わくわく!丸窓電車に揺られて — がびころ旅行記(上田&長野編) その1

「大学前駅」で大量の学生たちを降ろした電車は、身軽になったことを喜ぶかのようにトットコと軽快な走りを見せ、あっという間に終点の「別所温泉駅」のホームへと滑り込んでいった。

通称「丸窓電車」。
おれらが今乗ってきたのは、たった2両編成のワンマン電車、上田電鉄別所線だ。
12:02に始発の上田駅を出発して、別所温泉駅に定刻で到着した今、時計は12:29を示している。
このたった27分間の短いローカル電車が、ギキーと悲鳴を上げながらカーブを繰り返すたびに、おれと旅の相棒、がびちゃんとの距離はぐんぐんと近づいていった。
「そうだ!長野行こう」のひとことで
忘れもしない、3月下旬のこと。
オトモダチのがびちゃんからLINEが来た。
「そうだ!長野行こう。七味買いに!」
立て続けにもうひとつ。
「なぁころすけ、一緒に行こうぜ行こうぜ 善光寺!」
リンくんは無類の一味七味好きだ。長野善光寺といえば、八幡屋礒五郎!わざわざお取り寄せするくらい好きやなやつだ。
七味を買いに行くが先か善光寺が先か、それはさておき、おれはソッコーがびちゃんにこう返した。
「うわぁうわぁ!それ超楽しそうじゃん!以前さ、がびちゃんのおばさんが教えてくれたよね、別所温泉に泊まってーのなんとか観音さんを回ってから善光寺行くって。」
がびちゃんのおばさん、というのはリンくんのニンゲンのオトモダチ、こーたろーおばさんのことだ。
長野県出身のこーたろーさんが、善光寺未経験のおれに教えてくれたんだ。「善光寺へお参りに行く際には、先に上田の別所温泉にある北向観音に行くべし」、と。
おれは居ても立っても居られない気持ちになって、付け加えた。
「わくわく♨」
すると、がびちゃんってば茶目っ気たっぷりな返し。
「温泉だけに…ワクワク?(^^ゞ」
アハッ!
そんなこんなで、おれらは善光寺を目指して一緒に長野へ旅することに決めた。
まだ桜の花がほころび始めたばかりだった。
それから2か月後
「ころすけー!もぉしぃーもぉしぃいい?」
それから2ヶ月後のある日、おれとがびちゃんはLINE通話をしていた。いよいよ具体的な旅程を詰めて、予約しようって話だ。
おれらがキャッキャキャッキャとはしゃいでいるその横で、ニンゲンたちはアレやコレや情報を検索しつつ、1泊2日の上田・長野旅の計画を着実に進めていく。
東京駅で待ち合わせして、1日目は上田観光、2日目に長野市内へ移動して、善光寺参り、という具合だ。上田市内は観光地がバラけているので、貸切の観光タクシーを利用しようという話になった。
本来なら別所温泉の旅館にお泊まりするのが旅情があるってものだろうけれど、今回は観光を優先して上田駅前のビジネスホテルに宿を取ることにした。
「んじゃ、わたしがホテル抑えちゃうね。」
リンくんがそう言うと、こーたろーさんは、
「オッケー、コッチは新幹線の切符予約するよぉー。」
自然と役割分担も決まり、手早い様子。
「あと、上田の観光タクシーも問い合わせしてみるね。」
信州の土地勘がないリンくんのために、申し出てくれたこーたろーさん。ありがたや。
「がびねぇー、ころすけと旅行行くの楽しみなだァーーー!」
「おれも!おれも!がびちゃんと手ぇつないでぇ、上田のお城趾歩くんだぁ。」
エヘヘ!エヘヘ!楽しみだねーぇ!
ポフポフ!ポフポフ!
上田線の切符はなんとQRコードだった

そういえば、始発の上田駅では切符を買うのに多少手こずったんだった。
改札では交通系ICカードが使えないから、事前に切符を買う必要があるのだ。
えーと券売機の前に立ち、うーん・・・現金以外だと何が使えるの?えぇっと・・・?と支払い方法に苦慮して、なんとか購入、発券!
いっそのこと古めかしい厚紙タイプの硬券切符で、駅員さんが切ってくれる懐かしいやつだったらなぁーなんて期待をしたら・・・、残念!
なんとQRコードのついた感熱紙が出てきたから驚く。
「コレは風情ないねぇ・・・。」
ついついつぶやいてしまった。
でも手書きのウェルカムボードがあったり、ホームに日本遺産の案内板が置いてあるあたりは観光客向けのおもてなしが光る。
100年超もの営業を支える最新テクノロジーQRコード。無人駅が多くワンマン運転の上田線を支える大切な仕組みなんだろうなと理解した。


