体の龍神様のうち真ん中の神さまが開く口からは細く強く水が流れている。その輝かしく滴り落ちた足もとで、おれらのお願い事は瞬時に姿を消していったのだった。
・・・と思ったら。
プクゥ
ン?消えゆくそのほんの最後の瞬間、水色の、まぁるいボールのように浮かび上がったものがあった。まるで四角い紙切れからは想像できない形に変化をとげたそれは、たぶん、龍神様の与えてくれた珠(たま)のようなものだったに違いない。
「あぁ、ホントに消えちゃった。」
おれらが呆然としていると、後ろで待っていた別の参拝客がさっそく御札を投げ入れた。おれが賜った珠は、実体は消え失せてしまったが、おれの、ライオンのおれのココロに、しかと入り込んだ。
「ありがとうございます。龍神様。」
そうだ、おれ、背中に龍を背負ってきてるんだったよ。ホラ、龍神様、見てください。ライオン&ドラゴン、辰の年始め、このドラゴンのスカジャンっていう新しい装いで会いに来たんですよ。どうか、お見守りを、よろしくお願いします。
龍神様へのお願い事は何かって?
・・・それはね。
うん、やっぱりおれらだけのナイショにしておくよ。
さぁ、2024年の初詣、辰年の始めに龍神様に珠をいただいたんだ。
いいことも、悪いことも、両方あるかもしれないけれどさ、必ず、いい年に、しようね。
ボブお
成田山新勝寺 東京別院 深川不動堂 公式ホームページ
http://www.fukagawafudou.gr.jp/about/index.html
「お不動さんのお導きの先には紅葉と長命泉とうなりくん」
https://bobingreen.com/2023/11/27/7107/