くまごろう氏と虹のかけはし
「うーんうーん。どれもカワイイけど・・・やっぱりコレかな!」
そう言ってリンくんが手に取ったのは、ひときわカラフルに飾り付けられたクッキーだった。透明の袋の中で、くまごろう氏が雲間の虹とともにスマイルしていて、かわいらしいリボンでラッピングされている。
「すみませーん。あのー、予約したいんですけれど、いいですか?」
「どうぞ!どの商品ですか?」
「あの、くまごろうくんと虹のアイシングクッキー、6セットを、来週受け取りたいんですが、可能ですか?」
「6セット、えーと来週の、次回の営業日ですね、承れます!」
「わーよかった!オトモダチと集まるので渡したくって。」
予約できるとわかってホッとしたリンくん。店主さんとおしゃべりを続ける。
「わ!嬉しい。もしかして・・・ぬいぐるみのオトモダチとの集まりとかですか?」
「え!そう!まさにそうなんですよー!来週、ぬい好きのオトモダチと京成バラ園で遊ぶんです。そのときに持っていこうって思ってて。」
「そうなんですねー。選んでいただいて、ありがとうございます。ではご用意しますね。」
「よろしくお願いします。じゃ、また来週取りに伺いますね。」
「お待ちしています。ありがとうございました!」
あ。こんにちわーに!おで、ライオンのボブぞだよ。
これは、我が家の近所のにある、小さな小さな焼き菓子屋さんでのお話。
月に数日だけの不定期営業で、くまのぬいぐるみ好きの店主さんがお菓子を焼き、”くまごろう氏”が看板くまをつとめている店だ。
お店自体はとってもこぢんまりとしているのに、くまごろう氏はというと、かなりでかい。店の出入り口をくぐれるのかな?どうやって出勤してるのかな?って疑問に思うくらいだ。おなかまわりはもちろんのこと、背だって店主さんよりも大きいんじゃないかなっていうくらいの体格なんだ。
くまごろう氏というのは、その名の通り、くまさんだ。店主さんにとっての大事な家族であり、お店の店頭を守る店番でもあり、それから、店主さんの創り出す焼き菓子のモデルでもある。その証拠に、その名の通り、このお店には、くまごろうフィナンシェやくまごろうクッキーといった商品になって、たくさんのくまたちがズラリと並んでいるんだもの。看板くまが看板商品になっちゃうなんて、くまごろう氏ってば多才だよね!
「Ne_iroさんのお菓子は、なんだかほっこりして優しいんだよねぇ。やっぱり店主さんがぬいぐるみ好きだからかなぁ?なんか波長が合うというか。」というのが、リンくんがこのお店を好きな理由。(Ne_iro ネイロ というのが店名だ)
何度か訪れるなかで、どうやらリンくんはこのお店の店主さんから、「ぬいぐるみの人」として認識されたらしい。リンくん自身、それも嬉しかったみたい。波長が合いそうって思うのはそういうところからかもしれないね。
(初めてこのお店を訪れたときのお話はコチラだよ → 「くまのゴロオとくまごろうフィナンシェの魔法」)
週が明けて、お店の次の営業日がやってきた。
「ボブぞ、一緒に行こーよ。明日オトモダチに渡すクッキー、受け取りに行くの。ついてきて?」
「お!おで、行ぐぅー!おで、お店行ってみたいぞ。」
「うんうん。くまごろう氏にもご挨拶しようか。」
「やったー!」
おではリンくんに抱っこされて、テクテクとついていく。
ガラッ・・・
引き戸を開けると、左奥にデーンとでっかいくまさんが笑っているのが目に入った。でっかい。本当にでっかくて、笑ってしまった。だけど、その直後、ふと我にかえって、おでは口もとをキッと閉じた。初対面でひとの(くまさんの)顔を見て笑うなんて大変失礼だと思ったからだ。
「こんにちわーに!」
気を取り直して、声をかける。くまごろう氏は、どーぞアチラへ、と言いたげに視線をスッと右手へ(彼からする左手へ)寄越した。
すると、店主さんがカウンター越しにやってきた。
「いらっしゃいませー。お待ちしてました!」
「おで、ボブぞって言います。ライオンなんです!よろしくなの!」
おではリンくんの腕の中から飛び出すと、店主さんに向かってご挨拶をした。もう8才のおニーさんだからね、ちゃんと恥ずかしがらずに自己紹介もできるのだ。フフン。
「このコ、明日連れて行くんです。だからね、今日一緒に受け取りに来ましたぁ。」
リンくんが補足をしてくれる。
「わぁ!かぁわいい!ボブぞくん、明日オトモダチと楽しんできてね。」
「おで、責任もって、おネーさんの作ってくれたくまごろうくんのクッキー、オトモダチにプレゼントするね。それから、虹のクッキーもね。」
