ペンギン勘九郎のクッキーパーティー

ある日、ペンギンの勘九郎から一通の手紙が届いた。招待状、と書いてある。

勘九郎とは、一緒にひとつ屋根の下で暮らして、毎日同じ食卓について、隣の寝床で寝ているというのに、急に改まって、一体どうしたというのか？

いぶかしみつつ封を開けてみると、仰々しいほどの達筆な字で、こう書かれていた。

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拝啓　ボブお殿

ここ数日、頬を撫でる風にようやく涼しさを覚えるようになってまいりました。皆様におかれましては、いかがお過ごしでしょうか。

さて、この度、私事ではございますが、はじめてのおつかいの成功を祝しまして、
「ペンギン勘九郎のクッキーパーティー」を催すことになりました。
当日は、スイーツ番長の当方がおすすめする、爽やかな秋の気候にぴったりの、風味たっぷりのクッキーをお召し上がり頂きたいと思います。
つきましては、みなさまお誘い合わせの上、ぜひ足をお運びくださいますよう、心よりお願い申し上げます。

それでは、みなさまにお目にかかれますことを楽しみにしております。

敬具

2022年9月吉日

ペンギン勘九郎

ボブ家リーダー　ボブお様

記

日時	2022年9月24日土曜日　午後3時より
場所	みどりテラス（雨天荒天の場合は、ボブ家の食卓）
内容	ペンギン勘九郎の「クッキーパーティー」 ・ピッタくんの”Om nom nom（オムノムノム）”米粉クッキー食べ比べ ・フリードリンク付き（アルコールとのマリアージュをお楽しみください）
会費	無料
参加者	ボブ家 御一行様
主催	“スイーツ番長” 勘九郎
運営	“メシタキ番長” リンくん

以上

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ほぉ！

先週末に、人生（あ、ペンギン生か）はじめてのおつかいに行った勘九郎*。我がボブ家を代表して、クッキー屋さんでパタスモンキーのピッタくんに会ってごあいさつして、途中でつまみ食いもせずに、大切なクッキーを割れないように持って帰ってくる、という大役を果たしたのだった。片道1時間半、往復3時間。トーキョーまでリンくんを連れて行って、怪我ひとつなく帰ってきた、というすばらしい功績もある。
そうかそうかー！そのおつかいの成功を祝して・・・かぁ！すっかり勘九郎、「わたくし」だなんて言って、大人っぽくなったもんだなぁ。いつもは「わっし」なのにね。
嬉しいなぁ。楽しみだなぁ！みんなを誘わなくっちゃ！
さぁ、おれも忙しくなるぞぉ！！！

おれは、手紙を握りしめて、みんなに声をかけた。

おーい！聞いて、聞いて。
今度のドヨービ、勘九郎がクッキーパーティーを開くんだって！おれら、みーんな招待されたんだよ。せっかくだから、ボブ家全員で行こう！オハナは家族。家族はオハナ。みんなで行こう！

おれがいつものソファの上でみんなに声をかけている間、勘九郎はパッと目線をそらして、食卓の上にあるチョコをひとりつついていた。くちばしはチョコの方に向いているものの、文字通り、ペンギンの横目でコッチのほうを気にしているのが、遠くからでもわかった。勘九郎が聞こえないふりを演じているものだから、おれも、あえて気がつかないふりをして、みんなと話を続けた。

ボブぞ、行くでしょ？

わぁいわぁい。ニーちゃん！おで、もちろん行くよ！あのクッキーさぁ、いつ食べるんだろなぁ？って気になってたんだよ。おうちの形をした箱に大事そうに入ってるから、勝手に中をのぞくこともできなくてヤキモキしてたぁ。もしかしたら勘九郎ひとりで食べちゃうのかも・・・と思って、心配してたよぉ。
良かった良かった！

弟のボブぞがそう答えると、勘九郎がギョッとした顔であからさまにおれのほうを見てきた。

（わっし、そんな冷たいヤツじゃないもん！みんなで仲良く食べるために、おつかい行ったんだもん！パーティー！来てね！みんなで来てね！カンカンカカーン！）

あぁ・・・わかってるよ、おれは。
勘九郎はみんなのために買ってきたんだってね。だから、ちゃんと、補足もしておいたよ。

まったく、ボブぞは食いしん坊だなぁ。勘九郎は、優しいし責任感が強いから、こうやってパーティーを用意してくれるんだよ。あ、でもねぇ、おれ、勘九郎がコッソリつまみ食いしてるのは、見たけどなー。フハッ！

