ピンクとおさらば – リンくん退院できるってよその2

昨日の夕方のこと。
リンママちゃんが夕飯の準備をし始めた頃、リンくんからLINE通話がかかってきた。

トテテトテテトテテトン
トテテトテテトテテトン

「もーしもーし。」

「アラ、今日は電話できるの。」

「うん、待合室すいてたから。それでね、退院できるって先生から許可おりた！」

「どおりで声が明るいわー。よかった！」

そう。リンくん、退院できるって！

あ、こんにちわーに。
ワタシはウサギのフロプシーよ。リンママちゃんが通話している間、ワタシはずっと横で話を聞いていたの。

症状の改善が見られて投薬治療の効果が出ているから、在宅&通院で治療を続ければ、もう入院じゃなくてもよいとのことらしいわ。

ワタシの隣で、コアラのラアコも興味津々に話を聞いている。

「アレ？そういえばさ、ワタシたち、明日またお見舞い行く予定にしてたよね？行くのかな？どするのかな？」

ラアコはハテ？わからない？とまぶたを重そうに下げている。

「うん、うん。わかった。じゃ、明日は予定通り行くわねー。しばらくコッチ来るのも難しいだろうし、一旦顔見ておくわ。あ、洗濯したタオル持ってくわね。それから、フロプシーとラアコ連れて行くわ。」

リンママちゃんがはそう言うと、LINE通話を終えたのだった。

「やった！お出かけだね！」と、ワタシはラアコとハグして喜んだ。

さぁ。退院前日、最後のお見舞いに来たよ。
リンくん、元気かなー？張り切っちゃってるかしら？

「こんにちはー。来たわよ。」

ピンク色のカーテンの奥に、ピンク色の上下の病院着を着たリンくんが、真っ白いタオルケットを敷いたベッドの上に座っていた。

「やぁ。ママ。フロプシー、ラアコ、また来てくれたね！」

うんうん。なんか、声に活気が戻ってる。ようやくだね。

面会を重ねる度に、全身の皮膚症状も改善してるし顔の腫れや赤みがとれきて、だんだん普段のリンくんの顔に戻ってきた。

「それでもまだちょーっと赤みが残ってるんだよね。クスリの影響かなぁ、治るとは言われてるけど。」

うんうん、先月、名古屋と伊勢へ一緒に旅行して、いーーーっぱい写真撮ったよね。表情はあの元気だったときくらいまで戻ってきてる。あともうひと息ってところだね。

「目元はずいぶんスッキリしたよ。」

リンママちゃんに言われると、リンくんはうれしそうに答える。

「あ、ほんと？うーん、痩せたのもあるかも！病院食でかなりヘルシーだし。」

アハッ！

しかし、その分、腕も脚も筋肉がこそげ落ちちゃった感じ。病棟内じゃ1日1000歩も歩けないもの。ここ数日はベッドの上でストレッチしたりはしてるらしいけど、筋力ばかりは落ちる一方だったみたいね。

「まずはなにはともあれ、明日、団地の5階の部屋まで上がらねば！」

そう、リンくんの住む家はエレベーターなしの団地の5階。まぁ退院して家に帰ってゴミ出しやら買い物やら行ってれば、自ずと筋力は戻ると思うよね。

「フロプシー、わたし、この2週間ずっとこのピンク色の病院着を着てたんだけどね、ついに脱げるよー！コレ着て寝るのも、あとひと晩だけ。ピンクとおさらば！」

「あら、アナタピンク色好きじゃないの？ワタシはピンク色のマントを身に着けてるっていうのにー！」

「アハッ！フロプシーはピンク似合ってるからいいんだよぉー。」

リンくんの膝の上に抱かれて、しばしのスキンシップ。

ラアコも横からのそのそとやってきた。

ギュッ。

そして、「また一緒にお出かけしよーね！」って、約束した。

最後のお見舞いの時間はとても穏やかにゆるやかに流れた気がした。面会時間20分間という制限のなかでも、不思議と時間が足りない感じがなかった。

明日、退院して日常生活に戻ってしまえば、いくらでもおしゃべりしたりお出かけしたりできるもの。

「食事の制限はなさそうだし、動けるようになったらおいしいランチしよー！」

「いいけど、しばらくはお酒控えなさいよね。」

「さすがにまだ治療は続くから飲まないよー。」

うふふ！うふふ！

リンくんとリンママ、ふたりともが健康で元気じゃなくちゃ、ワタシたちも遊びに行けないね。

さぁ！ピンクを脱ぎ捨てて、日常に戻ろう。

ワタシは肩からかけているマントをヒラリと風になびかせて、それからリンママちゃんのトートバッグのなかに入った。

「ラアコ、ホラ、そろそろ帰るよ。」

ラアコに声をかけると、ラアコはふいっと肩を揺らし、まるでストールも巻きつけられたかのようにワタシの横に抱きついてきた。

さぁ。みんな。
それぞれのおうちへ、自分の居場所へ、帰ろうよ。

フロプシー