「ありがとう。」
店主さんはそう言うと、茶色の紙袋に包んだクッキーをリンくんに渡してくれた。
その様子をジィっと背後から見守ってくれていたのは、例のくまごろう氏だ。おではリンくんがクッキーをエコバッグにしまうのをちゃんと見届けて、それからくまごろう氏の座るイスの横に立った。どうやら店の奥のこの場所がくまごろう氏の定位置らしい。
「くまごろうくん、はじめまして!おで、ライオンのボブぞっていいます。うちのリンくんがいつもお世話になってます。」
「やぁ。どうもいらっしゃいませ。暑い中よく来てくれたねぇ。」
くまごろう氏はちょっとはにかみつつそう言うと、口角を上げてニコッとスマイルをくれた。
「ううん、ダイジョブだよ。ねぇねぇ、さっそくだけど、一緒にお写真撮ってもいーい?」
くまごろう氏は、コクン、とうなづくと、おいでおいでと言うかのように、大きな手でおでのことを手まねいたのだった。
「ココ、ココ。」
くまごろう氏に言われるがままに、おでは彼の太くてふわふわしたうす茶色の腕の中にすべりこんだ。
こうやって抱かれて並んでみると、おでと彼のカラダの大きさは歴然で、おでは自分がいかに小さなライオンかということを改めて思い知らされた。
「はーい、撮るよー!」
カシャッカシャッ・・・カシャッ
リンくんがスマホを構えて、おでとくまごろう氏の記念撮影をする。
その間、くまごろう氏の、ふぅー・・・ふぅー・・・という息が、おでのたてがみをくすぐっていた。
「アハッ!くまごろうくーん、くすぐったいよぉ!」
「ア、ゴメンよぉ。じゃ、もひとつ、おまけね。ふぅー・・・!」
アハハ!アハハハ!
おではたった今数分前に会ったばかりの新しいオトモダチと、こんなふうにじゃれ合って遊べるなんて、とってもうれしかったんだ。優しい甘さのきび砂糖みたいな色のくまごろう氏。お鼻の先はきっとココアでそのまわりはバタークリームかなぁ。おではそんな彼にギュッてしてもらって、優しさのおすそわけをしてもらったキモチになった。
ずっともっと遊んでいたかったけれど、ココはお店。長居しちゃあご迷惑だよね。おでは後ろ髪を・・・おっと後ろたてがみをひかれつつ、出口のほうへと歩いていった。
「バイバーイ!また来まーす。」
「またお待ちしてまーす。」
ガラガラッ・・・
出口の引き戸を開け、店主さんとくまごろう氏に見送られお店の外に出ると、まだ6月だというのに、まるで夏みたいな日差しが照りつけていた。
リンくんの手には、6セットのクッキーが大切に握られている。
とにかくおうちまで大事に持って帰らなくちゃ。そして、明日、無事に割れることなくオトモダチ全員にお渡ししなくっちゃ。
帰りしな、気になっていたことをリンくんに質問してみた。
「そうだ。リンくん、なんでそのクッキーにしたの?他にもお菓子いろいろあったじゃん?」
「あ、コレ?明日会う予定のオトモダチたちはみんなぬい好きだから、まぁくまさんは外せないとして。むしろ虹のクッキーが気に入ったんだぁ。ホラ、虹ってさ、カラフルで、まるでボブぞのたてがみの色みたいだから。」
「おー!リンくん、おでのたてがみの色に似てるから、虹のクッキーを選んでくれたの?」
「そうなの。それからね、明日会うオトモダチって、X(Twitter)ではつながってたけど、直接会うのは初めてでしょ。よろしくおねがいします、のキモチを込めて、くまごろうくんが、虹のかけはしになってくれるんじゃないかなぁって。だから、虹。」
うちのリンくん、意外とそんなことまで考えてたらしいぞ。
くまごろうくんがおでとオトモダチをつないでくれる、虹のかけはし。明日、オトモダチたちと楽しくイチニチを過ごせますよーに!ってことだね。
「ボブぞ、おうちに帰ったら、オトモダチひとりひとりにお手紙書こうね。」
「うんっ!」
おではリンくんに抱っこされて、おうちまでの道のりをわくわくしたキモチで帰ったのだった。
クンクン・・・
「あれ?ボブぞ、ちょっと甘い香りするね?」
うふふ、そう。
おで、ほんのり甘くて優しい、くまごろう氏の香りをまとってるんだもん。
くまごろうくん、また、ふぅー・・・!ってしてね。
ありがとねー!
ボブぞ
Ne_iro(ネイロ)sweets shop (千葉県八千代市)
公式Instagramはコチラ → @ne_iro.sweetsshop
「くまのゴロオとくまごろうフィナンシェの魔法」
https://bobingreen.com/2024/02/08/8119/