（・・・！ぎゃーん！ボブおさん、見てたの・・・・？恥ずかしーっ！カンカンカカーン！）

ここだけの話。ホントはおれ、その現場までは見てなかったんだけどね、勘九郎からの招待状の封筒のすみっこに、バターのいい香りのするクッキーのかすが入ってたんだよ。まったく、詰めが甘いなァ、勘九郎は。
ま、そんなところもかわいいよ。だって、おつかい、頑張ったんだもんな。みんなに買ってきてくれたんだもんな。

（ハァー。ボブおさんには全部お見通しかぁ・・・・）

そうやって、おれは順番にオハナに声をかけて、ちゃぁんと我が家の「みなさま」を「お誘い合わせ」した。その間、勘九郎はきっとずっとドキドキしていたに違いないね。

いよいよ、クッキーパーティーは当日を迎えた。台風15号が接近していて、朝から空模様は落ち着きがなく、灰色の雲が主役だ。時折ざぁっと雨が降ったり、かと思えば、急に薄日が射したりと、秋の空は七度半変わるとはよく言ったものだと思う。
おれは、隣の寝床にいた勘九郎に話しかけた。

よぉ、勘九郎。おはーに！今日のパーティー、雨天決行？

あっボブおさん、おはーに。
もちろんだよ。でもテラスじゃ無理そうだから、わっし、おうちのなかで準備するの。みんなにも伝えてもらっていい？

当初の勘九郎のプランでは、みどりテラス、つまり我が家のベランダに、アウトドア用のイスとテーブルを出してガーデンパーティーっぽいものをやりたかったらしい。けれど、あいにくの雨。

わかったー！楽しみにしてるよ！みんなで行くからね。

わっしも楽しみなのっ！カンカンカカーン！

いつもの口調に戻った勘九郎は、テンションMAXの様子だ。ご機嫌な様子で、リンくんに会場設営の指示をしている。

ねーねーリーンくーん！ほら、ここにモーフ敷いて、クッション置いて。真ん中にテーブル置くからね。みんなのお席を用意してね。オハナ全員来てくれるっていうから、大変だよぉ！わぁい！ひゃっほう！

はいな。こんな感じでどぉでしょぉ？

エッヘヘ！いいんじゃない？あれ、わっしの席、どこ？

勘九郎はホストだから、席ないんじゃないの？

あー、まいっか。わっし、テーブルの上でお給仕したり説明したりするね。

ところで、私の席は？

えっ、なに言ってるの、リンくんの席はあるわけないじゃん。リンくんは運営で裏方だよ。

・・・そぉですか・・・。

勘九郎とリンくんのやり取りをみているだけで、やっぱり我が家は平和だなぁって思うんだ。おれは、パーティー開始の3時のオヤツの時間になるまで、ゴロンゴロンテレビを見たりうとうとお昼寝をしたりした。あいにく、大好きなゴルフ中継もなくって、あぁ台風だもんね、と気が付いた。

「（・・・ギュェェェーィイイイ！）エー・・・ゴホン！みなさま、オマタセイタシマシタ！ペンギン勘九郎のクッキーパーティー、開場だよっ！レッツパーティー！カンカンカカーン！」

午後3時。急に、マイクのハウリングする音が聞こえたかと思ったら、勘九郎の咳払いとともに、アナウンスが入り、おれらは会場に招き入れられた。

どぉぞどぉぞ。おくつろぎくださいなぁ！

特設パーティー会場は、おれがいたソファから、たった1m先だ。とはいえ、勘九郎が用意してくれた特別な席に移動して、全員が着席したところで、乾杯の音頭となった。

（ボブお、乾杯の音頭、お願い。勘九郎、目ェキラキラさせて待ってるから。）

コソッと、おれに耳打ちをしてきたのは、リンくんだった。たった、5分前のことだった。

あ、そういうの、あるんだ、すごいねぇ。パーティーだね。あいよ、わかった。

「（・・・ギュィィィィィん！）アッアッアー？トントン！わふっ。
この度は、このようなすばらしいパーティーにお招きいただきましてありがとうございます。ボブ家を代表して、まずはお礼を申し上げます。我が家のスイーツ番長、ペンギンの勘九郎くんがぁ、えーっと、トーキョーはアラカワクのミノワまで、はじめてのおつかいに行き、無事に帰ってきた、ということで、この会は勘九郎くんが主催してくれたものではありますが、我々が勘九郎くんを祝福する日でもあります。あー、なんだかかしこまりすぎてなに言ってるかわからなくなっちゃった。
つまーり！おれ、勘九郎のこと、誇りに思ってるよ。ぐっじょぶ、勘九郎！今日はみんなで、勘九郎が買ってきてくれたクッキーを楽しもうじゃぁないか！

