さいたさいたの”ふるさと”広場
さいたー!さいたー!
チューリップのはながー
なぁらんだ なぁらんだ
あーかーしーろーきーいーろ!
どーのーはーなーみーてーもー きーれーいーだぁなー!
ムツです、シチです。今日はお隣町のお花畑に連れてきてもらったよ。
このお花いっぱいの広場はね、畑と田んぼに囲まれた場所にあって、近くにはおだやかな流れの川と小さな沼がある。目の前の視界は大きく開けていて、地平線を望むこともできる。ジオラマみたいに走る京成電鉄が愛らしい。
市営のこの広場には、季節ごとにたくさんの花が植え替えられて、夏はひまわり、秋はコスモス、といろんな景色を楽しむことができるんだって。
春のこの4月の数週間は、この広場でも一年でいちばんの大きなイベントであるチューリップフェスタが開かれているの。
あーかーしーろーきーいーろ!♪だけでなく、白とピンクのミックスや、うすピンクの八重、濃いむらさき・・・、びっくりするくらい、たくさんの種類のチューリップのはなが、ならんで咲いている。思いのほか春にしては空は高く広く、見渡す限りの一面のチューリップ。ただね、ニンゲンたちとそのニンゲンを運ぶ車も、チューリップに負けないくらい、色とりどりにならんで、咲いている。決してアクセスがよいとはいいがたいこの広場の周辺は、このチューリップの季節は、近くの国道から駐車場に向かう小道まで、ずぅっと渋滞するらしく、有料駐車場も、パンッパンの満車だ。
おれらはというと、今日は車ではなく、最寄りの駅からとっとことっとこ、田んぼのあぜ道と川沿いのボコボコ道を歩いてきた。
小一時間の道のりを、リンくんは忙しく道草をくっている。
春の野草を見つけては立ち止まったり、田んぼの水たまりに映る空を眺めては写真を撮ったり、鳥の声を聴いてその姿を探してみたり。電車が通るたびにワクワクしてみたり、バッタを見つけてはよけてみたり、タイヤがパンクして朽ちかけている巨大なトラクターを見てコーフンしたり、とにかく、ワクワクが忙しい様子だ。
途中、急にリンくんが大声を出した。
・・・ちーんちーんちーんちーん!!!♪
田んぼのあぜ道、当然、おれら以外には、誰も、いない。だからといって、嬉々として大声で騒ぐリンくんに、さすがのケンイツエンチョーも突っ込んだ。
・・・ダイジョウブ、誰もいないから、ここなら叫んでも平気だよ・・・。
ちーんちーんちーんちーん!!!♪あっ、踏切の音のマネだからねー。田舎道、大好き!あははー!
そんな小学生なテンションのリンくんのポケットに入って、おれらはドキドキしながら、まだ見ぬ”ふるさと”の面影を見るのを、楽しみにしてきたの。
ほら。もうすぐだよ。歩いて来れちゃったねー!
リンくんは、暑いなぁといって、首に巻いていたストールを外してカバンにくくりつけた。
さっきまで遠くに小さく見えていた大きなバッテン印は、もう目の前に迫ってきている。
ムツー!シチー!着いたよ。ほら、風車だよ。上に、オランダの旗も立ってるよ!きみら、オランダ生まれなんでしょ。チューリップはオランダの国花で、この風車はオランダとの親善のシンボルなんだって。
・・・!!!おらんだ。
おらんだって、こんな感じなのかなぁー。チューリップって、カラフルだなぁー。きれいだなぁー!
なぁなぁ、このおらんだのふうしゃってやつ、おっきいのなぁ!
そう、この風車はここのシンボルで、おれらの”ふるさと”のゆえんなのだそうだ。
おれらはオランダ生まれのクマなんだって、ケンイツエンチョーから名前を与えられたときに教えてもらった。正直、当時の記憶はまったくない。いろんな縁があって、このニッポンにやってきたらしいのだ。ケンイツエンチョーによれば、でっぷりとしたオランダ人のオッサンに連れられてニッポンにやってきて、ケンイツの手に渡されたとのことだった。
なぁ、シチ、なんか思い出した?
ううん、ねぇ、ムツは、なにか思い出したの?
残念ながら。でも、おれ、ここ好きだ。
おれも!ムツ、おれらはずっと一緒だ。おらんだってところから来て、これまでずっと一緒だったんだ。これからも一緒にいてな。
あたりまえだ。おれらはいつもふたりでひとつだ!
おれらが名を与えられて、はじめての”ふるさと”広場。
思い出すものはひとつもないのだけど、目の前に広がるいろとりどりの景色はとても好きだと思った。
あーかーしーろーきーいーろ!♪
ムツゴロオ、シチゴロオ
さいたさいた
『チューリップ』作詞作曲: 近藤宮子・井上武士
チューリップのはなが
ならんだならんだ
あかしろきいろ
どのはなみてもきれいだな