今日は平日のゲツヨービということもあってか、観光客よりも地元民たち、しかも10代後半~20代前半の学生が小走りで続々と改札を抜けていく様子が目立つ。
おれたちもホームへ入ると、すでに入線していた2両の車内は座席が埋まり始めていた。
「あーん、せっかくだから丸窓のところ、座りたいよねぇ?」
こーたろーさんが言う「丸窓」というのがこの上田線の車両デザインの特徴だからだ。
「うんうん、できれば。それから、やっぱり先頭車両がいいなぁー!」
プチ乗り鉄のリンくんも同調する。
ホームの先頭まで行って、電車の顔を撮影し、ミラー越しにも撮り、進行方向の景色を見渡し、それからおれらはようやく電車に乗り込んだ。



「シュッパツシンコー!」
おれとがびちゃんはわくわくする気持ちを抑えられず、ニンゲンたちの腕の中から飛び出た。
「わくわく!」
「別所温泉行きだけに…ワクワク?」
アハッ!それ!それそれ!
「いよいよだね。」
思わずがびちゃんとおれは互いの目を合わせ、そしてうふふふ、と笑い合った。





別所温泉駅と木彫りのクマ
先頭車両(といっても2両しかないが)のさらにいちばん前、運転席の真後ろに位置する回収箱に切符を入れると、おれらは連れ立って下車した。
「ありがとうございましたー。」
若い女性の運転手さんに見送られ、ホームに降り立った。こちらこそ、安全な鉄旅をありがとうございました。

「あぁー!先にドライバーさんにちょっと声かけてくるわ。」
駅の外に停車している白いタクシーを目に留めると、スタスタとこーたろーさんはそちらの方へ向かって行ってしまった。
「リンさんは写真撮ってていいからー!」
あぁりがとぉー・・・と反応するリンくんの声が届いているのか否かは定かでないが、こういうときのこーたろーさんって行動早いよなぁ、と思う。駅前で待機してくれている観光タクシーのドライバーさんに、写真を撮る間ちょっと待っててもらえるようにお願いしに行ってくれたのだ。
上田電鉄別所線の終着駅、「別所温泉駅」。
独特の水色のペンキで塗られた駅舎はレトロ感満載。
その雰囲気は、半世紀を生きるがびちゃんが知る昔のまんま、変わらず残されているのだという。30分足らずの乗車の間、若かりし頃のがびちゃんとこーたろーさんの思い出話を移りゆく車窓とともに聞いていたものだから、なおさら感慨深い。
さてと。せっかくだからじゃぁ駅舎の前でがびちゃんと記念撮影しようかな?って思ってたら、あ!こーたろーさんに抱きかかえられたままアッチ行っちゃった!
がびちゃーん、カムバック!!!
ってもう遅いかぁ…。

仕方ないので、おれはひとりでぶらりと正面入口までまわってみた。すると、リンくんの背の丈ほどあろうかという木彫りのクマがお出迎えしてくれた。
「WELCOME 別所温泉駅」
目元はクシャっとして垂れ目、口角をくいっと上げている。そして、カラダに似つかわないほどの大きな左手を天に向けて突き上げている。

「ン?あれ?そういえば…オレ、今日、木彫りのクマに会うの、2度目だな・・・?」
リンくんに向かってつぶやくと、ン?という顔でおれのつま先からアタマのてっぺんまでをジロジロと眺めてきた。
「あいや、おれだって、カラダは小さいものの、れっきとしたクマだぞ。ガオォー」
「あぁ、三沢厚彦のクマねぇ!今朝、新幹線に乗る前に丸の内で会ってきたやつ。なんか、信州までやってきたら、たった数時間前の東京駅の景色がずいぶん遠く感じるね。」


東京駅でがびちゃんとこーたろーさんと待ち合わせする前に立ち寄ったスタバの近くには、「かの」三沢厚彦のクマがいる。この上田・長野旅の3週間ほど前には、横浜で三沢厚彦の彫刻の展覧会をがびちゃんと観に行っていたのだった。
(がびちゃんと三沢厚彦を観に行ったお話はコチラ → 「がびころ劇場 in ヨコハマ — 『三沢厚彦 棚田康司 彫刻される劇場』でアートさんぽからのベイサイドブルー」)
クマの前で今朝のことを思い出す
クマの前で今朝のことを思い出す。
東京駅の人混みのなか、こーたろーさんとがびちゃんが待つベンチまで会いに行く。
「やったやった!無事に会えた!」とそれだけではしゃぐニンゲンたち。
それから、グランスタ(駅ナカのショップ)をウロウロして、互いに好みのお弁当をゲット。
新幹線ホームに上がれば今度は新幹線の写真を撮ろうと試みるリンくんだが、あえなく失敗。
その後は、JR東日本の車内清掃スタッフさん(テッセイという会社だそうだ。物知りこーたろーさんが教えてくれた。ちなみに、テッセイ=鉄道整備の略らしいぞ)の「奇跡の7分間」を待ち、彼らの素晴らしい働きぶりに感嘆しきり。
それから新幹線に乗り込んで、車窓を眺めて、早めのお弁当を広げて。
あぁ、そうそう。北陸新幹線からも富士山見られるなんて、知らなかったなぁ!