せーのっ！カァンパーーーーイ！」

「カンパーーーーイっ！！」

かくして、勘九郎のクッキーパーティーは幕を明けたのだった。

ねぇねぇ、ボブおさん？

なんだ、勘九郎？

わっし、エッヘンなの。アリガト。

うん。遠慮なく、クッキー、いただくね。

ピッタくんが店番をする”Om nom nom（オムノムノム）”の米粉クッキーのうち、4種類がパーティーのテーブルに並んでいる。勘九郎チョイスのお味は、黒ごま、チーズペッパー、ナッツごろごろ、ほうじ茶、だ。

ここで勘九郎のプレゼンテーションが始まった。

ハイッ！まず、黒ごま！黒ごまはね、この黒いツブツブが見えるやつね。
みんながアタマで知ってるごまよりも、もっとごまぁぁぁぁー！ってお味がするから、きっとびっくりするよ。焙煎っていうのかなぁ？とにかく香ばしさが違うの。かみしめるとジュワッとごまの味が広がるような、そんな感覚を楽しんでね。

ハイッ！つぎー！ほうじ茶！渋いよねー。このチョイス。黒ごまからのほうじ茶、ピッタリな流れでしょ？
ほうじ茶の独特な苦味はなくて、ふんわりとしたやさしい感じだよ。茶葉感があるわけじゃないから、とっても食べやすいよ。

みっつめは勘九郎、今回のイチオシ、チーズペッパーぁぁぁ！いやぁ、コレは衝撃だよね。甘いの？甘くないの？でも甘いよねぇっ！っていうおつまみクッキーなの。最初はさぁ、チーズだから、冷えた白ワインあたりかしら？って思ったんだけどね、いざ食べてみると、ビールがサイコーでした。まだちょっと蒸し暑さが残ってるからかな？それともペッパーがいい仕事してるからかな？とにかく、オトナ味のチーズペッパー、食べてみてよね。

最後は、テッパンの香ばしさ、ナッツごろごろだよ。
先日にピッタくんが我が家までお届けに来てくれたときにも入ってたでしょう？あのとき、みんなで大事にひとくちずつ、食べたよね。コレ、わっし、とってもとっても好きなの。米粉のさっくり感とマッチしてるよぉねぇ。

あ！以上、お味の説明でしたぁ。あとはお好きに堪能してねぇ！

勘九郎はとても満足そうな表情でみんなの間を飛び回って、おしゃべりに花を咲かせていた。勘九郎がパタパタッパタパタッと飛び跳ねるたびに、その羽根の脇の下からは、とてもいい香りがした。

クンクン？クンクン？

おれはそのライオンの鼻を利かせた。それは、とびっきりの上質なバターと、香ばしいナッツの混じる、甘くて素朴な香りだった。ピッタくんの米粉クッキーとそっくりの幸せの香りだった。

（勘九郎、一体、どんだけつまみ食いしたらそんないい香りになるんだい・・・？）

おれは心のなかで突っ込んだけど、勘九郎が全身で幸せな気持ちをあらわしているのを見て、くぴ、と静かにビールをひとくち含んだのだった。

うん。いいパーティーだ。みんなの笑顔が、おれはいちばん好きなんだ。
勘九郎、全員を招待してくれて、どうもありがとうな。

ふと、窓の外を見ると、雲のすき間に、うっすらと水色がのぞいていた。

おれはおだやかな気持ちで、例の甘い香りをもう一度、クンクンしたのだった。

ボブお

Om nom nom（オムノムノム）
今回のクッキーパーティーの主役、大阪の米粉クッキー店だよ！↓↓↓
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*ペンギンの勘九郎が、オトモダチのピッタくんに会いに行ったお話はこちらから↓↓↓
「ペンギン勘九郎、はじめてのおつかい」

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