夜のいろ
ほら、やっぱりね。
よかった。
アマテラスさんは岩のかげからお出ましになられたみたい。
ボブ男です。
昨日のカミナリさまから一転、今日は朝からよく晴れた。おれの心配をよそに、みどりキャンプ場では、シジュウカラがすぴすぴすぴすぴー、すぴー!と鳴いている。
今朝、ギュッとみんなでパンパンした。いちにち、無事ですごせますようにと。いつも、ありがとうございますと。そのあと、ケンイツはまたすぐにいそいででかけていった。
ケンイツのおとっつあんが、ちょっとたいへんらしい。
いってらっしゃい。気をつけて。
わふわふわふ!って手をふって、いつものごあいさつ。
ねえ、みんな?
リンライオン、なにー?
今夜は満月だって。
アベちゃんがキンキュージタイセンゲンの会見をしていた日も、すーぱーむーんだったよね。もうひと月たつんだね。
一緒に月、見よ?
うん。
あんまり夜、外に出ること、ないから。月ってどんなだっけ?
プシュ。おビー開けたリンくんに連れられて、ベランダ。
ケンパイ。
ケンパイって、なに?
ん。たいせつな人にささげるきもちだよ。今日が、晴れた月夜でほんとうによかった。
うん。
おれ、夜にはいろがないって思ってた。おれらのたてがみみたいに、あか、あお、きいろ、みどり、とかさ。でもさ、夜の空のいろは、はっきりとはわからない。何いろ?ときかれても、おれにはわからない。でも、光があるところには必ずいろがあるんだって。それだけはなんとなくわかった。アマテラスさんが岩かげからそっと顔を出してくれて、そのおかげで月が光っていて、なんだか、おれも、すごくやさしくて強いきもちになってるから。
言葉はいつだって、もどかしい。
おれ、うまれてこのかた、ケンイツやリンくんとすごして、たくさん言葉をおぼえてきたつもりだけれど。ライオンのわりには、ずいぶんとニンゲンのことばをじょうずにしゃべれる方だとも思ってる。それでも、わからないことがたくさんあって、言えないことがたくさんある。
月のいろ、もわからないし、満月の夜の空のいろ、もわからない。ただ、いいいろ、ということはわかる。
なあ、リンくん、ちょっとひえるから、中、はいろ?
正直なところ、リンくんがかぜひいたら、こまる。おれはあんまりこまらないかもしれないけど、カンビョライオンのボブ三は散々な目にあうだろうし、そもそも、こんなたいへんなときに、ケンイツがこまることが、おれとしては、こまる。
ねえ、空、いいいろだったねえ。いい月だったねえ。明るい、晴れた、月夜でよかった。今日が昨日じゃなくて、よかった。
みんなもおでまめ好きでしょ。出かけるときに天気がよくないとちょっとがっかりするでしょ。今日は、わたしたちにとってたいせつな人の、たいせつな人が、おでかけしたから。ちゃんと見送るよ。
だいじょうぶ、おれ、しってるよ。
うまく言えないけど、わかる。
いい月の空はいいいろの空。いいいろの空は、わくわくする空。おでかけは楽しいものだから。でかける人がさみしい気持ちにならないように。見送る人が悲しい気持ちにならないように、だよね。
いってらっしゃい。
月に向かって、わふわふわふ!って手をふる。
おれのこと、わかったかなあ。
おとっつあんには会ったことなかったけど、ケンイツにお世話になってるボブおです、って言ったら。
手、ふりかえしてくれた。
「よぉ。」
ボブ男
2020-5-7 19:47