「ころすけのお昼ごはーん(2026.6.22 Mon)」
https://bobingreen.com/2026/06/22/22526/

おれを呼ぶがびちゃんの声
こうやって一緒に乗り物に乗って、買ってきたゴハンを一緒に食べて、それからとりとめもなくおしゃべりをする。
途切れることのないコトバ。声。笑顔。
なんてことのない瞬間が、全部、繋がっている。
すべての記憶と体験が、ゆるく繋がっている。
それはまるで、マインドマップのように。
コッチからアッチへ連想したり、アッチからソッチへ記憶を深堀りしたり、それから、アレ?コレってまたソレに逆戻りしてつながるよね、そんな感じ。
時系列も因果関係もへったくれもない。
アッチ、コッチ、ソッチ・・・ドッチ?!
でもね。繋がってるんだ。
あの日、逗子の披露山公園から見た富士山と、北陸新幹線から見た富士山。
興奮したベイサイドブルー(横浜で乗ったバスのことだ)の大きな右カーブと、信州の田舎道を走る別所線の急カーブ。
今朝見た丸の内のクマと、今目の前にいる別所温泉駅のクマ。それからもちろんKAAT(神奈川芸術劇場)で観たクマも。
「呼ばれてるよなぁ・・・。」
そう思ったときに、向こうから声が聞こえた。
「こぉろぉすぅけぇー!行くよー?」
文字通り、おれを呼ぶ、がびちゃんの声だった。
自分の名前を呼ばれることが、うれしい。
がびちゃんに、こうやって親しみを込めて呼んでもらえることがうれしい。
すべての記憶と体験と、それから、感情も、ゆるく繋がっている。
そして、そのマインドマップは少しずつ大きく、立体的になってゆく。
友情を育むって、そういうことなのかもしれない。
おれは、がびちゃんの小さくて柔らかな手を思い出して、腹の底から大きな声を出した。
「がぁびちゃーん!今、そっち行くよ!」
そしてそっちに着いたら、おれはそっとがびちゃんと手をつなぐんだ。
するときっとがびちゃんはこうやってくれると思うな。
ポフポフ!
ポフポフ!
おれはまだ駅舎に向かってしつこくカメラを向けているリンくんを駆り立てるようにして、がびちゃんとこーたろーさん、それから観光タクシーが待つ駐車場へと向かった。
このあとおれらは上田タクシーさんにお世話になり、それはそれは濃いぃ贅沢な3時間を過ごすことになるのだ。
続きをお楽しみに。
(その2 に続く)
ころすけ


【おまけ 1】上田電鉄別所線 初期の旧型車両
ちなみに、駅舎を出ると、役目を終えた旧型車両が保存展示されていた。
「モハ5250」、初期の上田電鉄別所線の車両だという。大きな特徴である丸窓は現在の車両デザインでも引き継がれているんだって。



【おまけ 2】リンくん、電車撮り下手すぎ!
先に言っておこう。うちのリンくん、カメラ歴は四半世紀以上。
しかし・・・
「ねぇ・・・、新幹線がうまく撮れない!!!」
東京駅で入線してきたおれらが乗る東京駅9:44発「あさま607号」。
こーたろーさんは乗り物撮りを趣味としているから、もちろんバッチリなのだけれど、一方でリンくん、焦ってぎゃーぎゃー言っている。
「スッ・・・スマホだからだもん!」
オイ、道具のせいにするでねぇ!
というわけで、カッコいい新幹線の写真は撮れなかったのであった。

「がびころ劇場 in ヨコハマ — 『三沢厚彦 棚田康司 彫刻される劇場』でアートさんぽからのベイサイドブルー」
https://bobingreen.com/2026/06/19/22234/
「くまくん!くまくん!くまくんくん! ― ライオンボブ家、オトモダチに会いに海が見える町へゆく その1」
https://bobingreen.com/2025/06/20/14377/
「がびちゃんの秘密とくまくんの生い立ちと、それからそれから ― ライオンボブ家、オトモダチに会いに海の見える町へゆく その2」
https://bobingreen.com/2025/09/05/15969/
「鈴の音色を月の輪に揺らして ― ライオンボブ家、オトモダチに会いに海の見える町へゆく その3(完結編)」
https://bobingreen.com/2025/11/22/17674/

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